第17話
あれから数日。私は自室でぼんやりと天井を見つめていた。
中学なので停学なんてものはないけれど、似たようなかたちで私の登校は来週にまで持ち越された。
昨日か一昨日か、母さんが学校に行っていたから、どうせ山口家がまだグダグダと言っているのだと思った。謝罪に行って納得したようだったのに、他に何を求めているのだろうか。大人はわからなかった。
いつも休みの前にはしっかり予定を立てていたので、いきなりこんな連休をもらうと何をすればいいかわからなくなる。休んでも一日くらいだと思っていたのは、甘かった。
クラスはどうなっているだろう。
あれだけ啖呵を切れば実夕に山口さんを含め何かをする奴はいないと思うけれど確認のしようがなかった。実夕の家以外連絡先を知らないし、そもそも私はスマホを持っていない。
そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされ母が入ってきた。私は返事していないのでノックの意味がない。
「清佳、プレゼントあーげる」
まさかスマホ、なんて期待したのも一瞬で、母の手には白い封筒があっただけだった。
「なんか顔が残念がってない? まだ中身見せてないでしょ」
「別に。なにそれ?」
「なんか当たったみたいでさ、さっき届いたのよね」
嬉々としながら母が封筒から取り出したのは、黒い布の栞だった。長方形の頭には布の紐がついていて、どこにでもありそうな栞だ。しかし、黒い。紐から何まで真っ黒でデザインした人の正気を疑うシンプルさだった。
「なんか気持ち悪いなぁ。懸賞かなんか?」
「そ。厳正なる抽選の結果当選したって。まぁ手当たり次第そういうの送ってるから覚えてないんだけどね」
母のそういう適当なところにため息が漏れる。私だったら出した懸賞は当選結果の時期と合わせてメモするけどな。
「あんた、原色よりモノクロの方が好きでしょ。服、地味だもんね」
「悪かったな」
私は悪態をつきながらも母から黒い栞を受け取った。
手に取った瞬間、何か違和感があった。とても布きれとは思えない重量を感じたと
思ったら、栞の黒色に身体ごと吸い込まれていくような錯覚に襲われた。けれど不思議と恐怖はなかった、いや無いのではなく感じることが出来なかったのかもしれない。そう、まるで感情を失ったその先にある虚無へと誘われるような。
これは、死?
「清佳?」
母に呼ばれてハッとする。本当に一瞬の出来事だった。気付くとそれはやはりただの黒い栞で、自分が何を感じたのか曖昧になっている。急に寝起きの状態になったそんな感覚だった。
私は軽く首を振って意識を覚醒させる。ありがとうと告げると、母は満足そうに部屋を出ていった。
私は特に気に留めることはなく栞を机の上に放った。
窓の外を見ると、まだ日は高く一日はまだ終わりそうになかった。時間が経つのが遅い。画家の娘にしては絵が下手だと親戚中から言われていた屈辱をふと思い出したので、これを機会に絵でも描いてみるか。
私は立ち上がり、道具が全て揃っているアトリエへと向かう。
机の上の栞を忘れずにポケットに入れて持ち出した。
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