第14話

 そして夕方、私と母さんは山口家へ謝罪しにいった。

 

 高級住宅街のなかにある一際、大きな豪邸はうちの武家屋敷とは違った貫禄がある。車庫には二つの高級車が並んでいてその奥にも車があった。あの奥の車はどうやって出すのだろうと、思いながらインターホンを押して玄関へと招かれた。


「お久しぶりね、朝宮さん」


 山口母の第一声は、皮肉たっぷりで、母さんは「そうですね」とさらりと受け流していた。

 そんな挨拶はそこそこに、私たちは頭を下げて謝る。てっきり訴えるとか莫大な治療費を請求するとか言われると思ったのに、山口母は大事にするつもりはないみたいだった。買ってきた菓子折もしっかりと受け取ってくれた。


「いいのよ。娘もたいした怪我じゃなかったし、子どもの喧嘩だものね」


 私たちは頭を上げると、母さんは外面全開の口調で言った。


「そう言っていただけると助かります。もちろん、治療費はお支払いしますので」


「あらあら、結構ですわ。シングルマザーのお家からお金なんて請求できないもの」


 一転して雲行きが怪しくなってきた。平和的に終わるかと思いきや、山口母の顔はドラマの悪代官のような笑みになっていた。


「あ、でもお金はあるのかしらね。ご主人が残した絵がたくさんあるのでしょう? 惜しいわよね、才能があったのに」


「ははっ、人間いつ死ぬかわかりませんからね。山口さんもお身体にはお気をつけください」

 

 すでに私の話とは関係ない悪態にも、母さんはさらりと流してみせる。


「ご主人はまだお留守ですか? 是非、ご挨拶をさせていただいきたいのですが」


「主人はまだ仕事です。いたとしてもあなたに顔を合わせるわけないでしょ」


 母さんは「ですよね」とわかっていたように淡泊だった。どうやらよほど嫌われているらしい。

 もっと罵倒されて嫌な思いをすると思っていたのに、山口家への謝罪はそれで終わった。


 しかし、最後まで山口さんは姿を見せなかった。

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