第2話
中学校に進学した春、私の心は高揚していた。
初めて袖を通すセーラー服に、新品の鞄と教科書、真っ白な上履き。
新しい場所での新しい生活というのは、見えない不安以上に楽しみがあった。このあたりの地域では岡山小学校と大和小学校の二つが神尾中学校に集まる形になるので、クラスに知らない人ばかりという風にはならない。
私が通っていた岡山小学校、岡小も私立に行ったのは全体の三分の一程度と聞いていた。大和小も同じようなものだろう。まぁ割合など私にはどうでもいいことなのだが。
入学式当日、昇降口で渡されたクラス名簿を見ると、やはり知っている名前が随分多かった。目新しさの無さに気分が削がれる。
私には学校では特別、仲のいい子はいなかった。
誰とでもそれなりに話すけど、学校の外で遊んだりということは数えるほどしかない。高学年に入ってからは一度もないだろう。
原因は当時流行っていたなんとなく誰かを無視するというくだらない遊びだった。
私が属していた六人のグループにはリーダー格の仕切りたい、目立ちたい、私は可愛いという子がいて、その子がうちのクラスで始めたのだ。
最初はこんな遊びもあるのかと適当に流していたけれど、そういうのは決まってエスカレートするものである。
これはもういじめでしょ、という段階で私はそのグループを抜けた。
無視されたターゲットの子には積極的に話しかけ、私が対象になったことでその遊びはなくなった。結果、私は孤立したけど構わなかった。ひとりは好きだったし、別に孤独になったわけでもなかったから。
あのリーダー格の子がもっといじめらしいことを私にしてくれれば、逆に叩きのめしてやったのに、無視するだけで何もしてくることは卒業までなかった。
私が怖かったというより、あの子は私とは関わりたくない思うレベルで嫌いなだけだったと思う。
一緒にいたときからずっと、私だけがあの子を女王様として扱わなかったから。
名前は、なんだったかな。中学は私立に行って無事に合格したと聞いたから、きっともう死ぬまで会わない。
そうやって会者定離を繰り返す人生か。
なんて中学生がいったら大人に笑われるかな。
私は靴を履き替えながら、さらに名簿に目を通していく。
四クラスで一クラス三十人弱といったところか。一昔前は、名簿は男女別々に記載らしいけれど今は男女混合で分かれていなかった。見にくいったらありゃしない。男女平等とか多様性とか別に構わないのだけれど、子どもには同性で誰が同じクラスなのかを知るのはKーPOPアイドルの名前を覚えるくらい重要なのだ。
迷惑千万だと思う女子はさぞ多いだろう。私は見にくさだけでそこまで批判はしないけれど。
ざっと見たところ、女子に限れば私の小学校の方が少なかった。
普通の子なら人生どん底だろうが、知らない子が多いのは有り難かった。気が合う子がひとりでもいればいいのだけれど。
そんな気持ちで名前を一つ一つ確認していく。
そこで一つの名前が眼に止まった。知っている名前、でもそれは嬉しさよりも疑念の方が勝った。
これは一体、どういうことだろう。
私は急ぎ足で教室へと向かった。
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