第1話

 信念を持て。それは私の死んだ父の口癖だった。

 信念を持って生きろ。それが人の強さになるからと。


 私の人格はそんな父に多分に影響されたと思う。幼少の頃から人に合わせることが苦手だった。女の世界では特有のお揃いのシュシュを買ったり、たいして仲良くもないのにつるむのが嫌でたまらなかった。

 好きなものは好き、嫌いなものは嫌いでいいだろうと小学生の半ばくらいには当然のように思っていた。

 

 一応、擁護しておくけれど、思ってはいてもあからさまに態度に出すことはしなかった。そういう意味で男子より女子の方が組織での立ち回り方が上手いのではないかと思う。女子は早く集団での立ち位置の作り方を学ばなければ、容易く仲間はずれにされる世界なのだ。


 私と父が違っていたのは、そういう外面を作れたかどうかにあった。

 高名な画家だったあの人は、典型な人嫌いで社会に弾かれる人だった。母と出会ってなければあの人は到底生きていけなかっただろうなと今でも思う。いつもアトリエに籠もっていて、無口であんまり笑わなくておしゃべりした回数は数えるほどだった。

 そんな父が私に教えてくれたことは、一つだけ。


 私にとって、信念とはなんだろうとずっと考えた。延々と考えてようやく固まったのは小学五年生のときだ。

 まぁ信念形成に大きく関わったあの出来事をきっかけに、私はクラスで孤立を深めてしまったわけだが致し方ない。

 私の信念は、卑怯なことは許さないというものだったからだ。


 これが信念だという軸が出来てからは、生きやすくなったともいえるし、生きづらさも感じるようになった。

 ただいえるのは卑怯なことをしてる奴がいて、その結果誰かが傷つくのならば、どんな相手だろうと尻込みなんてするつもりはなかった。

 

 大切な人が泣いているなら、なおさらだ。

 その結果、死の呪いをかけられようとも。

 

 なおさら、である。

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