告白されたと思ったら、ただの悪口だと思ったら、告白だった件について。

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告白されたと思ったら、ただの悪口だったと思ったら、告白だった件について。


『すいません先輩、こんなところに呼び出して』


「別にいいけどさ。でどうしたの?」


『先輩! どうしても先輩が卒業する前に伝えたいことがあったんです。』


 桜のつぼみが膨らみ始め、いよいよ卒業式が一週間前に控えたある3月の日。

 俺、佐々木ささきすぐるは一年で引退前まで同じ部活の後輩だった女子、宮本みやもと愛佳あいかに呼び出されて、普段から生徒立ち入り禁止の屋上に来ていた。

 そんな矢先彼女の口からそんなことが告げられる。


 まさかこれは告白なのでは?

 期待に胸が高まる。

 もしかしたら思い違いかもしれない。

 でも俺の胸の鼓動はどうしようもないほどに激しく脈打っていた。


『私………』


 その先の言葉が気になって仕方がない。

 少しソワソワしてきた。

 でもそれを感づかれまいと必死に気持ちを抑える。


『ずっと前から…………』


 これは告白の常套句だ。

 恐らく告白だろう。そう思うと高鳴りが止まらない。


『先輩のことが…………』


 もうこの先の言葉を聞きたくてしょうがない。


『佐々木先輩のことが……………』


でした!』


 ん~~?

 あれ~~? なに?

 ただの悪口?


『先輩、どうかしたんですか?』


「いや、どうかしたんですかじゃなくて、え? え!? 言いたかったのそれ? そんなことをわざわざ伝えるために俺のこと呼び出したの!?」


『はい。そうです。先輩のこと嫌いって伝えるためにここに呼び出しました』


 えっと……俺が変なのか?

 いやいや、あの雰囲気で悪口ってなに?


『ずっと伝えられなかったので、今日やっと伝えることができてスッキリしました!』


「いやさあ、君はスッキリしてるかもだけど俺はめちゃくちゃモヤモヤだよ? 性格も何もかもよくて優しい子だと思ってたけど本当はずっと俺にそんなこと思ってたの!?」


『はい! 入部してきた時から妙に先輩風を吹かせてきて正直うざかったです!』


「そこまで言わなくてもいいじゃんか。俺流石に傷つくよ?」


『それに何もかも平凡でこれといった取り柄のない先輩と違って…』


 もうめちゃくちゃい言うじゃん。

 俺のメンタル死にそう。


『私ってインフルエンサーで学校でも世間でもそれなりの注目を浴びていて、成績も常に学年一位。それでいて陸上部でも地方大会まで出場できるレベルですよ? 絶対につり合ってないって内心思ってました。』


 本当にもうやめてくれって。

 こんなの俺ボロクソじゃんか。


『でも周りの目とかがあるので、正直イヤイヤ先輩を慕ってるフリをしてました!』


 そんなことノリノリで言わないでくれる?

 こっちもどうしたらいいか分からないんだよ。


「もういいから、やめてって。君が俺のこと嫌いなのはいやなほどわかったからさあ……」


『片や高嶺の花、片やTHEモブみたいな空気みたいな存在、ただ大体の人間としての組成が同じだけの存在。それなのに毎回毎回私に笑顔で挨拶とか声とかかけてきて本当に何様ですかって感じでした。ほかの人たちは控えてますよね?そんなこともできないんですか?っていつも言いたかったです』


「うん、俺告白続けていいって言ってないよ?」


『「ちゃん」をつけるな! むしろ「様」をつけろよこのゲス野郎。って思ってました』


「もうお前が俺のこと嫌いってことは十分理解したから! もういいよ。せっかく俺は愛佳のこと好………………」


『だから先輩、私は先輩のことが……………』


「もういいって! 俺をこれ以上傷つけないでよ!」


『佐々木先輩のことが大っ嫌いでした!』


「それさっき聞いたって! もういいよ……俺帰るからね?」


『先輩! ちょっと待って下さい!』


「いや、俺待ちたくないんだけど………」


 どうせ待ってもボロクソに言われて最悪俺の精神が死ぬだけだし。

 ……あーあ。引き留められた。

 なんで引き留める必要あるの?

 悪口なら俺じゃなくても友達に愚痴ればいいじゃん……

 なんで今伝えてくるんだよ。

 個人受験控えてるのに最悪だよ!


『私は……………』


『先輩のことが……………』


『大っ嫌いでした!』


「それ……三回目………」


 何回いうんだよ!

 こっちのメンタルを弄んでそんなに楽しいか!

 どんだけ性格悪いんだよ!!


『先輩、だから私と付き合ってください!』


「ん? え? ん? え? ちょ、え? どういう事? は? え? …………ごめん、全く理解できない。いや、え? やばい頭がおかしくなりそう。普通に考えて大っ嫌いでしたの後に付き合ってくださいは続かないじゃんか。ヤバい全然理解できない」


『私……実は自分が卑下されたりすることが大好きなんです』


 え? この状況で性癖打ち明けられても困るんですけど。

 そんなこと言われても余計に混乱するだけなのだが……もう頭馬鹿になりそう。


『だから私が先輩と付き合ったら私のセンスを学校のみんなが疑って、それで私のことを卑下すると思うとすごく興奮するんです!』


 その情報いらない。


『それに私みたいな人が先輩みたいな平凡な人と付き合えば、きっとSNSでの炎上間違いなしです! ゾクゾクしてます!』


 ……このまま聞いてたら俺までおかしくなりそうだ。

 こいつは頭がおかしい。

 うん。ならいいか。

 もう帰ろう。


『それに、先輩みたいな人と一緒にいたらスゴイ嫉妬の視線が向いていますよね! それが楽しみでしょうがないんです!』


「あのさ、俺別に告白受けるとは言ってないし、オッケーするって言ってないよ?」


『どっちにしろ私の勝ちです。もし私が振られたら先輩に振られたことを学校中に言いふらします』


「それ脅してるの? 流石に君がそんなことするとは思わなか……」


『そして私は学校中のみんなに先輩みたいな人に振られたという悪評を得ます。よって私は虐げられます。つまり先輩が振ろうが振らまいが、私の勝ちです!』


 もう嫌になってきた。

 何コイツ。ふざけてるじゃん。

 これマジで言ってる?


「本当に意味分かんないんだけど」


 キレてる訳じゃなくて混乱する意味で。

 いや、キレてるんですけどね?


『先輩! 私を振るか、振らないかどっちなんですか!』


 いや、よくわかんない。

 何をもってコイツは俺に告白した?

 別に俺に告白しなくてもコイツの性癖をただ自白すればそれなりに望む形になるのでは?


「それならお前の性癖みんなの前で赤裸々に言っちゃえばいいじゃんか」


『それは将来に影響があるかもしれないので嫌です』


 何で妙なところで現実的なんだよ。

 じゃあさっきの告白のとき『大嫌いでした』って言わなくて良くない?

 これ俺が一方的にダメージ受けてるだけじゃん。


『先輩! ちゃんと告白したんですから答えて下さい!』


 ……このまま逃げよう。

 多分それがいい。


「いや……急に予定ができちゃって……」


『先輩! 逃げるな~~!』


 結局、その後の個人受験は散々な結果になった。

 一応補欠で最終的には合格はできたものの、あの一件が俺のある意味でのトラウマになっているに違いない。


 事実、コイツは諦め悪いのか貶されたいのか分からないが、アイツの学力帯から下目の俺の通大学にまで付いてきて俺に振られたらことを言いふらしているのだから。

 全く。有り得ないほど迷惑極まりない話である。


 そして月日が経って、俺が大学から無事卒業する日また何度目か分からない呼び出しをされた。


『私、ずっと……伝えたいことがあったんです。』


 うん、だいたい分かってる。

 どうせ大っ嫌いでした。だろ?


『私はずっと……』


『先輩のことが……ずっと……』


『大っ嫌いでした! だから私と付き合ってください!』


 何度聞いても理解できない。

 これで同じ告白を聞くのは60を超えた。

 本当にわけわかんねーよ……


 この告白流行ってるの?

 そんな噂聞かないけどな……はぁー。

 弄ばれてんな! 俺……

 振られて喜ぶ奴なんていないと思ってたよ! 




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