八章 神々の飲み会(ヘルメス視点)197話

 最近、若いのがやたらと飲みたがる。特にアクアを中心としたグループ。アクアが可愛がっている人の子「レイシア」がいろいろやるたびに、それを肴に宴会を始めるのだ。長かったのはヤツのメインホームでの女神祭りの時じゃったが、それ以外でもことあるごとに飲み始める。最近はなんだ、レイシアが役人の不正を暴いた時じゃったか。あの時は確かに盛り上がったものだが……。


「あんたたち! レイシアはあたしが育てたんだからね! 勝手に引き抜かない!」


 アクアが叫んだ。もはや常套句じょうとうくになっておるな。


「だってよ~、あんな面白い子放っておける訳ないじゃん。ほらねーさん、酒!」

「あ・り・が・と! 気が利くねえ」

「じゃあ、かんぱーい」


「待てい」


 儂は2人の乾杯を止めた。


「なんだよ」


「お前ら、今日ここにレイシアが来るのが分かってて来たんじゃないのか?」

「ん? だって用があるのはおっさんにだろ。飲みながら嬢ちゃんとおっさんを見物しようと集まったのに」

「なんだと。それからおっさん言うな」


「そろそろほかの連中も来る頃なんだけどな」

「まだ来るのか!」

「そうよ~。ヘルメスが何をやらかすのか飲みながら見物しようって企画だから」


 お前ら、何を考えているのだ。あきれてものも言えなくなった儂の目を盗んで2人は酒を飲んだ。


「飲んじまったら一杯も二杯も同じだろ、おっさん。ま、ちびちびやるに留めとくからよ」


 そうこうしてるうちに、カクヨームとマルスもやってきた。


「飲み過ぎたら叩き出すぞ」


 儂はそう言うと、飲みだしたヤツら放っておくことにした。



 そうこうしているうちに、レイシア達がやってきおった。グラス片手にこいつらときたら神殿の様子を見ていた。


「じゃまだ。どけ」


 儂は中央にかぶりつきで見ていたカクヨームをどかすと、中央の神殿がよく見える場所に立った。


 レイシアが聖詠を唱える。儂はその言葉に聞きほれる。酒を飲んどる奴らも、聖詠に酔いしれている。カクヨームが思わず祝福を与えようとしたのを、マルスが止めた。


「むやみやたらに祝福をかけるな。問題になるぞ」


 公式に祝福を与えられるものは儂とマルスだけ。ささやかな祝福は皆与えておるが、それは大きく影響を与えるようなものではない。儂は特許、マルスは魔法という、人間世界に大きな影響を与える祝福をかけることを許された。許されたというより認めさせた。カクヨームは若い。それに以前人間に関わり過ぎた。あちらこちらから目をつけられている。今は儂とマルスの庇護下にいるようになったので大丈夫だが、やらかしが激しくなるとかばいきれない。


 レイシアは、何も起こらないことに驚いていた。「これが普通だ」という祖父の言葉にそうなのかとうなずいていた。



「ふーむ。パンをふわふわにする方法か。これは素晴らしい。どうだ、皆の衆」


 捧げられたパンを皆で食べながら儂は聞いた。


「「「異議なし」」」


 もう一つは……。どういうことだ? よく分からん。


「あれだな。このパンを出す店の営業方針を認めろという事だ」

 マルスが言う。服装を変えて給仕をするのが特許に値するのか?


「おっさんの固定概念ではわからないのさ」

 バッカスが儂をからかう。


「僕は行きたい」

 カクヨームも言い出す。


「どーでもいいから、私のレイシアに許可出しなさい!」

 酔った口調でアクアが詰め寄る。


 儂には分からんが、こいつらの期待が怖い。まあ嬢ちゃんの案件だ。悪いようにはなるまい。


 儂は許可をすることに決めた。



「じゃあ、改めて。かんぱーい」


 アクアが気分良さそうに儂に酒を注ぐと乾杯をした。

 今日はいい仕事をした。


 宴会は、レイシアの話が中心となり、夜遅くまで続くのだった。

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