第二部まとめ

六章 神々の祭り(二日目)165話

「ほーら、ほらほら見なさい!」


 私は、空のグラス片手に高ぶった気持ちを同僚に押し付けていた。


「ほら、わたくしのために孤児たちが聖詠を! しかも私のための、水の恵みの聖詠を朗読しているのよ。羨ましいでしょ! はっは~」


「落ちつけアクアよ」

 年上のヘルメスがいさめようと声をかけた。


「けっ、羨ましくなんかねーぜ」

 バッカスが嫌そうな顔で言う。


 ほら見なさい! いま、私のために聖詠を唱え、讃美歌を歌い、聖書でお芝居を作る。そんな信仰心を持った祭りがどこの領地にあると思う? ここよ! ここにしかないわ! うちの領民たち最高よ! 


「すげーな。ここまでするなんてよ」

「確かに。儂もここ何百年みたことがないな。はるか昔の祭りのようだ」

「ホホホホホ! あんたたちなんて感謝もされずこき使われているだけじゃない! これよ! これが神と領民の正しい関係よ! えいっ!」


 思わず祝福を与えてしまった。大丈夫たいしたことはしていない。霧雨降らせて虹をかけただけだ。


「「おいっ!」」


 ツッコまれたよ。いいじゃないこれくらい。私の感動はこんなもんじゃないのよ!


「やらかしたな」

「あんたに言われたくないわよヘルメス。特許申請の時のあんたの方が派手だったじゃない」

「そりゃそーだな」


 バッカスが笑いながら言い切った! そうよ、大したことない!


「ううぅ。儂は場所人数は限定していたんだ。こんな大勢にあたえてないぞ!」

「「でも、声かけてたじゃん! 目立ってたよ」」


 わーわー言い合っていたら、もう一人、やらかした過去を持つ神が混ざってきた。あれはカクヨームね。


「なんか、楽しそうなことをしてるようだが。宴会か?」

「呼んでないわよ、カク・ヨーム」

「やらかし仲間がまた来たぜ! アクアにじーさん。俺はやらかしてないからね~」


 バッカスが私たちをからかった。人間に直接コンタクトを取るのは、禁止はされてないが取らないのが暗黙の了解となんだけど……。仕方ないでしょ! これだけ讃えられたら!


「そーいや、カク・ヨーム。お前人前で話すときあんな口調なのはなんで?」

 バッカスが、さらにカクヨームをえぐる。


「えっっっ! それはその、偉そうにしないとなんていうかありがたみがないじゃん。ヘルメスのじーさんの真似をしたら偉そうじゃない? ところで、うまそうな匂いと、神聖な波動を感じたんだんだが、何やってるんの?」


 笑いながらバッカスがグラスを渡しながら説明した。


「一番いいとこ終わったんだが、こいつのために歌とか聖詠とか領民の子供たちがやってたんだよ」


こいつってなんだクソガキ! でもいいわ。私は今最高に幸せだから。


「聖詠を読む? うちの信者にも読むやつ何人かはいるが……。そうか。今時聖詠か。凄いな」

「そーでしょ。私のための聖詠よ。水の幸を讃える詠唱。聖詠を唱えなくなってもうどれくらいたったと思うの。あなた達だって、聖詠の詠唱に我慢できなくてやらかしたんでしょ。バッカス、あんたもね、聖詠で讃えられたらこうなるのよ。絶対にね」


 みんな黙ってしまった。そう。私たちは異端。なんで? 大昔はこれが普通だったのに。本来、私たち神を讃えるはずの教会が、私たちの教えを曲解させてから人と神の関係が遠くなった。人と触れ合いたくない神が主流派になった。神と向き合わない人々が主流になった。


 私たちは神の中では異端。でも、私はこのターナーの領民達が大好き! ここにいる神たちもそう。みんな人が好きな変わり者よ!


「なに湿ってんだだよ! お前らがやらかすのはいつも通りだろ! まあ飲めよ。ほら、アクアのねーさん、食い物配れよ」


 バッカスが酒を汲んだ。そうね。今はお祭り! 楽しまなきゃ!


「ほらみんな、私を讃えなさい! 私のために様々な料理が奉納されたのよ。今日は無礼講よ! 好きなだけ飲んで食べればいいわ!」


「「「かんぱーい」」」


 景気よくグラスを飲み干した。みんな幸せになろうね。


 神も人も、通じ合える未来が訪れますように。




 ずいぶん経ってから、やらかし組の最後の一人マルスがやってきた。こいつは人に魔法を授ける変わり者だ。契約を授けるヘルメスと魔法を授けるマルス。人との関りが激しすぎる2人が揃った。


「仲間外れはやめようよ!」

「おや、伝えてなかったかのう」


 ヘルメスが、赤い顔でこたえた。


「いつも仲間外れじゃないか」


 そんなことはないが、脳筋はめんどくさい。ついつい忘れるだけ。


「まあ飲みなさい。私のために」


 マルスを迎え入れて、宴会は続く。領民達も夜通し盛り上がってる。


「俺だけやらかしてないのもしゃくだな」


 酔っぱらったバッカスが、「えい!」と祝福をかけた。


「「「なにをしたの」」」


「たいしたことないさ。明日の朝まで酒樽が空にならない祝福を与えただけ。酒切れたら領主の恥だろ」


 最高! よくやった! 私はバッカスを抱きしめ頭をなでた。


「やめてよ! 胸が! あっ」


 バッカスは、酔ったのか顔を真っ赤にしながら私から離れた。


 今夜は飲むぞ~! 祭りだ祭りだ!!!

 人も神も幸せでありますように。

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