エピローグ

「結局、天使は何をしようとしたんだ? 出てくることは大方予想どおりだったが、あんまり元気がなかったつうか、変な感じだったよな?」


 マスターは夕食の準備をしながら、カウンターにいる全員に話しかけた。


「オーラジオ。 君はわかっていないようだね。世界の膿から天使が出てきた。 これは世界初の事象だ。 いよいよ我々と天使の全面戦争がはじまるというわけだ」


 ミティアは紙を広げ、一心不乱に絵をかき込んでいた。


「なぜ口から出てきたのか、なぜ膿から出てきたのか。その仕組みを解き明かせば国王はさらに禁書の閲覧を私に許してくれるだろう。 んぐふふ」


「確かに王様にはちゃんと報告しないとな…… ってこの店を後ろにして、お前ら王様の前に行けるのか? 店は直すにしても、星は完全にいかれてるぞ」


「私の畑も、もう一度、耕さないといけませんね。 まだまだ、仕事は終わらないようです」


「そんなことよりも諸君、私の天才的な発明、ホンスーン第四式弐連死気体編成、これを目の前にして、なぜもっと血が騒がんのだ。 これがあれば中層、そして、未開の下層までも、探索可能だ!」


 竜を討伐してから三日後。ミー二たちは完全に崩れた酒場に集まっていた。

 ロウロの世界を完全に修復した後、ミー二とダージーンは村人のところへ一人一人、挨拶をしながら、修復作業を行っていた。 そして、記憶、意識が戻った村人はミー二たちに感謝して、酒場の修復作業を手伝ってくれることになっていた。

 今日は、スルイスの村人が全員元通りになったので、村の食材を寄せ集めて、全員で宴会をすることになっていた。


「久しぶりの本業。 接客が一番私が輝く場所! さぁさぁ皆さんお好きなお酒、食べ物なんでも言ってください! ホンスーンはお客様が望むものを完璧に提供して見せますよ!」


 あつまった村人は百人を超えていたが、その百人をミー二とマスターは二人で捌いていることにダージーンは驚きを超える感情を抱いていた。


 宴会の熱が少し収まり始め、子供たちは家へと帰っていく。


「ミー二。 今回は本当にありがとう。 私は騎士としての力を失ってしまったが、この島を護るために鍛えなおすつもりだ。 ……君と出会わなければ私は腐ったまま、何もしなかっただろう……」


 ダージーンは右手を差し出して、ミー二に感謝を伝えた。


「店が直ったら。 行くのか…… まだ出会ってほんの数十時間というのに寂しくなるな……」


「それが移動酒場のいいところでもあって、つらいところなんだよね。 私も大切な人がいる。 その人を探しに行かなくちゃいけないの。 ……まぁ、その前に王国に帰って、王様に今回の事を報告しないとね。 だいぶ待たせているから」


 ダージーンは少しほほ笑んだ。


「私たちの出会いはあの子…… ロウロのおかげだから、出会いの感謝ならあの子に…… そして、あなたは使は力を失ったかもしれないけれど、新しい力を手に入れて入るはずだよ。 私たちと同じ、心の世界…… を」


「ゼロ世界…… 君と同じ力を私が? 一体いつ……」


「私、実はあなたの剣に術を仕込んでいないんだ。 それでも、竜から世界を斬り別けることができたんだよ」


「そうだったのか。 確かにいつ仕込んだのだろうと思っていたんだ」


「竜と戦う前に、自分が竜を斬る姿を想像したんじゃない? それが、ゼロ世界の力。 人の想う力だよ。 引き金になったのはロウロ。 あの子の為にいろいろ考えて、考えて、考え抜いたから使えたんだ。 その最初の気持ちを忘れないでね。 ずっと力になってくれるから……」


「本当にありがとう。ミー二。 いつか何かの形でこの恩は返そう」


「だったら明日から店の修復作業を手伝ってもらおうかな、同時に術の使い方も教えてあげるよ」


「わかった。よろしく頼む。 ありがとうミー二」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クロマチック・クローバー ~人心喰らいの竜狩り~ 鴇色 大葉 @yohchance

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ