第5話 騎士ダージーンー④

 ミー二は自己紹介を終えると、ダージーンの体を抱えながら、座るのを手伝ってあげた。


「この部屋暗すぎるよ。 もう少し明るくしてもいいかな」


 ミー二はグラスを用意して、黄色の紙を同時に複数枚に火を点けるとグラスの中に入れた。


「君は…… 天使と戦っているだと…… なぜそんなことをするんだ? あの方達は世界そのものなんだぞ」


 ダージーンは息が乱れながらもミー二に質問をした。ミー二はもう一つ布でくるんだグラスを用意して、大きな袋から水筒を取り出すと、水をグラスに注いだ。


「使命は進むべき道。 運命は幸福な結末…… 平らな世界が割れて、階層世界となった原因。 勇者の消失…… 世界の中心たる勇者が戻るその日まで、天使が人々に使命を与え、世界の調和を保つ。どの階層でも当たり前の常識。 でもね、それは結局、支配の形が変わっただけなんだ。 人を殺したり、自分で死んでしまうような使命がある以上、それは受け入れられない。 大嫌いだ。 ……っていうのがうちの国の方針なんだ。 ……別に奴らの全部を否定するわけじゃないけど、邪魔をするなら反抗する。 どんな生き方をしても良いってね。 ……あなたは少しも疑問に思ったことがないの?」


 ミー二はグラスをダージーンに差し出したが、ダージーンは受け取らなかったので、ミー二は水を飲みほした。


「私は使命を授かった騎士としてこの島を訪れてから不満は何一つなかった。 この剣を天使から授かり、迫りくる魔物を使命に従い討伐していた。 ただ、使命以外でこの剣を使うことはなかった。 それが天の指し示す道ならと私は剣を納めて、傍観していた。 世界とはそういうものだと思っていた。 だが、あの竜が現れた。 あの竜は人を食らわず、ただそこにいるだけで、命を、心を蝕んでいた。 そして初めて私は使命に逆らった。 この剣を人々の為に使わせてほしいと。 ……そう願った。 ……その時、天使は私に言った。 『救っていい命かどうか、お前に判断できるのか』と…… 私は何も言い返すことができなかった。 私は今まで自分の力で人を救っていなかった。 その事に気が付いた時、私は強い不安感に襲われ、剣を抜くことが怖くなった。 自分の覚悟の無さを痛感した。 いくら頭の中で描いたとしても、筆を動かさなければ絵は完成しない。 私はその程度だったんだ。 そして、ここに……」


 ミー二はダージーンの独白を黙って聞いたのちに少し考えてから独白に答えた。


「私の人助けはね、あくまで仕事。 ちゃんと対価を貰うことを前提に人を助けている。ご飯をつくって、お金をもらってる。 私たちはそれが正しいと思ってやっている。 相手が子供でも大人でも同じように契約する。 私たちは救うんじゃなくて、助ける。 一方的なものじゃなくて、対等の立場で力になれるように努力する。 横並びで助け合える環境を作りたいっていうのがうちの王様と店の方針。 ……この『階層世界』では色々なことが、使命によって決められる。 救われる命、見捨てる命がきっちりと分けられている。 勇者が戻らなかったとしても、そんな分断された世界で、生きていかないといけないから…… 私一人だけでも誰かの手を取ることが出来るような人でありたい。 だから天使と…… 世界と戦ってる」


 ダージーンはミー二の話が、自身の中にある使命への不信感とそれに対する実践的な改善案として、あまりにも完璧な答えだった。ダージーンはミー二に対して、かつて憧れた理想の騎士の姿を重ねていた。


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