第5話 騎士ダージーンー②

 目的の洞窟は木の根っこの下にあった。大きな木の根っこが重なりあったところに小さな隙間がある。近づくとミー二は異変を感じ取った。


(この根っこ…… というより、この木自体か。 力が仕込まれてる)


 ミー二は木の根っこに触れると赤い刻印が浮かび上がった。刻印を解くには時間がないと判断したミー二は右腕に弾丸を込めて隙間に向けて殴り込むように撃ち込んだ。森の中で爆音が響き渡り、木の破片が辺りに飛び散る。ミー二は目に入らないように左手で顔を覆ういながら破壊した木の根を確認して、広がった木の根の間に飛び込んだ。


 中には青い炎が揺れる燭台がぶら下がており、地面には赤い絨毯が敷かれている。その先に進むと、灯りが消えている右手後方の暗い影の中から男の声が聞こえた。


「さっきの爆音は君か? いったい何をしているんだ? どうやってあれを破壊した?」


 男の声は少し震えているようだった。ミー二はあえて声の方向は見ずに質問に答えた。


「あんな中途半端な ……私でも破壊できる。 あなたがダージーンっていう騎士? 時間が無い。力を貸して」


 ミー二は義手から弾を抜いて、背負っていた荷物を下ろした。


「誰から私の名前を聞いたんだ? まさかロウロから聞いたのか?」


「あの少年、名前はロウロっていうんだ…… 信じないだろうけど彼も、それに村の人々もみんな。 あの竜はなんだ? あれを生かすのがあなたの使なのか?」


 ミー二は口調が荒くなっていた。右手に力が入り、魔術の糸が振動して、義手の金属が熱される。


「少年は昨日、あの竜に襲われていた。 ……心の世界の修復は可能だった。 ただ、何度名前を聞いても彼は答えなかった。聞こえていないようだった。 ……あの村に着いてやっとわかった。もっと前に心の世界が傷つけられていたんだ。 自分の大切な名前を失っていた。 あなたは気が付かなかったの?」


 ミー二は男の方に振り返った。男は布で全身を覆い、剣を正面に持っていた。なぜか裸足で立っている男はミー二の言葉を聞いて少し震えているようだった。


「……心の世界など必要ない。忌むべき空想。 実の無い見。 ……我らが心と躰は天にあり、天は我らに祝福を与える。使命は試練であり、進むべき道。命惜しめば道は絶たれる」


 男は壁により掛かり、小さな声で何度も同じこと繰り返し、つぶやいていた。口調が先ほどとは違う。目は虚ろになり、明らかに様子がおかしかった。ミー二は憤り、握り込んだ右手を男がより掛かる壁に向けて打ちつけた。

 

「それにその腕。貴様、の末裔か…… 不届きだとは思わないのか? よりにもよって、妄想とそのような物を組み合わせるなど…… 反英雄のつもりか?」


「あなたが私をいくら否定してもそれは構わない。 ただ、今ならまだ、ロウロは救えるんだ。 彼はずっとあなたの名前を呼んでいたよ。 ダージーン」


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