第3話 少年-②
「マスター! 帰ったよ。 早速だけどこの子を寝かせるために寝具の用意をしてあげて」
ミー二は酒場の扉にたどり着くと、扉の取っ手をつまんで回すと、足で押し込んで扉を開けた。
中に入ると仲間たちが夕食の準備のために集まっていた。
「エーレさん。 できればこの子の着替えを…… 私のシャツの余りをこの子用に仕立て直してもらえない?」
カウンター奥の調理場で魚を網で焼いている老婆にミー二は声をかけた。ミー二と同じ緑のスカートを穿いて、その上からエプロンを着けている。
調理している魚を串で刺し、持ち上げると網の上から火に手をかざして弱める。魚を裏返して網に戻すと隣の流し台で軽く手を洗うと、ささっとミー二の前まで移動してきた。
「承知いたしました」
淑やかにミー二挨拶をすると、エーレはくるっと反対を向き、カウンターにある椅子を横に並べて寝転がっている行儀の悪い男に声をかけた。
「バハワロロさん。 お忙しい中、大変恐縮ではございますが、魚の調理の引継ぎをお願いできますでしょうか?」
行儀の悪い男は返事をしなかった。というより、無視をしていた。
「エーレルート・ラレ・スワロよ。 私のここでの仕事はこの頭を使うことなのだ。 それ以外の事はせん!」
バハは寝そべりながら、仰々しい物言いでエーレの提案を断った。
エーレは目を瞑るバハの耳元に近づきささやいた。
「バハワロロ様はご存じでしょうが、トポロの脳は大変珍味でございます。 ……脳というのは、あまり他の生き物で食すことはありません。 ですが、わたくしは大変興味があるのです。 先の短い人生ですし、……いろいろと挑戦してみたいのです。 ……今すぐにでも」
バハは汗をかきながら、必死に次の言い訳を考えていたが、エーレの最後の言葉でそのすべては吹き飛んだ。
「確かにいくつになっても挑戦するというのは素晴らしことだ。 だが、貴女はまだまだ長生きをする。 そして、私も長生きをしたい。 よって、魚を焼く任をこの私が引き受けよう!」
「お客様の服の仕立てがありますので、お早く。 お手を洗いになって、調理場についてください。 調理場につきましたら、戸棚の上から三段目、右から三つ目の小瓶に塩、その二つ左隣にコールトの島でとれた刻んだハーブがあります。 まずは塩を三度振りかけ、そのあとにハーブを一度振りかけてください。様子を見てひっくり返し、裏面にも同様にお願い致します。 その後、青い皿に載せ、串を抜いておいてください。 分かりましたか?」
詰まることなく、調理方法を解説するエーレの言葉を、バハは頷きながら聞いていた。
「要は美味くなれば良いということだろう。 任せろ。料理とはすべて足し算。 完璧な状態で仕上げて見せよう」
そう言って手を洗わずに、調理場に侵入していくのをバハはエーレに両腕を掴まれ、早速注意された。
「バハ、それは私が引き継ぐから。 ……エーレさん、この子の服を頼みます」
ミー二はエーレの気遣いに感謝すると、エーレは頷き、作業の為、二階に上がっていった。
「ミー二、お前怪我はないのか? というより何が居たんだ?」
マスターが寝具を抱えてエーレと入れ違いで降りてくると、酒場の端にある長机の上に敷いた。ミー二は少年を寝具の上に慎重に降ろすと、魔術を解いて、手が付いていない義手を外した。
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