第2話 竜-④
「助けて……」
ミー二の耳は間違いなく、少年の声を拾った。竜の足元、崩れた建物の残骸。その中から声が聞こえた気がする。
その声を聞いてミー二は、はっとした。自身の行動原理、目標、憧れ。
ミー二はためらわずに走り出した。竜へ向けて一直線に。声が聞こえたのは先ほどの一回のみ。場所の特定は出来ていなかった。
(あいつを退かせないと探せない……!)
ミー二は左手で指笛を鳴らして挑発をした。暗い色の竜はもはやどこに目が付いているの判らないが、ミー二のほうに顔を向けると無数に生えた剣のような歯をむき出しにして咆えた。
足は動かないのか、四本腕で這いずるようにミー二に向かって突っ込んできた。
その動きはミー二が今まで見てきた竜とは程遠いものだったが、飛翔せずにおびき寄せることができたのは好都合だった。
(潰されてないでよ……)
竜が少年の声がする場所から離れたことを確認すると、ミー二は竜へ向かって走りながら、義手の弾丸を取り出し、再装填をした。
(竜の心臓は首と胸のちょうど間。 異形であってもその場所は変わらないはず…… 試してみるしかない……!)
竜は術で見せた脅威とは裏腹に、挑発をした後の行動は獣のそれだった。長い二本の前足で大きく地面を掻き、その二本よりも少し短い残りの腕でバランスを取っている様だった。腕に掴まれることを警戒していたミー二だったが、竜は大きな口を開けて襲ってくるだけだったので、噛みついてくる瞬間、跳躍をして顔を蹴り、背中を伝い後ろへ回り込む。距離を取り、何度かそれを繰り返していると、ミー二を追うために旋回するときに少し体幹が崩れることを見切ったミー二は次で決めることにした。
(思ったより賢くないな。 どうやってあんな術を使っているんだ? 腕に掴まれないのならこのまま突っ込んで……)
ミー二を喰らおうとする竜の牙を躱し、竜の懐に滑り込む。竜が暴れた回った地面は少し窪んで、ちょうどいい形で心臓のある部分にたどり着く。
ミー二は右腕を構え、背を地面につけたまま、心臓を狙って撃ち込んだ。
竜がこれまでにない咆哮を上げてひるむ中、撃ち込んだ右手が竜の体の中を侵食していく感覚が伝わる。
(この竜、すごく冷たい。 本当に生きているのか?)
ミー二の右手は間違いなく竜の首と胸の間を貫いたが、おそらく骨に阻まれた。心臓までは届いていない。
(鱗が無い腹側から撃ったけど、流石に硬い……。 貫くことはできないか)
ミー二は心臓を潰すことをあきらめて義手を竜の体内に残したまま、魔術の糸を切断した。内臓を貫いていないせいか、竜の胸からはあまり血が流れ出なかった。
しかし、竜はかなり痛がっている様子で、その間にミー二は竜の股の間から抜けだして、助けを呼ぶ声の主を探した。
「どこにいる? 助けに来たよ!」
その声に反応するように瓦礫の一部が動くのをミー二は見逃さなかった。ミー二はすぐにその場所に駆け付けると、左手で掴み、余った右腕の義手を瓦礫の隙間に差し込んで、持ち上げた。瓦礫その下には子供がちょうど入ることが出来るくらいの小さな空間があり、そこに橙色の帽子を握っている少年が倒れていた。少年は額に汗をびっしりとかき、うなされていた。
(食材を入れる床下の収納庫。 ちょうどその穴に落ちたのか。 よかった。大きな怪我はなさそうだ)
ミー二は肩を使って瓦礫をどけると、少年を引っ張り上げて担いだ。
(竜が襲ってこない…… 今のうちに)
ミー二は竜の力が及ばない範囲外へ少年を連れて逃げ出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます