第2話 竜-③

 壁を登り切ったその瞬間。突如、日の光が失われ、心の世界が凍り付く様な変化がミー二を襲った。

 視線の先には、先ほどの石畳の道が続いているが、それを塞ぐ黒く大きな影が蠢いている。それを中心に暗い霧が辺りを包みこんでおり、ミー二は危険な領域に足を踏み入れてしまったことを肌で感じていた。


(二枚の翼に四本腕、変色異形の竜……。 うかつだった。 ここら一帯あいつの縄張りか!)


 二日前の小竜魚の群れ。通ってきた道に生き物がいなかった事。ミー二は頭の中にあった違和感が目の前にある黒い影につながった。

 ミー二はとっさに屈むと、素早く移動し、近くに生えた木に隠れた。竜のほうを伺うと、見つかってはいないようだった。

 だが、全身を舐めまわされているような、じっとりとした嫌な感覚が詰め寄ってくる。


(さっきのはこいつの力の影響なのか? それにこの広範囲を覆う術! 魔術や呪術でもない…… まるで魔法みたいな……)


 ミー二は相手の様子からまだ引き返せると判断し、状況を分析していた。ただ、先程から体中に違和感を感じていた。体中に電流が流れるような痛みが徐々に強くなってくる。


(あいつはこの一帯をしている? この感覚、自身のに引き込んで、命を直接吸われているのか……)


 ミー二、そして目の前の暗い色をした竜が使うとは、己のうちに存在する心の世界をほかの世界へつなげて、様々な効能・効果を作用させるすべを指す。

 ミー二が使う魔術は自身の世界と他の世界を糸で繋ぎ操る。ミー二が使う糸は魔術の基礎で、ミー二はその糸を通常使われる魔術以上に細かく撚ることで、義手を肉体の手以上に動くようにしている。

 

 ミー二はおそらく竜が自身へ何らかの攻撃をしていることは体の異変から察していたが、それよりもいつ、その攻撃が行われたのか。その方法だけが疑問だった。

 竜から魔術の攻撃を受けたのならば必ず糸でつながりができる。そして、呪術であるならば事前に仕込みが必要。ミー二が竜の縄張りに入った時点で仕込まれていたとしても、呪術の発動に必要なが行われた様子はなかった。


 基礎的な術が魔術と呪術とされ、さらにそこから発展した術が十二通りあるが、ミー二はそのどれにも当てはまらないことをすぐに察した。


 ミー二が修めた術とは明らかに違う。そしてその影響力。何よりも自身との実力差が、ミー二の中で危険信号を発していた。


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