第1話 漂着-③

 ミー二は朝食を食べ終え、マスターと共に洗い物をしながら、現状とこれからの予定についての相談を始めた。


「やっぱり、私とエーレさんの断術で星の強度を上げていくしかないと思うんだ。 そのための仕組みをバハに造ってもらって、呪術を仕込んで運用する」


 ミー二は自身の家でもあり、仕事場でもある酒場「ホンスーン」の耐久度について考えていた。

 ホンスーンは王様から賜った「星」に備え付けた酒場である。

 星とは階層世界で最も軽く、耐久性があり、宙に浮かぶ岩の塊。これほど人の都合にいい素材は無く、移動手段が限られている階層世界ではこれに推進力を取り付けることで利用されることが多い。

 ミー二の星は王国の尺度で縦に30ベーレ、横に62ベーレの中型の星。独特な形をしており、尖った部分を前部として、後方部分には舵を取るための「尻尾」があり、星の中心部分の下を少しくり抜いて、酒場が備え付けられている。

 酒場の階段で星の上に昇ると、ミー二たちが住む部屋があり、部屋を出ると、草木が生えた星の背中が広がっている。

 雨が貯める池、万能のお手伝いさん「エーレルート」が管理する畑があり、長旅をするミー二たちにとってこれほど恵まれた星はどこにもない。

 しかし、二日前、階層の境目を移動中に嵐に巻き込まれ、小竜魚の群れに激突。ミー二たちの居住するスペースに被害が出て、星の遊泳が困難な状況に陥った。

 舵を取る星の尻尾も破損しており、空に流されるままたどり着いたのが、この地図にない島だった。


「だが、ミー二。お前はその義手を動かすのに、かなりの力を割いているだろう。お前がいくら器用でも、自身の力の容量を超えるような術のやりくりはよくない」


 マスターは腰に巻いた布で濡れた手を拭きながら、ミー二に注意をした。


「とりあえず、この島を出るまでは義手が使えなくても問題ない。その分を、断術にまわせば…… って、やっぱ現実的じゃないか」


 ミー二は食器を戸棚に片付けながら、右腕について考えていた。


「そうだな。 それにお前の壊れた部屋とか尻尾を直すのにも時間がかかるし、人手が足りん。 昨日ここら一帯を見てまわったんだろう? どうだ? 人は居そうか?」


「壊れた街道みたいなのはあった……。 たぶん旧世界のやつ。石畳がかなり奥まで続いていた。今日はその奥まで行ってみようと思う。 旧世界の痕跡があるなら十分人がいる可能性は高いから」


「わかった。 昼飯はいるか?」


「大丈夫。 できるだけ食糧は保存しておきたいから」

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