第1話 漂着-②
部屋を出たミー二は、回り階段を降りていき、一つの長い廊下に出た。
廊下の突き当りには酒場があり、ミー二はそこで働いている。少し暗がりの冷えた廊下を足早に進んでいき、右手側にある扉を開けた。
そこは水色の部屋で、洗面化粧台と風呂場がある。そこでミー二は顔を洗い、薄めの化粧をすると、スカートのポッケに入れていた手袋を右手にはめて、朝の支度を終えた。
「マスター。おはよう」
「おう、ミー二。 おはようさん。 昨日は雨が降らなくて良かったな。さっさと店ぇ直して、ミナルデンへたどり着かないと王様が待ちぼうけて死んじまうぞ」
ミー二は洗面所を出て、酒場に入るとカウンターで朝食の準備を進めるマスターに朝の挨拶をした。
マスターは屈強な躰で、浅黒い肌、髭はきっちりとした長さに整えられており、白髪を後方に流して、いつも通りのさっぱりとした姿でミー二をカウンターに迎えた。
ミー二は店を開けていない日でも、完璧に身だしなみを整えるマスターの姿を見て、敬うように頭を下げると、マスターが朝食を並べた席に着いた。
「まさか、小竜魚の群れが嵐に乗って、あんなに突っ込んでくるなんて思わなかった。 何かから逃げてるようにも見えたけど……。 やっぱり、階層が切り替わるところは読めない部分が多いね」
ミー二はマスターが準備した朝食に手を付けると、二日前の出来事を話し始めた。
「確かになぁ。 それにトポロの群れが突っ込んでくるのは一番の外れだ。 あいつらの頭は石よりも固い。 まぁ、何匹かは気絶して食糧にできたが」
そう言ってマスターは天井からつるしたトポロの頭を自身の大きな拳骨で小突いて見せた。
「この固い頭の中には小さな脳みそがあってな、そいつがうめぇんだわ。 ただ、四匹しかいねぇから、一人は喰えねぇな。 取り合いだ」
白い歯を見せてにやりと笑うマスターを見て、ミー二は赤い果実を絞った透明の果汁を飲みながら、目で返事をした。
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