第28話 学園入学試験本番②
メリルに連れられ、俺は第二次試験の会場に到着した。
そこは大学の講堂のような黒板を中心に段々に机と席が配置された部屋であった。
広い講堂に俺とメリルの2人しか居ないので、少し物寂しい。
「では、これより第二次試験を開始します。試験は国語、数学基礎、王国史、魔法理論の4つです。それぞれ試験時間は40分です」
現実世界の試験と同じようなルールで良いのだろうか。
とりあえず俺は机の上に鉛筆を数本と消しゴムのみを置く。
すると、メリルが不思議そうに筆記用具を見つめる。
「それは筆記具ですか? ずいぶんと変わっていますね。皆さんは筆記には基本羽ペンを使用されますが、特に規定はないのでどれを使っていただいても構いません」
この世界ではまだ筆記用具が発達していないようだな。
羽ペンだったら書き間違いをしたときにはどうするんだろうか。
別に俺は鉛筆を使うから関係ないけれどね。
試験開始の合図が出され、俺は問題冊子から解答用紙を抜き出し名前を書く。
この世界の文字は全然知らないし勉強していないが、【言語適応】のスキルのお陰で読み書きが出来る。
このスキルがなかったら文字を書くはおろか会話さえまともに出来なかったんだからな。
名前を書き終わり、俺は問題へと目を移す。
大問は3つあるが、特に何も考えずに大問1から解いていけばようだろう。
大問1は自由記述だ。お題は……
大問1:あなたは、親は自分の子供に自分の呼び方を「パパ」「ママ」などフラットな言い方ではなく、「お父様」「お母様」のようなフォーマルな呼び方に強制したほうがよいと思うか。賛成か反対かを書き、その理由を300字以内でまとめよ。
何だそのどうでもいいお題は。別にどっちでも良いだろう。
答えないわけにもいかないので、取り敢えずテキトーに賛成を選んでいい感じに答えることにしよう。
俺はなんとか文章を絞り出して300字を書き終わり、次の大問に進む。
何度か文字を消しゴムで消しているのを見て、メリルは目が飛び出しそうになっていた。
続いて大問2、3。ここは長文だが、論説文はあらず、2題とも小説文だ。
日本で受けてきた試験のほうがよっぽど難しいので、この2題は苦には感じなかった。
その後、3回ほど見直しをして、国語の試験は終了した。
2つ目は数学基礎。
これも同じく解答用紙に名前を書き、問題用紙をめくる。
大問1、2が小問集合、大問3が文章題だ。
小問集合では簡単な方程式や図形の面積、体積の問題が出題される。
異世界の数学というのはあまり進歩していないと勝手に思っていたが、三平方の定理などは普通に使われているようだ。
大問3は、全員が一度は見たことのあるような問題だ。
弟が家から学校まで歩いて登校し、10分後ぐらいに兄が馬車で追いかけるやつ。
これ系統の問題は異世界でも共通なんだなぁと思った。
数学も案の定余裕であった。
見直しをした後に終了の合図がなり、試験が終了する。
3つめは王国史。
これは前世の知識が全く使えないので、ここ一週間ちょっとの勉強の成果が試される。
大問は4題構成であるが、最初の大問2つが初代女王に関する問題。次の1問が王国における宗教に関する問題。最後の1問がその他の歴史についての問題であった。
もらった参考書も半分以上が初代女王の偉業が殆ど神格化されて描かれており、初代女王についての問題は絶対にテストに出るだろうと思って準備していたのだ。
見事に予想が命中したので、勉強しておいてよかったなぁーと思った。
王国史も切り抜け、俺に残るは魔法理論のみとなった。
全くの新分野。かなり勉強したが、どれほど分かるだろうか。
覚悟を決めて問題用紙をめくる。
めくると問題は殆ど記号式であるのがわかる。
魔法式などの記述があるかと身構えていたが、記号を選ぶだけなので簡単だ。
魔法陣を書きなさいという問題だけが唯一の記述であり、記号を埋め終えたらちょうど終了の合図が鳴った。
なんとかまにあって良かった。
「これにて試験は終了です。今から採点をして本日中に結果を発表いたしますので、少しの間待っていて下さい。あ、そうそう。今はちょうどお昼時ですので、食堂でご飯を食べてきてはどうでしょう」
メリルはそう言い残し、答案用紙を持って去っていった。
ちょうどお腹が空いていたことだし、俺は食堂へ向かうことにした。
◇
俺は【世界地図】を見ながら食堂を目指していた。
この学園は驚くほど広く、スキルがなければ絶対に食堂にたどり着けないだろう。
そうこうしているうちに食堂にたどり着いたようだ。
ちょうど休憩の時間なのだろう、食堂は学園生でごった返していた。
俺は生徒たちの列には並ばず、横においてあるメニュー表を見る。
そこには驚きの内容が書かれていた。
◯毎日無料!学園食堂メニュー表
・オーク肉のソテー ←本日オススメ!
・ホーンラビットのほろほろ煮込み
・アクアマンサーのムニエル
・すべてにパンとスープは付いてきます
オークにホーンラビット、アクアマンサー。どう聞いても食べられそうにないものばかりの名前が並んでいるが、こちらの世界では普通なのであろうか。
俺はどれを食べるべきか、究極の選択を迫られていた。
そんな俺の様子を見て、学園生が不思議な目を見てくる。
周りから見たら俺は完全に不審者だからな。
だが逆に、なぜ君たちはこんな魔物の肉を普通に食べようとしているのか不思議だ。
突然、俺に向けられていた視線が後ろに向いた。
全員頭を下げ、道を開ける。
やってきたのはグレースだった。
「あら、ルフレイ様。試験は無事終わられたのでしょうか」
グレースが手を振りながらこちらにやってくる。
ちょうど良い、彼女は何を食べるつもりなのか聞いてみよう。
「ええ、何とかなりそうです。ところでグレースさんは何を食べるのですか?」
「なるほど、ルフレイ様はどれを食べるべきなのか迷っていらっしゃるのですね。私はここの食堂は何でも美味しいので、どれを選んでも外れだとは思いませんわ。強いて言うなら、私はおすすめを毎日選ぶようにしていますわ」
王家の人間であるグレースも普通に食べているみたいだから、この世界で魔物を食べるのは普通なのだろう。
ということは島に生息するコカトリスやダークウルフも食べられるのだろうか。
食べれたとしても食べたいとは思わないが。
「とりあえず、一緒に並びましょう。その後食事にご一緒させていただいても宜しくて?」
俺はグレースとともに列に並ぶ。
俺達の順番がやってきて、まずはグレースがオーク肉のソテーを注文した。
俺も彼女の真似をして、同じくオーク肉のソテーを注文する。
しばらく受け取り口で並んでいると、例の料理が届いた。
見た目は地球のポークソテーと大して変わっていない。
材料を知らなければ美味しそうだと喜べたことであろう。
料理を取った俺達は、空いている席を探して食堂内を歩き回る。
ただどれだけ歩き回っても、空いている席を見つけることは出来なかった。
ふと前を見ると、食べ終わったのか、1人の生徒がお盆を持って立ち去るのを見つけた。
「あ、1席空きましたね。俺は別の席を探すので、グレースさんはそこの席を使っていいですよ」
こういう場合はレーディーファーストだろう。俺は別の席を探してそこで食べればいい。
俺が席を譲って立ち去ろうとすると、グレースが俺を引き止めた。
「なぜですか? 別に2人で椅子に半分ずつ座ればいいではないですか。私は全然気にしませんわ」
どうしてそうなった。
流石に女子と同じ席に座るのはアウトだろう。
俺はお誘いを断って立ち去ろうとしたが、グレースに服の裾を掴まれてしまった。
「一緒に食べてはくれないのですか? 私はそんなにダメな女でしょうか」
そんなことを言われると断ろうにも断れなくなってしまう。
結局俺はグレースに言われるがまま椅子の半分に座ることにした。
彼女も椅子のもう半分に座り、とても窮屈になった。
俺は前世では全く女の人と関わったことがなかったので、この距離感は流石にマズイ。
俺は頭が真っ白になり、照れ隠し半分に料理を口に流し込んだ。
オーク肉どうこうはすっかり忘れて全てを平らげた俺は、椅子から立ち上がろうとする。
ふと周りを見ると、学園生の男子たちから強烈な視線を向けられていることに気づく。
俺がグレースと椅子を半分づつ使用していたからだろうか。
確かに彼女は美男美女があふれるこの異世界でも、特に美しい部類だと思う。
恋心をいだいても仕方がないだろう。
横を見ると、グレースも既に食べ終わっていた。
2人で食器を返却口に返しに行き、食堂を出る。
「どうですか? オーク肉は美味しかったでしょう? ここのソテーは他よりも格段に美味しいと思っていますわ」
「はは、そうだね……」
その後、グレースは午後の授業があるとのことで、俺達は分かれた。
俺はテストの結果を聞きに、試験会場へと戻る。
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