第12話 王族会議
――王族会議、それは読んで字のごとく王族のみで行う会議である。
このルクスタント王国の最高議決機関で今、重要な決定がなされようとしていた。
この会議に参加しているのは下記の3人である。
○デニス=デ=ルクスタント ルクスタント王国国王 54歳
○アルベルト=デ=ルクスタント 第一王子・王太子 32歳
○グレース=デ=ルクスタント 第一王女 15歳
王族にはもう1人、第二王子のカール=デ=ルクスタントがいるが、彼はまだ8歳なのでこの会議には参加していない。
3人にはあらかじめモンから話された内容に基づく島に関する簡単な資料が配られており、あとはこの島をどうするかを決めるだけだった。
「では、新たに見つかったかもしれないという島をどうするかについて、会議を始める」
国王であるデニスが言い終わると同時に、アルベルトが発言する。
「我が王よ。あの島はここ王都から1000kmと少々離れているが、この国の近辺にある以上、我が国の領土であろう。軍を派遣して占領してしまえばいい」
デニスはアルベルトの発言に大きくうなずく。
デニスも新しい島への軍の派遣は必要だと考えていた。
「アルベルトの言う通りだ。その島は我々の領土も同然だ」
デニスは、アルベルトの案に乗っかっていきなり武力侵攻という強硬手段をとることを選択しようとする。
しかしグレースが待ったをかけるべく手をあげて発言する。
「しかし、その島には上質な服や奇妙な船を作る者がいるのかもしれないのでしょう? ならば彼らを王国の重大な人材として活用するべきではないでしょうか。いきなりの武力侵攻ではなく、ゆっくりと対話を図ることが最善だと考えます」
デニスはグレースの意見を聞き、少し考える。
グレースはさらに意見を展開する。
「それに、我が国は最近ようやく統一を果たしたばかりで、今だ国内が安定しておりません。まずは国内を充実させることが第一ではないでしょうか」
実は王国は、最近まで数あった近隣の国々に対し次々と戦争を仕掛け、その全てに勝利してようやく今の形に収まったばかりなのである。
かつての敵国の国土である新領土は戦争で荒れ果て、国家としての結びつきもまだ強くない。
グレースは自国の領土の安定が最優先だと考えていた。
しかしグレースの意見にアルベルトが反論する。
「確かにお前の考えも正しいのかもしれない。しかし、自分たちの国民に対して甘い顔をしてはいけないのだ。お前には分からないかもしれないが、力で新領土を抑えている以上、力をかけ続けることは必要不可欠だ。それは新しい島に対しても同じ。1つたりとも例外は許されん」
その言葉にデニスも頷く。
それらしいことを言っているが、実際のところは戦争が終わって暇になったところに、新たな暇つぶしが現れたぐらいにしか思っていない。
それに彼らは、この派遣を国威掲揚と諸外国へのアピールとして利用しようと思っていた。
「では、せめて軍を引き連れた交渉団が交渉を行い、決裂した時点で攻撃すればよろしいのでは?」
グレースは譲歩をしながらも、交渉の可能性を捨てない提案をした。
彼女としてはこれ以上の戦争が起きることはどうしても避けたかった。
交渉によって島の住人がどれほど不幸になろうとも。
彼女が提案したのはダメ元の案であったが、意外にも王はこの案を気に入ったようだった。
「成程な、しかしグレースよ、お前も酷なことを考える。我が軍を目にして降参せん馬鹿などこの世にはおらんだろう。そしてこちらの要求をすべて通して奴らには一生奴隷として働いてもらうとしよう」
デニスはルフレイたち島の人間を人間だとは思っていない。
彼にとっては元からの王国国民以外はすべて奴隷に等しいものだった。
そして彼は自分の軍に多大な信頼を寄せていた。
デニスはガハハと豪快に笑い、次のように宣言した。
「我々は例の島に騎士団とともに交渉団を送り込む。交渉が決裂したら、その時が島の連中の死ぬときである。騎士団長等と宰相、軍務卿を集めよ! 我直々に勅命を下す!」
そうして王族会議は終了した。
◇
――1時間後、玉座の間に先程呼ばれた人間が集まってきた。
集められたのは下記の人間である。
◯マルヴィン=バルテルス 第一騎士団団長
◯ミルコ=シュペール 第二騎士団団長
◯オットー=シュティファン 第三騎士団団長
◯アンスヘルム=グンダー 第四騎士団団長
◯ヘルベルト=クレヴァー 第五騎士団団長
◯オイラー=ライヒハルト ルクスタント王国宰相
◯ヴォルフラム=コンラート ルクスタント王国軍務卿
デニスが話し始める。
「最近、我が国の近くで新たな島が発見されたとの情報が入ってきた。よって我々は今よりその島を我が国の領土として正式に扱う。しかしその島には先に住んでいる住人がいるらしい。」
デニスは玉座の間に集まった隊長や宰相たちにそう告げる。
彼らは新島発見について聞いたのは今が初めてであり、状況をよく呑み込めていないようである。
唯一何が起こったっかを知っているバルテルスだけが平然としている。
驚く隊長たちをおいて、デニスは話を続ける。
「そこで我々は交渉団を送ることにした。その交渉団全権大使をライヒハルト宰相に、その護衛をバルテルス第一騎士団団長に命ずる」
デニスから名指しで呼ばれたライヒハルトとバルテルスは、そろって頭を深々と下げる。
「「ハハァ」」
2人は頭を下げながら体が震えていた。
大役を国王自ら任命してもらえたことにこの上ない喜びを感じているようだ。
「それと、交渉は決裂しても別に構わない。だがもし交渉が決裂したときは、島民を好きに扱って構わない」
交渉を纏めることが不可欠でなくなったライヒハルトは胸をなでおろす。
交渉を成功させる必要がないので、相手を好きに罵倒や侮辱することができる。
彼は、罵詈雑言を浴びながらも渋々交渉にサインするしかない弱小国家の人間を見るのが好きであった。
それに好きに扱って構わない、それは一方的に虐殺や略奪を行って良いと国王が認めたに等しいことである。
バルテルスと彼が率いる第一騎士団は残忍さで知られていた。
彼らは略奪や捕虜の虐待は勝者の特権だと思っていた。
一方的に島民をいたぶる様を想像して、バルテルスは興奮していた。
「今から船を急ピッチで用意させる。明日の昼には例の島に向かって出発せよ。失敗は許されない。分かったな? では良い結果を期待しているとしよう」
国王はそう言って席を後にした。
宰相と騎士団長は、自分達の背負う責任の重大さを改めて感じるのであった。
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