EP.8「助けて...」

温泉から上がって部屋でゆっくりとしていた。縁側に出てタバコを吸いながら今後のことについて考えてみる。


あの少女は一体何に追われているんだろうか。絡庵軍か、それともあかりちゃんの角を付け狙うマフィアとかか?

鬼族の角は正に高級ってレベルじゃねぇ。


もう絶滅しているものだと思われているからまさに数十億〜数百億の値で取引されている。噂では万病に効いたり、コレクション目的で買う人がいると。物好きはどの時代にもいるもんだと思う。


あかりちゃんにとっては生き残るだけで精一杯、そんなやつらのために殺されるなんて癪だ。仮に絡庵軍が狙っているのだとしたら、絡庵そのものを滅亡させるしかない。

国が1人の命をないがしろにするような国なら、滅んでしまった方が世界のためだ。


改めてあかりちゃんにそれを聞いてみようと思う。だがその前にまずは旅館の夕食からだ!ちょうど部屋に仲居さんが料理を運んでくれたからな。


「お休みのところ失礼致します。

お食事お持ち致しました。」


待ちに待った料理だ。主に魚や山菜など絡庵で採れるものばかり。

あかりちゃんも豪華な料理に目を光らせていた。


「うわぁ!美味しそうー!」


「だね、じゃんじゃん食いな!」


そう言うとあかりちゃんはがっつき始めた。こんな美味くてたくさんの料理をずっと食べたかったんだろうな。

そういうおれも旅館の飯は久しぶりだからテンション上がりまくっている。


飯の最中は楽しい話題を振ることにしていた。

おれは先日戦った霧谷彰人についてや今までどんな戦いを繰り広げてきたのか面白おかしく話した。あかりちゃんはそんなことあるって疑ってたけど、話したことに嘘は交えてない。


あかりちゃんは楽しかった思い出だったり、この騒動が終わった後は学校に通って友達をたくさん作りたいと話していた。

1人でずっと寂しい思いをしたからこその願いだとその時は感じていた。



メシを食い終わり、再び情報を聞き出すためにあかりちゃんにいくつか質問をしていく。



「そういえばあかりちゃんはなんで追われてるの?追われるには何か理由があると思うんだけど...」


「えっと、多分これを狙ってると思う。」


あかりちゃんはあるものを見せてきた。

その手にはほんの小さい石ころのようなサイズだけど、黒く光沢がある。


「え、これって...!?」


驚いた、まさかあかりちゃんが持ってるのが

ほんの小さいオリハルコンなのだから。

そりゃ狙われるよ、色んな意味で。


「これをどこで手に入れたの?」


「お父さんがお守りとしてくれたの。

きっといつか役に立つって...」


あかりちゃんの家族は金持ちか何かなのかなと思ってしまった。

まぁたまたまどこかで見つけた、いやオリハルコンはさすがに拾えるような代物じゃないよ。



「追っている連中がどんな感じのやつらかわかる?」


「わからない。けどさっきの昆虫族や狼族、魅吸族だったりいろいろいたよ。

その人たちはみんなあるペンダントを下げてた。」


「ペンダント?」


「うん、こんな感じの。」


あかりちゃんは机に置いてあるペンを取り、紙に書いていく。

それを見て驚いた、昔あった宗教団体のものに瓜二つだった。


「これは、冥崇教のものだ...」


『冥崇教』

かつてあると信じられていた冥界に向かうために結成された宗教団体。人の死後、どこへ向かうかはわからない。それに恐怖した教祖『タチバナ』によって作られ、表向きには信者を増やして金儲けをしようとしてるとくだらない理由をわざと出していた。実際には冥界の神に生け贄を次々と捧げていたというカルト教団。


行方不明者は600人以上いる。でも確か昔親父が滅ぼしたはず。



「どうして今更冥崇教が出てきたんだ?」

謎は深まるばかりだった。


   



       ーーーーーー


夜も更けてあかりちゃんを寝かしつけておれは寝顔を見ていた。

安らかに寝ているから落ち着けているなら何よりだ。


こんな子供でも鬼族だ。いつ何があるかはわからないから警戒は怠らないようにしている。その追手が宿に侵入したしているのかもしれないから。それにおれは寝ても悪夢という名の過去のフラッシュバックが襲ってくるから正直言って言って怖い。


するとあかりちゃんは一言寝言を言った。


「助けて...誰か...」


一体どんな夢を見ているんだろう。

こういう時はこれだ、小さいガキの頃にお袋がよく弟たちに歌っていた子守唄を聞かせることにした。元々はお袋の故郷の祈りの唄だったが、寝かしつけるのに心地いいメロディと歌詞だったからうってつけだったらしい。



『祈りを捧げて

永遠の夢の中で安らかに

愛を願って

あなたの心に安らぎを』


1フレーズだけであかりちゃんの寝言は治った。きっと届いたんだろうなと感じた。

おれにもこんな人生きっとあったんだろうなとふと思う、好きな人と結ばれて子供が生まれて、こうして子守唄を歌いながら寝かしつけて幸せな家庭を築けたんじゃないかなと。

もうそれも過去の話だ。



再び布団を被せて気持ちを切り替えた。

外に何か気配を感じたからだ。縁側から外に出て呼びかける。



「いるのは分かってる、何が目的だ?」


「ほう、まさかこうもあっさりとバレてしまうなんてな。」


高速移動で現れたのは狼属性の男だった。

胸には例の団体のペンダントをかざして。



「なぜ今更冥崇教が復活したんだ?

それになぜあの鬼族の少女を追っている。」


瞳を赤黒く光らせてビビらせていく。

だが相手は微動だにしない。



「確かに我々は冥崇教の信者だ。

だが勘違いしているのはお前の方だ、我々はあの少女に復讐するために追っているんだ。」


「ちょっと待て、復讐だって?

一体何をしたっていうんだ?」

あかりちゃんとその男が言っている意見がまるで食い違ってるじゃねぇか。



「あの少女は我々の教祖『タチバナ』様を殺した犯人だ。」


「あかりちゃんが教祖を殺しただと?

何か証拠があるってのか。」


そう言うと狼族の男はあるチップを投げてきた。


「これは?」


「教祖様が殺された時の監視カメラの映像だ。デバイスに読み込めばすぐに見れる。」


おれはHEARTを起動してチップを読み込ませる。

モニターが表示されて映像が映る。




      ーーーーーー


「ぐわぁー!? う、腕が...

私の腕が喰われたぁー!!」


映像には教祖の『タチバナ』と思われる人物が食いちぎられている腕をおさえている。

辺り一面が血の池のように溜まっている。



「ひひひひひひ!食わせろ、食わせろ!

その不味すぎてついハマるその肉を、その骨を、食わせろ!!」


映像には映っている少女。

片ツノが折れていて着ている服はパーカーではないけど白いシャツを着ている。

間違いない、あかりちゃんだ...

その顔はまさに鬼のように狂気に満ちた笑顔をしていた。そしてタチバナに襲いかかり喰らいついていく。



「ぎ、い、あが、あぎゃぎゃ、うぐぁぁー!!?」


肉はおろか骨すらも噛み砕きながら少しずつ咀嚼していく。コリ、ドゴリィ、ガリリっと骨までもを食べていき、タチバナは跡形もなく食べられてしまった。



「なんなんだこれ...」


あまりにも凄惨な映像を見たおれは絶句していた。さすがに人を食べるなんて考えたこともないからあまりの異常な映像に唖然としていた。



「これでわかっただろ、あの少女の正体を。

これが鬼族だ。どの種族もあの少女たち鬼族に恨みを持っている。誰だってあんな風に食われたくないだろ。

今日は一旦退く。明日、秋明のシンボル。

『グリニッジトレードタワー』に12時に来い。そこで受け渡せば、今回お前が連れていることは不問にする。」


そう言うと狼族の男は再び高速で移動して姿を消した。


正直に言うとすごく迷っている。

確かにあいつらからすれば教祖を殺されているから復讐をしたいって気持ちも充分わかる。けどおれ自身の目で狂った姿を見ていないこともあって半信半疑なとこもある。


温泉や夕食の時に見せた驚いた顔や笑顔を見てると、とてもあんな狂気に満ちた顔を想像することはできなかった。



to be continued

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る