EP.9「着いて来れるもんなら」
次の日、おれはあかりちゃんを起こして支度を手伝い宿のチェックアウトを済ませた。
「お兄さんこれからどこ行くのー?」
「そうだな、ちょっと観光するか!」
明るく笑顔で振る舞う、そう昨夜のことを悟らせないように。
それにあかりちゃんも笑顔で頷いた。モニターで見たあんな狂気じみた笑顔じゃなく子供らしい無邪気な笑顔で。
「まずはあそこの商店街の店に行ってみるか!」
そう言って商店街にやってきた。ここは絡庵の伝統料理を食べれる店がたくさんある、ちなみにおれは正直苦手。酸っぱい料理ばかりだからってのはある。
「あそこの店がいい!」
そう提示したのは亜人キッチンと呼ばれる種族ごとに合った料理を出してくれる店だ。
「よし、そこにしよ!
ただ鬼族ってバレないように注意していこう。」
「うん!」
中に入ると様々な亜人種がいる。もちろん人間もそこそこ観光客だったりいるから本当に人種は関係ない国だ。爬虫族の人がウェイターとして注文をとっていた。
「私オムライスを。」
「おれはこの日替わり定食を。」
「かしこまりました。」
キッチンにいる兎族と狸族にオーダーを出して2人が料理を作っている。手際がいい、野菜や肉を切る所作一つ一つがまさに職人芸のように見せていく。キッチンはお客の席から360°見えるようにアレンジしているからその芸を見ながら料理の待ち時間を退屈させない工夫をしている。
「美味しそうな匂いだね!」
あかりちゃんは今にも食べたそうによだれを垂らしていた。
そして料理ができておれたちの前に運ばれてきた。オムライスと日替わり定食。日替わり定食は伝統料理の一つ、「みみよせ」を中心とした栄養バランスがしっかりと考えられている料理だ。「みみよせ」は主に大豆や玄米をすりつぶした団子を煮て細切れにしたもの。醤油などにあわせると米が進む。
「んー!美味しい!」
あかりちゃんも満足げに料理を楽しんでいた、その間すっごく悩んでいた。昨日言われた通りに彼女を差し出すべきなのか、それともあるいは...
なにが正解かはわからない。
けど少なくても、おれが信じる考えを貫くだけだ。どうせ対立するのは目に見えてわかるから。
今はこの、ほのぼのとした時間があかりちゃんにとって...
おれにとって救いになっている。だからちゃんと楽しまないとな。引き続き楽しく料理を楽しむことにした。
ーーーーーー
「おいしかったね!」
「ん?ああ、そうだね!」
考えていた間に料理を食べ終えて会計して店を出た。そろそろ約束の時間だ。
腹を括るしかないようだ。だからあかりちゃんにあることを頭に入れさせとかないと。
「あかりちゃん、ちょっといい?」
「なーに?」
「実は、追っている人があかりちゃんに会いたいそうだ。あかりちゃんはその人たちに着いていく気はないんでしょ?」
あかりちゃんは首を横に振って拒否の意思を伝えてきた。
「うん、わかった。
ならこうしよう...」
あかりちゃんに耳打ちをしていく。
いつどこで話を聞かれているかわからない情報社会だからこそしていくコショコショ話。あえて演技をさせていくことでより誤魔化すことができるからだ。
そうして打ち合わせを済ませたおれたちは秋明の中心に建っているグリニッジトレードタワーへと向かった。
ーーーーーー
「ほぉ、ちゃんと連れてきたか。」
展望台へ上がると、昨日会った狼族の男が窓から景色を見ていた。
あかりちゃんはおれの後ろに隠れている。そんなあかりちゃんに一言だけ。
「大丈夫あかりちゃん。おれを信じて。」
あかりちゃんは首を縦に振って同意の意思を伝えた。
「どうだ、取引の前に一度ここから景色を見ないか?」
随分と余裕をこいている。あたかも自分の都合のいいように事が回っているから取引先であるおれに対してのせめてもの情けなのだろうな。
「ちなみに、おれに対して何も物的商品がないのはずいぶんと舐めているんじゃないのか?」
おれはそう答えていった。
「事態が急だからな。欲しい金額をこれに書け、その通りに入金はする。それでいいか?」
「あぁそう。」
やっぱり舐めてる。金で人身売買なんていつの時代だ。いやいつの時代でも同じか。
「見ろよこの景色、絡庵を一望できる。
歴史あるこの都市を血で染めたくはない。ましてやその少女1人にこの国の人たちを巻き込むわけにはいかない。そのためにはやむを得ないが今度こそ鬼の血は滅するしかないんだ。さぁ取引の時間だ。」
そうして狼族の男は手を差し出してきた。
「さぁおいで。君の命は世界の礎になり、君の魂は冥府にて永遠のものとなるだろう。」
あかりちゃんは震えながら狼族に近づく。
そして男が腕を掴もうとする瞬間に奪い返し窓に近づいた。
「なんの真似だ?金額は書いただろ、契約を意図的に破棄するならば考えがあるぞ。」
「あいにくおれは金には困ってないんでね。」そう強がってみせた。
「愚かな行為だ、その少女を救ったところでやがて本性を見せたときに真っ先に殺されるのはお前だぞ。お前だけじゃない、この国どころか世界中の人々を食い尽くすまでそのガキは止まらない!お前は世界を滅ぼす気か!!」
確かにな、確かにお前の言う通りなのかもしんねぇよ。けどな
「たった1人助けてくれと頼んできた子を見捨てて、世界を守れるかっつーの!」
おれは持っていた匂い玉を男の鼻にめがけて投げた。男は手で防いだが無駄だ、はなから近くで爆発させるのが目的だ。
狼族は嗅覚が異常。10キロ先の体臭や血の匂いを嗅ぎ分けられるくらいに優秀で密偵や捜索などで大活躍している。だからこそこの臭い玉が最大の弱点になる。今回は納豆とくさや、そしてシュールストレミングを細かくすりつぶしたものだ!さすがに鼻栓をおれたちはしてるが通り越してくる、くせぇ!
「う、うぎゃぁー!!」
手応えありだ!まるで呪いにかけられたように悶え苦しんでるぞ。まぁこれも呪いみたいなもんかw
その隙に剣の柄で窓を割った。そしておれたちはその前にいる。臭いは窓を割ったことで徐々に外に逃げている。男はマスクを着けてなんとか深呼吸して落ち着いた。
「はぁはぁ、死ぬかと思った。
貴様何を、待て...何をしようとしている?」
まるで今にも飛び降りようとしているおれたちはまるで滑稽だろうな。
「正気か、自ら死を選ぶとは。」
「だな、確かにイカれてるな。
一般的なやつならな!」
そう言ったおれはあかりちゃんを押して突き飛ばす。
「なっ!」「えっ...」
「うわぁぁー!!」
「貴様何を!?」
「じゃあな!着いて来れるもんなら着いてこいや!」
おれは後ろからそのまま飛び降りた。
ーーーーーー
「いやっほー!」「うわぁぁー!!」
ちょうど今下に落下中だ。高さ500メートルからの飛び降りならなんとか生き残れる。
こいつを使えばな!
くるっとあかりちゃんの方へ向きおれは磁力を込めた砂を辺りにばら撒く。建物やアンテナなど下に付着させてそして糸を使ってどんどんあかりちゃんに近づく。
あかりちゃんの元へたどり着いたおれは抱き抱えて糸を使って移動をしていく。
「すごーい!!」
あかりちゃんは最初こそ驚いていたが次第に景色を一望できるこの糸の移動に感動を覚えていた。子供はやっぱり好奇心が旺盛だから好きだ。
「な、言ったろ上手くいくって!」
あの時おれはあかりちゃんに耳打ちした内容はこの通りだ。
「あかりちゃん、多分建物の周りは包囲されてるから仮に戦ってもいずれ捕まっちゃう。
だからあえて上から逃げる。鳥人族の追手もすぐには対応できないからその間にまずは秋明を脱出するよ。」
「上から?」
「うん、展望台にいるだろうから窓をかち割ってそこから落下する。おれには空中での移動手段もあるから、だから信じて欲しい。必ず君を逃す。」
「わかった、信じる。」
打ち合わせを事前にできていたから上手くいった。もし一つでも不測の事態に陥っていたら最悪はまた強化剣をつかって戦う羽目になっていたからおれにとってもこう上手くことが進んだのは運がよかったと言える。
「さぁて、このままこの国を出るぞー!」
「おおー!」
おれたち2人は秋明を脱出してバイクに乗り込みおれの家まで連れてくことにしよう。
そしてモニターの映像を解き明かすために事件の真相を探ることにする。
to be continued
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