EP.7「鬼族の少女」
あかりちゃんを連れて宿にたどり着いた。
厳格な門が目印になっているからすぐに分かる。庭園は鮮やかな緑が目立ち、池には魚が泳いでいる。中に入ると数十名の仲居さんが出迎えてきた。
「「ようこそ余韻館へ!」」
大層ご立派なお出迎えだこと、そう思いロビーの受付に向かった。
「こんな立派な建物初めて入った。」
「そうなの?まぁおれと一緒にいればこういう場所いっぱい行けるさ。」
強がってはみせるけど昔の貯金も実はあんまりないのは事実。あと何年かしたら底を尽きそうだと内心思っていた。
こういう立派な宿だと一泊だけで1週間分の生活費がぶっ飛ぶからほんとは1人で泊まりたかったけど、さすがに子供の前でそんなかっこわるい姿は見せられないと思いがんばることに。この子もいろいろと辛い目に遭っているから尚更そう感じさせる。
「すみません、予約はしていないのですが本日一泊お部屋を取ることは可能ですか?」
「少々お待ちください。
...はい、可能ですが1番お高いお部屋になりますがよろしいでしょうか?」
「ええ、構いません。いくらになりますか?」
「お二人分なので合計で78000円となります。」
な、なんだって!?
一泊で78000円も取るのかよ!ぼったくり商法はいい加減にしろと喉元のところまで出かかっていた。あかりちゃんはおれのこと見てるし...クソ、しょうがねぇ。
渋々支払いを済ませた。
「ではお部屋へご案内致します。」
これですっごい豪華な部屋じゃなかったらマジで訴えてやると思いながら通路を歩いて行った。歴史的な壺や陶器が通路に展示されている。絡庵の中でも1番古い旅館になるから様々な絡庵の歴史の展示も行っている。博物館に来ているかと錯覚してしまうくらいだ。
階段を登ってしばらく歩くと部屋にたどり着いた。さぁて肝心の部屋はどんな感じかな。
「こちらのお部屋にございます。
ごゆっくりおくつろぎくださいませ。」
部屋の中は正に和室。
畳は高級な素材で襖の木材もしっかりと年季が入っている。景色もこの秋明の街を一望できるし四季によって景色も変わる。
この部屋なら確かにそのくらい取っても元は取れると感じるくらい素晴らしい部屋だ。
「すごいねお兄ちゃん!」
「だな、まさかこういう部屋に泊まるとは思わなかったからびっくりだよ。
少しゆっくりとしてな。」
そう言ってあかりちゃんに落ち着いてもらってる間にあかりちゃんに関してのデータをHEARTに用意してもらう。
「HEART、どう思う?
あの子は本当に鬼族の血を引いているのか?」
「おそらくは間違いないかと。
片方残っているツノの遺伝情報を分析したところ、かつて存在した鬼族のものと一致致しました。」
「そうか、やっぱりそうなのか。」
そのツノは頭にちょこんと生えているだけだが瞳の色が黄色、ケガをした頬からは藍色の血。間違いない。やっぱり鬼族の女の子だ。
そうとわかればいくつか聞きたいことがあるからあかりちゃんに近づいて少しずつ聞いていこうと思う。
「あかりちゃんちょっといい?いくつか聞きたいことがあるんだ。」
「聞きたいこと?」
「そそ、まずフルネームを教えて欲しいんだ。」
「長盛あかり」
長盛、聞いたことあるようなないようなの苗字。記憶を遡りながら他にもいろいろと聞いていく。
「なるほどね、次に他にもあかりちゃんとおんなじ鬼の一族っているのかな?」
ある意味核心的なことを2番目にぶっ込んだけど意外とあっさりと答えてくれた。
「私たちは数年前まではこの近くの集落で暮らしてたの。人数は少なかったんだけど普通に生活してたんだ。だけどある事件が集落を襲ったの。」
「ある事件?」
「世界政府の五大老が種族間引き計画ってのを立てたの。」
はぁ、あのクソ老害が。死んでからもこうやって遺恨を残すつもりかと思った。
五大老とは、かつて太古の昔に最初のシニガミ『黒崎亜惰無』とその妹の『黒崎衣舞』の兄妹によって拾われた5人の孤児達。
ある時期に禁忌の秘宝に触れて寿命を限りなく伸ばしていた。邪魔な種族や連中を排除したりクソみたいな政策をゴリ押しで通したりとやりたい放題はしていた。ただそれでも破滅の予言から世界を守ろうとしていたのもまた事実だった。
その五大老は他でもない、おれが殺したんだけどな。
「その五大老は死んで、その計画はなくなったんじゃないの?」
「でもみんな、バラバラに散っていってお父さんやお母さん達とはぐれちゃったの。」
「そうだったのか。
お父さんとお母さんはどこにいるかわからないの?」
「死んだよ。世界政府にクーデターをしたあのテロにみんな参加して...
つい最近手紙でそれを知っちゃったから...」
あかりちゃんはまた大粒の涙を流し始めた。
そうか、あのクーデターに参加してたのか...
もしかしたら知らずにおれはあかりちゃんの両親を殺していたのかもしれない。
幼馴染が妹の日菜を殺されたことにより密かに計画されていたクーデター。
たくさんの種族から世界政府に恨みを憶えている連中で宣戦布告をされた。
おれは当時世界政府のトップとして幼馴染と戦い、そして世界を救った。
たくさんのものを犠牲にしてまで。
たとえあの時世界を守るためとはいえ、この子の両親や仲間を殺していたのならおれはこの子を守る資格なんてない。
ここでもおれが過去に犯した罪に悩まされることになるとは思わなかった。
ーーーーーー
「そうだったんだね...」
また少し落ち着いてからいろいろと話を聞いていこうと思い、なだめてからあることを提案した。
「よかったら温泉入りに行こっか!」
「温泉...?」
「そそ!体を流してゆっくり湯につかって疲れを癒していこうじゃありませんか。
頭はタオルとかで隠せば大丈夫さ。」
「うん、お風呂は好き。」
「よし、じゃさっそくレッツゴー!」
無理にでも明るく振る舞うことがせめてもの罪滅ぼしの一つになるのかな。
そうして温泉へと向かった。もちろん豪華じゃなきゃクレーム入れてやると考えていた。
男湯、女湯がある。
混浴もあるけど、大体は子連れだからなと思った。せめて学生とかいい体のお姉さんののぞきがしたいんだ。
男湯の方へ入ろうとするとあかりちゃんが袖を掴んできた。
「一緒に入らないの?」
寂しそうに言うから悩むじゃねぇか。
「あのね、あかりちゃん。
もう少しおおきくなったらおんなじことは言えなくなるからね?」
「え、言えるよ多分。」
もう少し大きかったら多分襲ってる。
いい体なら尚更。
まぁこんなこと考えてるおれはただのむっつりだよな。切り替えるか。
「わかった。じゃ一緒に入ろっか。」
「うん!」
はじめて笑顔を見せた。
なんだ、いい顔するじゃんって思った。
脱衣所で服を脱がせてタオルを巻かせる。
おれも服を脱ぎいざ入るぞ!
「わぁーすごーい!」
あかりちゃんはとても中の景色に驚いていた。まさにこの余韻館最大の見せ場と言ってもいい温泉。
なんと中には太古の昔からある滝と大木が植えられているのだった。大木からは魔力を感じる。その根と滝のながれによって温泉がかき混ぜられている。かき混ぜられた温泉は大木の養分として吸われていき魔力を生成する。そのサイクルで体の疲労や心の疲れを落とすのだとか。
「早く入ろうよー!」
「ダメだよちゃんと体流してからだよ。」
そう言ってあかりちゃんの背中を洗っていく。ところどころ傷がある。ずっと1人で逃げ回ったんだなと思うところがあった。
「私もお兄ちゃんの背中流す!」
そう言うとあかりちゃんはおれの後ろにまわって背中を洗ってくれる。
するとあかりちゃんは驚いた声で。
「え、これなに?」
体には様々なキズがある。今まで戦ってきた強敵たちとの戦いの記憶。おれが辿ってきた道そのものと言ったところだ。
「ひどいキズだよ...大丈夫?」
あかりちゃんは本当に優しい子なんだと実感した。普通はこのキズの数々を見たら引くもんなんだがな。
「大丈夫だよ、傷だらけだよねw
勲章ものってやつ?w」
「何それw」
やっぱり子供には笑顔が1番似合うっての。
to be continued
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