EP.6 「速報」
毎日悪夢にうなされている。
今度はおれの過去だ。正確には過去にあった出来事なんだけどそのことがフラッシュバックしていく。
起き上がってシャワーを浴びる。
血で染まった手で体を洗うのは皮肉だろうか、手だけは何度洗っても落ちてるように見えない。
風呂から出て今日も出かける支度をする。
今日は一体何をしようか、ちょうどこの間ニュースになっていた話題のラーメンを食べに行こうかと考えていた。
あっさりだけど味が濃く、学生とかに人気のラーメンだから開店前でも行列で待つことにはなる。
念の為何があったかを『HEART』に聞いていくか。
「HEART、寝ていた間に何か事件とかあったか?」
「はい、昨夜にご報告しました小さな町が壊滅した事件ですが新たに進展がありました。
現在絡庵軍が各地で捜査をしていた中、あるものを入手したそうです。
「あるもの?」
「はい、鬼族のツノを発見したと。」
「そんなバカな、鬼族はもう滅亡したはずだ。今はもうおれしか継いでる人間はいないはずだ。何より鬼族のツノは折れないはず。」
そう、今世界で唯一おれだけがその一族の血を継いでいる。正確にはおれの親父が人間と鬼族のハーフだった。
ちなみにおれの母はエイリーン族だったからおれは25%継いでいるクォーターな感じ。だから腕が切り落とされても普通の人間よりはだいぶ治りは早いし回避をしている動作も遺伝が大半を占めている。
鬼族。
1000年前の神木真莉也の時代が最盛期。
主に武器の錬成や建築技術を扱える一族で戦闘に関してもあのエイリーン族に匹敵するくらい強かった。
それも過去の話で鬼族は繁殖本能が極端に少なかったために少しずつ生まれてくる数とは反比例して次々と戦で死んでいく。
親父が生まれたのはある意味奇跡としか言えないくらい。数えるくらいしか存在しなかった。
そして数年前に起きた『ZEANの反乱』という戦いにて残りわずかの鬼族たちが住んでいた集落も巻き添えになって、絶滅したはずだった。
きっと鬼族を語る何か別の種族の犯行か博物館に展示してあったツノを盗んであたかもまだ鬼族は生きているとマスコミなどを騙そうとしているんだろう。
そう考えるとなんかくだらない事件だなと思ってしまった。もういいや、聞かなかったことにする。
「んー...
HEAIT、たぶんその事件はでっち上げのくだらないものになりそうだからとりあえず様子見程度にしよう。そんなことより『湊』ってラーメン屋の行列はどんな感じ?」
「はい、現在お店の前に15人ほど並んでますね。」
「何!?こうしちゃいられない!」
おれは急いで家を出てバイクにまたがった。
そしてスピード違反ギリギリの速度でラーメン屋へと向かった。
一方その頃、絡庵周辺にて。
「はぁはぁ...」
1人の少女は追手から逃げていた。
目当てはもう一本生えているツノを狙って。
下手に軍人に捕まってしまえば研究材料にされてしまうかもしれない。自分たちの仲間を殺した世界に恨みを持ちながら1人静かに暮らしていたはずの子か今必死で逃げていた。
助けてくれる人はおそらくいない。
ーーーーーー
バイクを走らせて20分、ようやく店の前まで着くとなんとさらに10人増えていた。
「えぇ!?うっそだろ!」
思わず叫んでしまった。まぁ人気なのはわかるけど、一体おれの番までいつぐらいかかるんだろうか。早く食べたいなー。
お店の場所は絡庵の首都である『陽明』にある。絡庵では様々な種族が垣根を超えて技術を提供し合っている。もちろん食べ物屋も例外じゃない。きっと天国に行けるような味なんだろうと1人で期待している。
30分待っても5人が中に入っただけ。
このお店は入ってからさらに10分くらい待つことになる。スープの煮込み具合や薬味、そして麺を湯切りしたりなどをその場で見せることになっている。質をとことん極めているからこそ行列の人が捌けない。
でもそれがいい、それだけ最高のラーメンを食せるなら本望だ。
さらに1時間半後、ようやくおれは店の中に入れた。途中寝ていたのは内緒。
中に入ると7席しかカウンター席がない。どうりでこんな時間まで待つわけだ。
だがスープの匂いがすっごく美味そうだ。
ベースのだしは一体なんなんだろうな。
麺を湯きりしている音がまた食欲をそそる。今日の薬味は柚子を細切れにしたものだ、それを入れることでよりあっさりとした味になると言う。
そしてようやくおれの前に待望のラーメンが出された。写真を取ってまずは一口すすっといく。
あぁ美味い...
こんなラーメンは初めて食べた。
麺にコシがあり、それでいて噛むと柔らかい。スープもダシは煮干しだ。あっさりとした見た目なのに味はしっかりと口の中で広がるコクがある。
そこへ薬味を入れて少しかき混ぜ、もう一口食べると味がだいぶ変わっていった。
酸味がスープに合う、柚子だからこそよりこのコクにピッタリだ。
おれが食べてきたラーメンの中で1番美味い。
そりゃこんだけ並ぶよなってここでハッキリと理解した。
ーーーーーー
「いやー美味かったなー!
もう一杯食いたかったなー。」
あのラーメンの余韻に浸りながらバイクを走らせていた。せっかく絡庵に来たんだ。
もう少し街を見ていこうかと立体駐車場に停めて歩いていくことに。
ここは「秋明」、首都ほどではないが多種族国家のメリットで様々な文化が混じった街並みだ。例えば首都は正に未来都市に対して、秋明は歴史ある建物を中心に温泉や旅館などが立ち並ぶ観光都市だ。
せっかくなら泊まるのも悪くないなと思い、旅館を探していると街の中央にあるデバイスモニターにあるニュースが流れて来た。
「速報です。
現在我が軍が捜索を試みている少女の身体的特徴が判明しました。
片方のツノが折れている鬼族の少女とのことです。見かけたら近くの警察もしくは管轄の役所にご連絡をお待ちしております。」
鬼族だって...?
とうとうこの国の情報網はとち狂ったのか?
だって既に絶滅してるはずだぞと思いながら引き続き旅館を探していた。
そしてめぼしい旅館を発見した。歴史的に長く、歴代の総司令官たちが好んで愛用している旅館だと。
そこへ向かって歩いていると左から走って来た1人の女の子とぶつかってしまった。
「あ,すまん大丈夫か?」
「いえ...大丈夫..です。」
どうやら息切れしていて片言のように聞こえた。その子はパーカーを身につけてフードを被っていた。顔は少し汚れていてそのパーカーも穴があいていた。
すると奥から走ってくる連中が現れた。随分と目が鋭いこいつらはおそらくこの子を追って来たのだとすぐに把握した。
それに気づいた女の子はさらに逃げようと試みるがもう走れるだけの体力が残ってなかった。それでも片足を引きずりながらでも逃げようとしていた。だが子供の足では大人の足には敵わずについに捕まってしまった。
「やっと捕まえたぞ化け物が。
大人しくこい!」
「痛い、やめて...」
お前らの見た目の方がパッと見化け物だぞとは思った。
追手は昆虫族と呼ばれる文字通り虫が人間体になったような姿をしている。普通の人間からしたら言葉を話せて二足歩行してるのは化け物にしか見えない。
さてと、とりあえず見なかったことにして旅館に入ろうとした。追手は女の子のフードを剥がして素顔を晒した。
片方のツノが折れていた。さっきニュースの速報で言っていた特徴のまんまだ。
じゃこの子が鬼族の...
前言撤回だ。おれはあの子を助けるために追手の腕をつかみ...
「女の子に対してそんなことすんなって。
店のやつにしか相手にされねぇ素人童貞かよお前らw」
いつものように相手を煽っていく。
「なんだお前...」
「目が赤い人間、バケモノか!?」
化け物にバケモノと呼ばれる筋合いはありませんよ全く。
たまに役に立つよなおれのこの赤い瞳は。
「弱いものいじめなんて、じゃおれがお前らをいじめたって文句言うなよなw」
まぁ軽くお楽しみを与えてあげました。
ーーーーーー
「雑魚が、イキがってるからやられちゃうんだよ全く。」
呆れながらとりあえずボコしたからあれだけど、注目されてないよな...?
「大丈夫か?」
「ありがとう...どうして助けてくれたの...?」
見た感じまだ10歳くらいの女の子だ。
そんな歳でこんな災難に遭うなんて辛いよなと思いながら答えていった。
「昔、君とおんなじような境遇のやつ助けたことがあるからかな。
なんて名前なの?」
「...あかり。」
「あかりちゃんね、泊まる場所とかあんの?」
そう聞かれたあかりちゃんは首を横に降る。
まぁ逃げて来たからそりゃそうだよな。
とりあえず話を聞きたいのもあるし、一泊するくらいならなんとか大丈夫だよな。
「そっか...
じゃおれと今日は一緒にいよう。おれは信道瑞希、気軽に呼んで!」
自己紹介をすると我慢していたんだろう。
彼女は思いっきり泣き出した。大丈夫、今は胸を貸すから。そしておれがいれば何もかも解決するさ。そう思いながら優しく頭を撫でながら抱きしめていた。
ーーーーーー
「全く、素直じゃないやつ。」
私は神域にて状況を見ていた。
煽ったり自己中なところはあるけれど結局人のために行動してしまう瑞希。
そんな風景を見て悲しい顔になってしまった。
「名前なんて教えても、どうせ忘れられるのに...」
to be continued
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