Ep.2 「誰がために」

こうして謎の酸を使う科学者の風貌の人間との戦闘に入った。

やつは試験瓶を取り出し最初の攻撃に移る。




バシャ






辺りに振り撒き、超高温というか酸の濃度によって発生したガスで身を隠していく。忍者のような技を使っていくんだなと思った。



どこだ?辺り一面が濃度の濃いガスに覆われているから視界が悪い。まるで霧に包まれた森林の中にいるようだ。

そうしておれは取り出した剣を構えながら待つと、次の瞬間...




そこにはすでにおれの目の前に敵はいた。




「もらった!」




そうやっておれを撹乱する算段だろう。

おれは液体を振り撒く攻撃を糸を使ってかわしていく。磁力のこもった砂と特製の糸で出来ているもので移動や回避をメインに使っている。

まるで蝶が辺りを舞うようにかわしていく。



元々こうやってヒットアンドアウェイなやり方で戦っていたおれだからできる戦法だ。




「チッ、ならこれならどうだ!」




そう捨て台詞を言うと今度は用意していた試験瓶に新たな液体を混ぜて上空に飛ばす。

するとその試験瓶は破裂し、霧雨のようなものを降り注がせていく。



おれはそれを難なくかわして相手との間合いを少しずつ詰めていく。周りにある建物はその霧雨を浴びて徐々に溶けていく。夏の日射にやられて溶けるソフトクリームのようにドロドロと形を変えていきながら。





よかった、周りに人がいたらみんな同じように溶けていたとなるとそれはそれでおぞましい。





「クソ、なぜだ!?なぜお前はおれの攻撃をそう簡単にかわすんだ!?おれの計算じゃ98%の確率でこの攻撃は避けきれないはずだ!」




なんだ、もう降参か?

張り合いが無さすぎるんじゃないか?



そう思いながらもちゃんと返答しようと思う。



「生憎おれはお前のようなわけわかんねぇ攻撃をしてくる敵とたくさん戦ってきてんだよ。お前のその攻撃は確かに一般人にとってはとても避けきれねぇよ。

その酸の霧雨は確かに辺り一面の建物がこうドロドロと溶けてるのを見ると威力は本物かもな!」




「なら何故!?お前は避け切れる!?」




「それは戦ってる相手がおれだからな。その時点でお前はすでに負けてんだよ。もう降参しろ。そうすりゃお前を殺しはしない。」




そうやって相手をわざと煽ってみようと思う。

さすがにこれじゃわざわざおれが戦うまでもないと感じるから。



そう言って相手にニヤリと笑いかける。




もう一般人は周りにはいない、心置きなくなんとか戦えるのは確か。

なら今度はおれの番だ。

そう思いながら剣に指先で柄からなぞりながら魔力を込める。

徐々に柄の部分から剣先に向けて赤黒く光っていく。




そう、強化剣だ。

おれの十八番の戦い方。




「一瞥を」




そう決めセリフを言いながら剣先まで魔力が溜まっていった。



だがこれにはある発動条件がある。





おれの命そのものだ。







生まれた時から心臓に不治の病を患ってるおれは自分がいつ死んでもいいように人生を生きてきた。

面白おかしく、それでいてみんなが楽しめるように調和を持って...




そんなおれはこの強化剣を使えば、確かに最大限の能力向上につながるけど、その代わりこの技は心臓に大量の負担を強いる技。そう長いこと使用できないのは事実。




ということはいかに素早く、相手にとどめをさしていくかがおれの戦い方になる。




「なるほどな、その剣に触れたら確かに危なそうだ。お前という男は他の人間とは少し違うようだ。

いいだろう、おれも少し本気になるとするか。」




なんだろう、モブのような悪役が言いそうなセリフしか吐けないのか?




そう思うのも束の間、あいつは大量の試験瓶を用意した。





「アシッドフラッド」





次々と試験瓶を空に向かって放り投げていく。

放り投げられた試験瓶は地面に向かって落ち、アスファルトにぶつかりどんどん割れていく。





その液体同士が重なり、まるである種の科学反応を起こしたかのように液体が増殖していく。

そしてやがてゼリー状になり、巨大なスライムのようなものへと変化していった。



「さぁ、潰れてしまえ」



そういうとそのスライムもどきが突然もがき、そして破裂した。

そして破裂したスライムもどきが荒れ狂う洪水になり、おれに向かって流れていく。



もちろんこの洪水の波そのものが高濃度の酸になっているから少しでもかかったらお陀仏だ。




全く、めんどいのを作ったもんだと感心する。

いや感心してる場合じゃない、どうやって避けようか。



ん?あれは...




ズゴゴゴ、ザバブシャーン






ーーーーーーー



「これで死んだか...」

辺り一面ゼリー上の物質で埋め尽くされていた。それらがそれぞれ酸でできているから街路樹や道路などを溶かし始めている。



「そいつはどうかな?」




「なんだと...まさか」




おれはあっけなくバラした。

その方が揺さぶりになると踏んだから。




「なぜあの攻撃をかわしてるんだ!あの範囲攻撃には手も足も出ないだろ」




瑞希「そりゃあ上空にいれば当たるもんか」




そう、あの一瞬であるものを見つけた。




崩れた建物にまだぶら下がってたテレビアンテナだ。

それに磁力を込めた糸をアンテナ架台に縛り、それで一気に上空へ避難したってわけ。




ちなみにこの糸は最大40ヶ所同時に貼ることができ、それぞれ独立した動きをすることができる。

まるで綱渡りのような感覚に近い。




まぁ、あの攻撃で周りにあった障害物がなくなってるから次はこうはいかないだろうけどな。




「こうなれば、おれ自らが戦うしかないな。ここまでやれた人間はお前が始めてだ。

本当に一体何者だ?お前ほどの人間がいれば世界政府は黙ってないはずだ。」





「お前が知る必要なんてないだろ、ここで死ぬ人間がおれについて知る必要なんて。」





「そうか、ならお前におれという存在を認識させてやる。

おれは霧谷彰人、元世界政府の軍事科学部門の科学者だったのさ。」


あー、いたようないなかったような?




「世界政府の人間はおれの科学や知識を理解できなかった。人は皆、おれの考えている通りの存在になれば争いはなくなるというのに。」




「いや、争いは今お前が起こしてるようなもんだろ?」





「わかっていないなお前、人はみな不完全だ。

1人では何もできないくせに互いが互いを傷つける。それは互いの存在を本質的に理解できないからさ。100%その人間を知ることができないからさ。」


それは確かにそうなんだが。







「そのくせ自身の思いや考えを主張し、相手を屈服させることで自分が上だと言うのをわからせる。それは紛れもない、悪意そのものだとそう思わないか?」



確かにその通りなのかもしれないが...



「だから人は異なる主張を完全に受け入れようとしない。むしろ異なる主張そのものを弾圧しようとする。そうやって互いがすれ違い、争いに発展するのさ。人は欲望に勝てない証拠になってるのさ。争いは人を狂わせ、そして利益を求めていく。」



.....




「だからといって、そうやって人を苦しめたり、殺したりして自分を正当化するのは筋違いだろ?」




「別におれは自分が正しいとは思わないさ。ただおれは研究をしていく中であることに気づいた。

それはもし、人が完全な意味で同じ存在になれたらどうする?」




「どういうことだ?」


なんだか嫌な予感がする。





「仮にもし人が本当の意味で理解するとするなら、それは2人が1人に、あるいはもっと多くの人間を一つの存在にすることさ。そうすればその人間はたった一つの価値観、考え方、感情を備えると思わないか?

おれはその考察を現実にしていくために研究をした。人を一つの存在にするために必要なものを。全てを一つに...その究極の夢に向かってな。



そして酸という答えに至ったのさ!

ありとあらゆるものを溶かすこのオリジナルな酸を開発した!もうさすがにおれが何をしようとしてるのか理解できるだろう?笑」




「お前、まさか...」




「そうだ、おれがやろうとしてるのは.....







全人類を等しく溶かし、1人の液体人間として完成させるんだよ!!」











to be continued...

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