叔母からの手紙

 千夜夢ちゃん、私のUSBを受け取ってくれてありがとう。

 あなたもご存知の通り、私に残された時間はもう多くありません。

 このUSBの中には、私が綴ってきたブログの記事と、そのブログには書けなかった記録が残してあります。

 細々と続けてきた雑記のようなブログですが、いざこうやって整理してみると積み重ねた日々は思いのほか膨大な量になってしまって、自分でも驚いています。

 あなたもきっと、このUSBを開いて驚いたことでしょう。一応、ブログにアップしていたものは日付順にしてフォルダに保存しているので、読んで頂く分にはその日付を辿ってもらえればと思います。

 あなたにはまず、このフォルダを最初に開いてほしくて、フォルダ名も「千夜夢ちゃん、最初に読んでね♡」としておきました(笑)

 ごめんなさい。前置きが長くなりましたが、私があなたにこのUSBを託した真意を書いておきたいと思います。

 

 私はただ、あなたに私のブログを読んで欲しいがために、このような形でそれを残したのではありません。また、あなたに対して、どうか私の形見にという話でもないのです。

 ここから先に書くことは、私の一方的な「お願い」になります。

 最後まで読んで、もし自分には出来ないと思うのなら、それはそれで構いません。

 でももし、こんな叔母の頼みを聞き入れてくれると言うのなら、可愛い姪の時間を奪うことになって本当に申し訳ないのだけれど、どうかよろしくお願いいたします。


 このUSB内に残されたフォルダには、ある一人の男性が登場します。

 読み進めてもらえれば賢いあなたにはすぐわかることだと思うけれど、私にとってその人は、とても大切な人なのです。

 恋心があったわけではありません。全く無かったのかと言われたらそれはちょっと答えるのが難しいのだけれど、少なくとも恋人同士であったわけでは無いのです。

 電話番号も知らないし、メールアドレスだって知りません。おかしいでしょう?

 お互いの住所すら知らないのに、私たちは時々会って、怒ったり笑ったりして、時間を共有してきたのです。

 今思い返してみても不思議な人でした。

 そして、幼少期から続くこれもまた不思議なご縁があって、私はその人に、生きる希望を見出してもらったのです。


 私はその人に、最期にある約束をしました。

 私を懐かしむことがあったら、一冊の文庫本を手に取って、私に会いに来てほしいと。

 私はその彼との約束を果たしたいと思っています。

 もちろん、これは彼が私を求めてくれた時の話しですので、そんな約束を果たす時が来るかもしれないし、来ないかもしれません。

 しかし、私は備えておきたいのです。

 そして、きっと彼は私に会いに来てくれる。

 心の奥では、そう信じています。


 話を戻しますね。私は病気になって入退院を繰り返し、体力的にも精神的にも限界を感じた時、ブログを閉鎖しました。それからしばらくはブログの事など思い返しもしなかったのだけれど、ある日この記録を整理しておこうと、思い立ったのです。

 ブログ自体はパソコン内にデータを残していたので、日付順にフォルダに残しておくだけの比較的簡単な作業でした。色々と思うところがあって残していた日記のようなものや、ブログにはアップ出来ない内容のものもあったので、そちらは時系列に並べて、新たにフォルダを作成しました。

 いつか彼が、私を訪ねてくれる。そんな日のための備えとして、体調の良い日に少しずつ少しずつ整理していったのです。

 

 だけど、彼と最期のお別れをして日記を書き上げたあと、私の体はついに悲鳴をあげて、私はついに死を迎える時が来たと悟りました。

 千夜夢ちゃん、私にはもうを完成させることが出来ません。

 あなたにこの未完成のUSBを託します。

 どうか、このUSBに残された記憶の中から、彼に向けて新たに纏めあげたブログを発信してください。

 彼はきっと、いつか時期が来た時には見つけてくれるはずです。

 それは人づてかもしれないし、彼自身がブログを探しあてるかもしれません。

 日本中、いいえ世界中のどこに彼がいたって、彼が私を探すとき、このブログは彼に向かって光を放つはずです。

 そして、もし彼からこのブログに何らかのアクションがあった時は、このUSBの一番下にある鍵の掛かったフォルダ。そのフォルダの存在を彼に教えてあげてください。


 鍵を開けるのは彼だけです。

 そして、そこに私はいます。


 千夜夢ちゃん。最後になりましたが、あなたのこれからの人生がどうか美しい物語でありますように。

 心からあなたの幸せを願って。

 あなたを愛する叔母より。

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