第60話 こ、こら! どこを触っているのだ
そして次の日。
俺たちはフィルドガルドでも特に有名な海辺、ソフィアビーチへとやってきた。
とりあえずみんなでおとり捜査しちゃお! という圧倒的多数決により、昨日急いで水着を買ったのだが……。
このわがままボディが着れる水着はかなり少なかったわけで。結局のところステテコパンツみたいなものを履いている。
やべえ、浜辺には人がいっぱいだよう。多分俺が一番悪い方向で目立ってるよう。
「まあ、素敵な浜辺ですわね」
おっと。さっそく着替えが終わって登場したのはお清楚・ビキニ・ルイーズだ。その清楚オーラが最も似合う白ビキニ。
崖っぷち亭の冒険者どもだけじゃなくて、周囲の一般人もチラ見を余儀なくされるビッグなものを持っている。どことは言わないが!
「うおお! ルイーズさまーーー!」
「可愛い」
「おっきい」
「はああ! 最高すぎ」
「ルイーズたん天使」
「浜辺を清楚オーラが支配してる」
「はああああ! たまらん」
「聖女様バンザイ!」
「すべての海は聖女様のもの!」
「スケールが違う」
「ここに来て良かった」
「聖女様ー」
さっそくうちの連中が騒いでんな。ちなみに後ろにいるシェイドは、俺とそんなに変わらないステテコっぽい水着だった。なんか安心した。
「それにしても君達の行動の早さには驚く。我も着替えは遅くはないつもりだったが」
続いて颯爽と浜辺に姿を現したのは、対照的な黒ビキニに身を包んだスレンダー・クールビューティ・スカーレット。シュッとしててマジ美人。
「あああ!」
「スカーレット様! 今日も素敵です」
「美脚が眩しい」
「黒がこんなに似合う人いないわ」
「やばい。もう仕えるしかない」
「虐められたい」
「あたしも憧れちゃう」
「スカーレット様ー!」
「ケモ耳可愛い」
「尻尾がいつになくセクシー」
「きっと豹柄も似合う」
「見下されたい」
いけない。こっちはこっちで何かいけない声がしてる。このような罪深い連中は見なかったことにしよう。
で、少ししてルーク君達ファミリーを引き連れたギレン伯爵が登場した。花柄のサーフパンツがダンディー過ぎる。
「さて、では皆さん。あまり離れすぎないようにして、何かあったらご連絡をお願いします」
「師匠、その水着、とっても似合ってます!」
「お、おう!」
ルーク君の無自覚な煽り。褒めてるつもりなのは分かってるけど、おじさんちょっぴり傷ついちゃったぞ。
「皆さんお揃いのようですね。ひとまずは、思い思いに過ごすとしましょうか」
最後に現れたのは受付嬢。赤ビキニとは! しかも腰にヒラヒラしたの巻いてるな。サングラスと右手に持ったトロピカルなジュースがまた大人感ありあり。
「オッケー。じゃあ俺は、適当にサーフィンでもするかな」
海辺でサーフボードの貸し出しをしているので、久しぶりにやってみようか。悪役貴族に転生してから、一時期やる機会があったので、普通の波だったら乗れる。
ちなみにみんな丸腰なので、もし人攫いに襲われたらどうするんだって話ではあるが、実はギレンさんや一部の人が荷物を持ってきてて、その中にみんなの武器が入ってる。
「カイさまの催しというのは、いつ始まるのでしょうか」
「どうやらまだ時間が決まらないようだぞ。しかし、アイツがこのようなことをするだろうか」
聖女と魔王娘は俺の偽者登場タイムが気になる様子。この会話朝から何回目だっていうくらい。
それにしたって人が多くて、こりゃ遊ぶのも大変そうだ。賑やかなビーチの中で、俺たちも同じように過ごそうという計画だった……が。
「やべえよ、海ってどうすりゃいいの」
「とりあえず海に入って笑ってればいいのかな」
「どうしていいのか分かんねえ」
「スイカ割ってればいいんじゃね?」
「そもそも何を楽しむんだ?」
「水着のねーちゃんとイチャつくんだよ」
「だからどうイチャつくんだよ」
「ってか、聖女様とイチャつきたい」
「俺はミステリアスなケモ耳姉ちゃんと、浜辺をバックに愛を語り合いたい」
「この機会に受付嬢と親密になりたいでゲス」
「まじゲスい!」
「女の子に話しかける勇気が出ない時はどうすればいいの?」
「さっきから俺らずっと突っ立ってるだけじゃね?」
「砂の城を作ろうぜ!」
「いい日差しだし、寝てようかな」
誰もエンジョイできそうな気がしない! 明らかに浮いちゃうぞ、大丈夫か。いや、実のことを言えば俺も自信などこれっぽっちもない。
難しいんだよな、こういう陽キャのフィールドは。俺はそもそも前世から陰キャだったわけで、みんなとキャッキャすること自体が鬼のようにハードル高い。
まあいいや、とりあえず一人でサーフィンしよ。そう思い砂浜を歩き出した時だった。
「アレク、少しだけ良いか?」
「ん? どした?」
ケモ耳黒ビキニに呼ばれたのでパラソルの下へ行ってみる。すると、意外とリラックスした感じでシートの上に座っていて、何か体に塗っているようだった。
「頼みがあるのだが。日焼け止めを塗ってくれないだろうか。背中の辺りだけで良い」
「マジ? いいのか俺、多分下手だぞ」
「他に満足にできる者がいるとは思えん。多少のことは気にしない」
そして細長いスティックのような物を手渡された。頼まれちゃったかー。いや、もしかしたら俺、ちょっとけしからん奴かもしれんぞ。その警戒心のなさ、やはり大物の風格が漂ってるわ。
とはいえ、なんかドキドキしちゃう。それと普通にうつ伏せになっちゃった白い背中を前にして、なぜか既視感が。
そうだ。悪役貴族時代も、こうやって塗ってやったことがあったんだった。
「どうした? 適当で良いぞ」
「オッケー」
スカーレットには何度も決闘を挑まれ、外に連れ出されたものだった。でも、決闘のはずが海で過ごしたこともあったのだ。
ふと懐かしい夏の日を思い出しちゃったけど、思えば決闘なんて言いながらビーチで遊ぶっておかしいにも程があるだろ。
いや、もう過ぎ去った思い出のことを考えるのはやめよう。とりあえず高級そうな日焼け止めクリームを背中に垂らしていく。こういうのはわりとたっぷり塗るのが良い、と前世のネットで見たことがある。
「ん……」
クリームが細い背中を伝っていくと、ちょっとアレな声を出されてしまう。
ってかちょっと量多すぎたか? まあいいや、気にせずさっさとやってしまおう。
そのまま手のひらで背中から肩にかけて、できる限り丁寧にクリームを広げてゆく。スカーレットネキの息遣いが聞こえてくる。
あとはもう少し下のほうも同じように塗っていけば終わり。サラサラーっと同じ容量で、中心から外側に塗っていくべし。
「……ん、ああ……こ、この触り方は……」
うお! 急に体を捩らせちゃう魔王っ娘。そのせいで、クリーム塗れの手が前に! やべ!?
「あん! こ……こ、こら! どこを触っているのだ」
「いやいや、事故! 事故だ!」
一瞬だが薄い胸部装甲に手が触れたかも。やばすぎる偶然の事故! ビクっとした後にトップスをしっかり付けて起き上がったスカーちゃん、ちょっと顔が赤くなっとる。
「まったく。君はドジなところがあるのだな。……だが助かった」
「お、おお」
心なしかいつもよりボソッと喋ってる。
「しかし先ほどの手つき、なんだか懐かしい気もした。アイツを思い出した」
いやいや、日焼け止めを塗る手つきなんてみんな一緒だろ。
こんなんでバレたら恥ずかしくてやってられん。さっさと逃げよ。
「アイツ? よく分かんねーけど、俺はそろそろ海に——」
「アレクさま! こちらにいらっしゃったのですね。少しよろしいですか」
すると、今度は白ビキニでお清楚マシマシなルイーズに呼ばれた。まさかこっちも塗らないとアカン系?
「どうやら浜辺に建てられたステージに、もうすぐカイさまがやってくるらしいのですっ」
「なんだと!? すぐにゆこう」
やる気になってるスカーレットを横目に、この後どうなっちゃうんだろとソワソワしつつ、そのステージとやらを見にいくことにした。
こうなったのもお前が悪いんだぞ偽者め。どうなっても知らん!
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