第二部 夏だ! ビキニだ!! 島国だ!!

第36話 ガハハハー! 大漁だぜアニキー

「やあみんな、俺やで」


 いつもどおりに冒険者ギルド【崖っぷち亭】にやってきたので、とりあえず挨拶してみた。


 しがないおっさん冒険者である俺、アレクが通えるギルドなんてここくらいだ。


「あらアレクさん。おはようございます」


 でも挨拶を返したのは受付嬢だけで、他のみんなは特に反応なし。これだよこれ、こういうのでいいんだよ。


 あの変態勇者ディミトリの一件から早くも一ヶ月が経ち、噂話もなくなってきた今日この頃。どうやら俺は元の日常を取り戻しつつあるらしい。


 マジでこの一ヶ月は大変だったからな。聖女ルイーズや魔王娘スカーレットからは、本来の俺についてガンガン質問責めにあった。


 とても危ない時間を過ごしたと思う。しかし俺は逃げ切った!


 本来の俺【カイ】とは友人だという設定をフルに活かしきった! ……と思ってる。多分大丈夫、信じてくれたと信じてる!


 それと新しい家がなかなか決まらなくて転々とした挙句、モヒカンの家に居候しちゃった時もあったし、金髪バニーことエチカからはありとあらゆる依頼に付き合わされたし、いやぁ大変だったわ。


 ちなみにだが、この一ヶ月で変わったことがもう一つ。ディミトリとの戦いで破壊された遺跡島から、時々妙なものが港付近に流れ着くようになった。


 大抵の場合とっても価値が高い遺物なんだけど、たまに少女モノのパンツが流れ着くようになり、特にたくさん流れ着く場所は【下着岬】なんて名付けられちゃう始末。


 よくもまあ履いてた奴を知らないのに、あんな夢中になれるもんだわ。いや、知ってしまったらもっと大騒ぎになって需要が限界突破しちゃう。


 本来の持ち主だった聖女ちゃんには口が裂けても言えないが、下着岬は今や隠れた紳士達のスポットになっている。うちのモヒカンなんて、漁で使う網を持って行きやがったからな。


「ガハハハー! 大漁だぜアニキー」


 なんて豪快に下着を持ってギルドに入ってきた後、アイツは数日ほど出禁になってしまった。あの時は受付嬢が怖すぎて俺までビビったわ!


 以上、とりあえず一ヶ月間の振り返りはここまでにしよう。


 まあそんな日々を過ごしているうちに、なんだかんだで俺は平常運転に戻りつつある。このままスローライフに突入できそうな気配を感じていたんだが。


 なんか背後で、ガン、ガン! っていう変な音が聞こえてる。


「あら? なんか通れないわ。えー、計算ではこのくらいはいけるはずだけど」


 振り返るとバニーがいた。うちのギルドの無自覚アイドルである。


「何背負ってんだ?」

「ふふふ! これはね……私が遺跡島の魔道具を拾い集めて作った、最強の魔導砲よ!」


 すげーなおい。こんな長い大砲みたいなものを作りやがったのか。しかも肩に装着できるようにしてるんだけど……なんか既視感ある。


「もー、バニースーツにくっ付けちゃったから入れないわ」

「今日は上がりでいいんじゃね?」

「ううん! まだ上がれないわ。とっておきの依頼が来たって噂、たしかに聞いてるのよ!」


 不敵な笑みを浮かべるウサギもどきを見て、なぜハッとした。そうだこの感じ、すげー昔に見た◯ンダムに似てる!


 しかも今日のバニースーツは、青と白が混じり合った意味不明なカラーリング。ますますそれっぽい。


「はい。今日は特に大きな依頼が入っていますよ。何しろ、海賊船の調査と討伐ですから」

「「海賊船!?」」


 ひさびさに冒険って感じじゃん。ってかエルドラシアに海賊なんて来るっけ?


「ここ最近、港から出た船が襲われることがあるらしいんです。他のギルドの方々も調査に出てるんですけれど、見つからなくって」

「だから崖っぷち亭にも依頼が降りてきたのね!」

「報酬は?」


 いろいろあってお金が心許ない俺は、冒険心よりも懐を潤したい一心である。


「もし海賊船を捕らえることができれば、銀貨二十五枚になります」

「よし乗った!」

「乗ったわ!」


 これは迷う必要なしの高給案件だ。


「まずはお二人、と。ただ、この依頼はもう少し人がいるんですが——」


 と受付嬢が思案していると、遠くからカシャン、カシャンという小気味いい音が近づいてきた。


「ういっすー。お、アニキにバニーちゃん。なんかあったのか?」


 モヒカンだ。以前よりも刺々しい鎧着てる。


「モヒカンちゃんおはよ。私達、これから海賊船を捕まえに行くの」

「海賊船!? うおおおお!」

「お前も行くか?」

「行くぜ行くぜー! アニキにバニーちゃん、見ててくれよ。今回は二人が何もしなくても、俺一人で全員ぶっ飛ばして海賊船沈めてやらぁ!」

「沈めるまではしなくていいぞ」


 本当に沈められたら報酬が心配だわ。いつになく気合が入るムキムキ世紀末野郎。体感温度が上がる上がる。これにはようやく出禁を解いてくれた受付嬢もニッコニコだ。


「はーい。それでは三人ですね。あと数人くらいはすぐ集まりそうですし、アレクさん達は参加決定にしておきます」

「おっし。じゃー調査行くか」

「腕が鳴るわねっ」

「ガハハハ! 海賊なんて怖くねえぜ」


 とはいえ、そう簡単には見つからんだろうな。現実ってやつの厳しさとつまらなさをぼんやり予感つつ、まずは港に向かうことにした。


 ◇


「ひいいゃああああああーーー! アニキーーー! 助けてええええ」

「うるせーって! しっかりしろ!」


 とりあえず調査だけで終わるかも……そう思っていた時期が俺にもありました。


 実はなんだけど、あの後しばらく借りたボロ船でウロウロしてたら、夜になってほんとに海賊船を見つけちゃったんだ。


 でもそこに巨大な幽霊船が現れて、幽霊というか悪霊どもの襲撃に巻き込まれているっていう超展開。うん、よく分かんないね。


 今は船上で、他の冒険者五人とあたふたしながら幽霊と戦ってる。ちなみに海賊達は真っ先に全滅した。


 それにしても今回のはえぐい。貞◯とか思い出すルックスの女が船上を埋め尽くさんばかり。普通に怖い!


「あああああーーーー!」

「あぶねえ! 落ちるなよモヒカン!」


 モヒカンの威勢の良さは既になくなり、スーパーお漏らし野郎に覚醒していた。もう船上にある水が海水か、奴の粗相かどっちか分からん。


 しかし、逃げ惑うモヒカンとは対照的に、うちのアサルトバニーはやる気満々だ。なんと肩に装着していたバスターが火を吹いた。


「ファイアーーー! きゃー!?」


 どうやら奴自身の魔力を使って放ったそのヒールキャノンは、たしかに幽霊の一部を吹っ飛ばした。だが自分も吹っ飛んだ。


「危ねえ!」


 落ちかけた仲間を一人の手を掴んで落下を回避!


 ついでにモヒカンも同じくキャッチ。今のこやつは清潔感ゼロ!


 すると後ろからわらわらとザ・悪霊どもが接近してくる。


「ひひゃああ!? アニキ、どうしよう!?」

「ごめん! 両手塞がっちゃったわね」

「問題ねーよ、ピュリファイ」


 とりあえず俺は二人にピュリファイをかけた。キョトンとするモヒカンバニーコンビ。


「今回は楽にいくで。ほい」

「あ、アニ——」

「え? あ、すご——」


 俺は立ち上がって二人と手を繋いだままダッシュした。キンキンに付与しまくったピュリファイによって、エチカとクリスティーは全身悪霊浄化兵器と化した。


 そしてなんかのアトラクションみたいに回転する。


 なんとも幻想的だねえ、とか一ミリも感じない光景だけど効果はテキメン。もう触れただけで悪霊女どもが浄化、浄化、浄化。


「おわああああーーーー!?」


 モヒカンの悲鳴が轟く中、幽霊達はあっという間に成仏していった。


ーーーーーーー

【作者より】

みなさん、大変お待たせしましたmm

またできる限り毎日投稿していきます!


それにしても危険な暑さですね汗

みなさんも体調にはお気をつけくださいー!

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