第35話 会いたかった!

 えええ……マジかよ。俺はドン引きしていた。


 ディミトリではなく、自分のやらかしに。想定では奴らを一掃する程度で終わらせるはずだったんだけど、島ごと破壊しちゃった。


 やべー、貴重な文化遺産がめちゃくちゃだわ。なんか以前より魔力高まってる気がするんだが、詳細はこの封印ツールを作った協力者に確認しなくちゃいけない。


 でもあいつ王都にいるし、会いにいくのめんどい。というわけで一旦は保留。ディミトリ含めてキメラ達は全滅したので、まずは帰ることにする。


 この体になるとかなり移動は楽だった。自分にバフをかけてひとっ飛びするだけで、山すら超えていける。


 そういうわけで海の小島から小島へ飛んでいくことを繰り返すと、すぐにエルドラシアに到着するわけだが、ここで俺はちょっとだけ迂回した。


 なにしろ港の辺りは大騒ぎで、人がぎっしりだったからな。あそこにピョーンとやってきたらどうなっちゃうか予想もできん。どうなっちゃうの?


 だからとりあえず迂回して、やや北西からエルドラシアへ。でもここで一つの問題が発生した。


 大陸に到着してすぐ、封印の剣にもう一度自分を封じる作業を行ったんだが、まだ姿が変わってない。本来の姿になるのはすぐだけど、アレクになるのは時間がかかるらしい。


 やべー、ここでどっかのケモ耳やお清楚ちゃんと遭遇したら大変すぎる。俺的に最も恐れていた事態に陥っちゃう。あー怖いわマジ!


 でもバニーとかモヒカンとか、心配してんだろな……。とりあえず大丈夫だってことだけは伝えてから、少しの間雲隠れするか。


 というわけで崖っぷち亭へ向かった。いかにも荒くれがいそうなボロボロの木製扉を開けて中に入ると、バタバタと焦りながら作業している受付嬢がいた。


「ごめんなさい! 今は取り込んでますので、ちょっと依頼は……」


 だが、なぜかこちらを見て作業の手がストップ。時間止まったみたいになってるな。


「ここが崖っぷち亭だな。俺はアレクという男の友人なのだが」

「は、はい。崖っぷち亭です。アレクさんですね、ここで活動されております」


 なんかいつもよりキリッとしてるな。まあ今の姿はまんま貴族だから、金づる来やがったわーウヘヘ! みたいな感じかも?


「実は先ほど奴は帰ったのだが、忙しいらしくてな。ギルドの連中に心配ないと伝えておいてくれと頼まれたのだ」

「まあ、そうでしたか。承知しました。そのようにお伝えしておきますわ。ご親切にありがとうございます。では、お名前を」


 すすーっと微笑を浮かべたまま近づいてくる受付嬢。なんか動きが普段の二倍くらい早い!


「たしかに伝えたぞ。失礼する」

「あ! お、お待ちにな——」


 スッと扉を閉めて立ち去る。この格好じゃ長居するの危険なんだわ。にしても、受付嬢って外の人にはあんな綺麗な感じで応対してるのか。


 ってか普段の俺もあんな風に接してくれないかな。いや無理か。貧乏な豚野郎にしか見えねーもんな。


 ◇


 さて、じゃあ一旦落ち着くまで、ギレンさんから借りてる家にでも隠れてようかな。


 そう思いトボトボと歩き続け、家に辿り着いたところで足が止まった。呆然としちゃう、マジ愕然。


「い、家がーーー!?」


 家が真っ黒こげで崩壊してる! そういえばディミトリの奴、一発エルドラシアに魔法かましてやがったけど、ここだったか。


 ちなみにエチカの家は無傷。なんなのこれ。運の良さが段違いだろ。ディミトリめ、一矢報いやがって!


 これには悔しさよりも困惑が勝った。じゃあどうしようかな。一旦はエルドラシアの森とか、人気のないところでアレクに戻るまで時間を潰すか。


 そう思い野原を歩こうとしたのだが、方向を間違って港の近くに来てしまう。まずいまずい、と思っていた矢先だった。


「グオオーン」

「ん? どうした。何か見つけたのか」


 ヤバイ! 聞き覚えしかない声がする! 俺はすぐさまUターン。もしこれがターン制バトルなら向こうが気づく前に逃げ出してる。つまりRPGなら逃げ確定でセーフ!


「キュウウーン!」

「ドラスケ……この反応はまさか。……はっ! あ、あの後ろ姿は」


 なんで逃げられないんだ!? そうか、これはボス戦か!


 しかし、ここで走って逃げようものなら「はい、わたしはご推察のとおり、不肖カイでございます」とか言ってるようなもの。


 だが、俺にはまだ手が残っている! このスーパー競歩が!


 さささささーっと、人混みを黒いあの虫も真っ青な速度で早歩きする俺。このままいけば巻けるはずだ。


 そう考えていたのだが、またしても事態は変わっていく。前方からまたしても見覚えのある女が、坂道を降りてきたようだ。


 いかにも気品溢れる歩き方をした可憐な乙女……しかもゆるふわな空気が漂い、万人から愛される前世で言うアイドル適性SSであることが遠目からでも分かる。


 間違いない。お聖女ルイーズ降臨!


 待ってくれよ、急にどうしちゃったんだこれ。前門の虎、後門の狼的な状況なんですけど。


「あら……? あ、あ……カイさま!?」


 しかし戸惑っている暇はない。俺はまるでドリフトでもかけているようなコーナリングウォークをかまし、ほとんどうろついた事のない通りへと進む。


「カイー! 待て! 我だ、スカーレットだ!」


 うん、知ってる。知りすぎてる。


「カイさま、お待ちになって。カイさまー!」


 人違いですぅって超言いたい。でも言えない。


 完全に追いかけられとる! 俺にとっての大ボスはディミトリじゃなくてこの二人だった。つまり俺の戦いはこれからだ!


 なんてアホなことを考えつつ、もう余裕がなくなった俺は走った。ってか、さっさと姿が戻ってくれよ! 見つかっちゃう、逮捕されちゃう!


 しかし、どうにも土地勘がない俺は道を誤った。積みゲーならぬ詰みゲー状態。


 さらに大変なことに、全身がむずむずし出したのだ。これはトイレ事情ではなく、アレクに戻る前兆だった。以前体験したから間違いない。


 あ……これはもう、終わったかも……。


 ◇


 なんて思っていた時が、俺にもありました。


 こうなれば奥の手とばかり、まだまだ人がわんさかいる港へと入っていく。ただ、とうとう急降下してくる風を感じてしまった。


「カイ! やっと会え……いない?」

「カイさまー! あら……?」


 ここは前世の東京並みに人口密度マシマシ。崩壊しちゃった島を遠目から見物する人で溢れかえっていた。


 そこでとうとう相対しちゃう二人。


「ルイーズか」

「あら、スカーレットさま。お久しぶりですわね。この騒ぎは一体なんでしょうか」

「うむ、実はな」


 スカーレットは簡単に、事のあらましを説明した。そして島を破壊したのも、恐らくは俺だろうっていう話もしてる。全部当たってるやんけ。


「やはりここにいらしたのですね。カイさまは……」

「ああ、そうに違いない。だから——」


 そこでケモ耳美人の近くにピラり、と風に吹かれた羊皮紙が。


「む? なんだ……こ、これは! カイからではないか!」

「え!? 見せてくださいませ!」

「こ、こらはしたないぞ聖女。今見せるから、落ち着け」


 バタつく聖女も魔王娘も、なかなか見れない光景だわ。羊皮紙には、こんなことを書いていた。


 =========

 すまぬ。

 まだ会うことはできない。


 俺にはまだやるべきことがあるのだ。

 カイ・フォン・アルストロメリア


 =========


 はぁあ、という息遣いをしつつ見つめるスカーレット。それを覗き込みながら、ぽわーっとしてるルイーズ。


 もうこの際、会えないって伝えてみる作戦に出た。こういうものの正解がよく分からんが、合っててほしいところ。


「カイ、そうだったのか。ファルガと戦い、そして……まだこの地にはいるのだな。君はきっと、暗躍する連中と戦っているのだろう」

「あの方らしいですわ。でもそろそろ、落ち着いてほしいところです」

「そうだな。我の隣に戻ってくるべきだろう」

「いいえ、違いますわ。わたくしの側です」

「我の隣だ」

「わたくしの隣です」

「我だ!」

「わたくしです!」


 めっちゃ怖え言い合いしてるよぉ! すげー睨み合ってバチバチいってる。俺には古きアニメに登場する電流が見える。


「ところで、ドラスケ……さっきから何を捕まえているのだ」

「え? まあ……あ! アレクさまっ」

「ん? アレクか!」

「やあお二人さん、俺やで」

「クオオーン」


 そう。さっきからずっと捕まってペロペロされてた。この二人は騙せても、ドラスケを欺くのは無理だったわ。めっちゃ軽快に尻尾振ってる。


 ◇


 とりあえずあの後もいろいろあったけれど、俺は窮地を脱した。


 アレクの姿にも戻れたことだし、後はこれから大人しくしていれば大丈夫だろ。


 そう思いつつ、とりあえず崖っぷち亭の扉を開いた。


「やあみんな、俺、」

「アレクっ!」

「アニキー!」

「師匠ー!」


 ヲオオ!? すげー勢いで群がってきたバニーとモヒカンとルーク君! みんな元気だなーほんと。


 っていうか、バニーとモヒカンにガッツリ抱きつかれて動けん。


「アレク……無事だったのね。会いたかった!」

「あーわり。心配かけちゃったな」


 エチカはすげー泣いてる。でもこんなくっつかれたらまた陰キャ冒険者に睨まれちゃう!


「アニキー! 死んじまったかと思ったじゃねえか」

「いやー俺も死ぬかと思ったわ」


 続いて近くにいたルーク君が、泣きながら笑っていた。器用だね君。


「師匠はやっぱり凄いんですね。また剣を教えてください」

「逃げ足が早かっただけだ。ま、レクチャーいつでも」


それと、「うう……」と背後のほうでギレンさんが泣いてる。どうすっかな、家が崩壊したことは今伝えるべき?


 とにかく俺は日常を守った……と思う。仲の良い奴が増えてきたんで、居心地も悪くはないかな。


 でも、この辺境の地エルドラシアは、まだまだ変わったもんでいっぱいだ。


 今度はどんな騒ぎが起こるのかな。大変ではあるけれど、ちょっぴり楽しみでもある。


 ってか、バニーとモヒカンのハグがキツ過ぎて、もはやプロレス技だわ!




ーーーーーーー

【作者より】

6/7(金)追記:

皆さん、沢山のレビューと暖かいコメントを下さり、本当にありがとうございます!

第二部を作ることにしました! 夏中には再開したいと思います。

またよろしくお願いいたしますmm

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皆さんこんにちは! お読みいただき感謝です!


毎日投稿を続けてまいりましたが、一旦はここまでにしたいと思います。


イイネやコメント、星をくださる皆さんのおかげで、初めて週間ランキング十位以内に入れました。この場でお礼を申し上げます!

実は、少し休んでから第二部を書き始めるか、ここで完結とするか悩んでいるところです汗

(第二部を書く場合ですが、前半チラッと出た島国のお姫さまの話からになります。書かない場合は作品が完結済みに変わりますmm)


最後に、続きが気になるor面白かったという方がいらっしゃいましたら、下に進んだ先にあるお星さまをポチッとしていただけると大変嬉しいですmm


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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