第30話 そろそろファルガ様の集会が始まるからな
元観光名所だけあって、遺跡を巡ると立て札だったり、なんかよく分からん看板とかがあったりする。
しかも看板にはちょっとしたゆるキャラっぽいのが描かれてる。遥か昔のマスコットってわけか。
「かわいーわね。こういう絵、けっこう私も得意なのよ」
「へー、バニー多才じゃん」
「今度実際に描いて、役所にマスコットの提案でもしてみようかしら」
その格好で行ったらビビられるだろうな。役所がバーになっちゃう。
「二人とも、どうやら魔物がいるようだ」
おっと、いよいよお出ましか。迷路みたいな遺跡の壁に隠れつつ、スカーレットが様子を探っていた。買ったばかりの剣を背中から抜いて、俺も近くで様子見。
すると、なんとミノタウロスにしか見えない魔物が二体揃って歩いていた。ムキムキなうえに斧を持ってやがる。定番だわ。
「あら? あれってキメラなの」
「んー、あれは純正の魔物っぽいな」
「どうやらキメラだけではなく、この島には普通の魔物も住み着いているようだ。場合によっては尋常ではない数を相手にすることになる。そうなれば三人では対処できまい。できる限り見つからないようにしよう」
「りょーかい。じゃあ隠れながら移動しようぜ」
もしかしたら一万以上魔物がいるかもって状況だしな。三対一万なんてマジ勘弁。ミノタウロス二体は足を止めて、なんか雑談してる。
さっさと立ち去れよ、とか考えていたらエチカがツンツンしながら小声で話しかけてくる。
「二人とも、私こんなこともあろうかと、すっごく便利なアイテムを持ってきたの」
出た! バニーの十八番便利アイテム。すると、期待値三割減の貴重なアイテムが登場した。
バニーは折りたたんで道具袋に入れていたそれを、俺とケモ耳に手渡してきたわけだが。
「む? エチカよ、これはなんだ」
「木になりすませるアイテムよ。特殊な幻惑効果のある薬を塗ってあって、魔物からは木にしか見えないわ。こうやってつければオッケー」
「ふむ、こうするのか……」
木の絵が描かれたハリボテには、真ん中に穴が空いている。二人はそこから顔を通したわけだが。
「おいおい、絶対バレるだろ」
さすがに魔物もそこまでアホじゃないぞ、と考えていると、
「誰だ!?」
と牛野郎の一体が叫んだ。ヒソヒソトークでもバレたっぽい。めっちゃ耳いいね。サッと二人はしゃがみ、俺はハリボテを手にして突っ立っていた。
すると猛牛の如き魔物はすぐに駆け寄り、そしてマジマジと俺を……俺だけを見てる。
「……なんだ、オークがいるだけか」
「ういっす」
え? 二人ともマジでバレてないの? ってか俺も普通にオーク呼ばわりされて違和感なく返事しちゃったよ。
「急げよ。そろそろファルガ様の集会が始まるからな」
「ちーす」
普通に去っていこうとするミノタウロス。意外にもハリボテが効果あるし、実は潜入は楽かもしれんと感心していたが。
「待て! 後ろに人間がいるぞ!」ともう一体が叫びやがった。
はっとして振り返るアホなほうの牛。
「ん? 何処だ!?」
「そこだ! オークの後ろ! いや待て、そこにいるのはオークじゃない! 人間だ!」
またしてもハッとするアホなほうの牛。同時にハッとしたスカーちゃんとエチカ。
「なんだと……オークはともかく人間のほうは分からん! い、いや! 貴様はオークではないのか。よくも俺を……俺を騙しやがったな!」
「ブヒー」
「……なんだ。やはりオークじゃないか」
この牛野郎ちょろい! 全人類がこのくらいチョロかったら人生楽でいいわ。とりあえずブヒつきながら歩み寄っていく。
「馬鹿野郎! そいつはオークじゃない。お前の目は節穴か!」
「な!? あ……本当だ。人間め殺してやる!」
ホントだよこの節穴め。
「く! こうなればやるしかないな」
と、今度はうちのスカーレットがハリボテから抜けて立ち上がった。ちょっと恥ずかしそう。
「く、くそ! おい、お前は時間を稼げ。俺は侵入者が来たことをみんなに伝え——」
「あっぶねー」
はあー危なかった。とりあえずすれ違いざまに二体、ぶった切って終了。
振り返ると、唖然とした二人が駆け寄ってきた。バニーはまだハリボテ被ってるんだが。
「アレク、やったか!?」
「フラグ、それフラグ!」
「凄いわ……全然見えなかったんだけど!」
余裕なかったから瞬発力にまかせて一気にやってみた。牛二頭は真っ二つなんで、今なら焼肉食べ放題。とはいえ、あのやりとりの後で食う気には一ミリもなれないけど。
「あの一瞬で……映像で見た姿よりも速かったぞ……」
「え、あー。まあ火事場のなんとかってやつ」
さっきのタイミングはセーブできなかった。だって、「曲者ー!」「であえであえー!」とか始まる寸前だし。
「ファルガが集会を開くとか言ってやがったな」
「みんな集まってるってことよね。どうする?」
「ここまで来たのだ。可能な限り潜入して情報を得る。行くべきだろう」
スカーちゃんってば言動がイケメン! でも、大丈夫かなーという心配が過ぎりまくり。
「お、ちょっと待った。ダンジョン・マッパー」
「え? ここってダンジョンなの?」
「そうみたいだな……いや、ここっていうか。この島全体がもうダンジョン判定されてる」
やっぱスーパー魔物アイランドと化してるだけあるわ。さっきまでの場所は遺跡の中だったけど、僅かにダンジョン判定外だったっぽい。
「島全てがダンジョンか。やはり相当危険だな」
「とりあえず、魔物に会わないように進むか。で、ジジイの演説聞いたら帰ると」
「潜入捜査ね。二人とも、これ付けなくて大丈夫?」
スッと木のハリボテを出してくるバニー。まあ、効果ある奴にはあるけど、多分上位の魔物にはバレる。あと恥ずい!
「……ああ、なしで問題ない。さっきの我が付けていたのも、忘れてくれると助かる」
ちょっとだけ顔が赤くなるケモ耳。魔王娘の誇りに大ダメージだ!
ともあれ、潜入行動は続行。できる限り静かに進む俺達だったが、マップを見るとなかなかにヤバい。
「魔物は見えてるから、まあ途中までは避けながら行ける。島の中心が真っ赤っかだから、こりゃーやべえな」
スカーレットとエチカが、俺の左手に浮かんでるマップを覗き、うわぁ……という顔になった。
「見つかったら終わりね。大丈夫かしら」
「うむ。なるべく遠間から調査しよう。もしかしたら、なにかとんでもないことを企んでいるやも知れぬ」
「関わりたくねーな。いや、でもエルドラシア周辺だからな」
超めんどくせー予感! 逃げ道だけはちゃんと確保しておこ。
それから数分間。マップを見ながらなので魔物と遭遇することは避けつつ進めた。
ゲームでいえばシンボルエンカウントだから良かったわ。これが突然画面暗転するスタイルならもう大変。
ともあれスパイ三人組は、ようやく島の中心にある神殿みたいな場所を見渡せる丘に到着した。さらには近くに茂みがあるので、そこに三人で隠れる。
「ここならバレないわね……」
「うむ。さすが良いところを選んだなアレク。良くやった」
「まー必死に探すって。この状況だし」
それにしても魔物数がやばい。これは一万いるって言っても信じるわってくらいウジャウジャいる。
「やはり君は有能だな。我の軍に是非とも欲しい」
「え? スカーレットさん、軍って?」
「帰ったら話そう。どうやら始まったぞ」
ケモ耳ちゃんはスカウトする気満々、とうとう秘められし正体を明かす気か。野心が感じられる凛々しい横顔だ。
だが、そんな元魔王軍娘よりずっと野心と欲望丸出しな老人が、神殿前に設置された台の上に登壇していた。
「あー……やっぱりか」
そのすぐ後、堂々と台の上にやってきたその男は、見間違いようもなくかつての勇者ディミトリだった。
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