第29話 もしかして、遺跡島かもしれないわよ

「きゃあっ!? な、なに。ここって!」

「うぉい!?」


 謎の通路を進むこと数分。両サイドには牢屋。檻の中にはキメラがいっぱい。俺はバニーに抱きつかれていっぱいおっぱい。


「どうやら失敗したキメラ達を放り込んでいたらしいな。酷いことをするものだ」


 キメラ達はもうほとんどが死んでいる。かろうじて生きている奴もいるが、永くは持たないだろう。


 こいつらがいるから、ダンジョン判定になってたのかも。


 さらに地下へと進んでいくと、今度は隠し部屋があった。中には沢山の羊皮紙がばら撒かれている。スカーレットはその一枚一枚を念入りに読み、エチカは周囲にある骨董品を興味深げに眺めていた。


 すると研究書類と思われるものを読んでいたスカーレットが、ちょい気になることを言い出した。


「エルドラシアには、島はあるか?」

「島? まあいくつかあるけど、それがどうかしたか」

「いや……どうもファルガは島について研究をしているようでな。そこに残りのキメラ達を住まわせている……とも」


 すると、うーん……と思案していたバニーが、ポンと拳を叩く。この状況に似合わないピンクがやっぱ気になる。


「もしかして、遺跡島かもしれないわよ」

「遺跡島? 何だそれは」

「エルドラシアは元々、古代遺跡の観光地として栄えた場所なのよ。それもずーっと昔みたいだけど。で、かつては観光のメインだったのが遺跡島なの。でもここから船で何日もかかるのよ。昔はそれでも見にいきたい人が多かったんですって。近所のおばあちゃんが言ってたわ」


 生き字引から聞いたってわけか。流石金髪ウサギはコミュ力あるわ。


「ふむ。若干信憑性に欠ける部分はあるが、ファルガの考えそうなことではある。では遺跡島と呼ばれていたところに、キメラ部隊の本隊がいる可能性があるわけか……」

「どんくらいいるんだろうな、その本隊ってのは」

「一万……いやそれ以上はいる可能性があるな」

「え、マジ?」

「ああ。キメラ部隊は生物さえいればいくらでも作り出せるからな。かなり減らしたのだが、そのくらい増えている可能性は十分ある」


 あのジジイは限度ってものを知らないからな。まあうなづける。


「ね、ねえ。もしかしてそのキメラ部隊っていうのが全員で、エルドラシアに攻めてきちゃうとかあったりするの?」


 マジめんどくせー展開だわそれ。


「流石にそれはないと思う。一気には攻めてこれぬだろうし、そうなれば王都の軍も討伐に乗り出す。奴とてそのくらいは分かるだろう」

「良かったー。それに、本当はあんまりいないかもしれないわよね」

「全ては憶測に過ぎぬ。それより……時折これらの書類には、ディミトリという名前が書かれているのだが」

「……ん!?」


 思わず声出ちゃったわ。ディミトリって……まさか。


「もしかして、スカーレットさんの知り合いなの?」

「ああ、同名の別人かもしれんがな。数年前まで勇者だった男の名前だ。最高傑作だと書かれているのだが……」

「え、キメラにされたってのか」


 ってかアイツ生きてたんか。のたれ死んだと思ってたんだけど。


「それって大変なことじゃない!? 勇者って言えば英雄のトップよ。そのトップが闇堕ち改造されちゃったってこと?」

「かもしれぬ。ただ、裏修練場から帰ってこないと嘆いているようだな。泣いている顔文字まである」

「なんでちょっとお茶目なん」


 そう。どういう偶然か、この世界には顔文字文化があるのだ。まあそれは別にいいとして、裏修練場っていうワードが俺的ストライクだった。


「裏修練場って?」

「うむ。この世界には修練場と呼ばれる、魔物が無限に発生する空間がある。そこには無限の報酬と、無限の経験が得られるという。修練場は世界中にあって、出てくる魔物や報酬もそれぞれ違うのだが……裏修練場はその最上に位置するものだ」


 うんうん、と興味深げに話を聞いている勉強熱心バニー。


「あの修練場は他とは別格でな。もし一日潜ることができたら讃美の嵐だ。それだけ恐ろしい魔物が出現するし、フロアそのものが精神的に異常をきたしてもおかしくない」


 俺は多分遠い目になってる。あったなーという気持ちとともに、苦い思い出に浸ってる。実はその修練場には、昔入っていたわけで。


「その裏修練場っていう場所で、ディミトリさんは鍛えてるのね」

「だが一年近く帰っていないようだ。もし本当なら、とっくに殺されている。一年もあの場所にいるなど、人間ができる芸当じゃない」

「だからこんなに悲しそうな顔文字でいっぱいなのね。あら? ねえ見て! ここに変な装置があるわ」


 さらば闇堕ち勇者、安らかに眠れ。なんて考えていたら、バニーが壊れかけの変な装置を見つけた。


「あー、こりゃワープゾーンだな。どっかに転移してるわけか」

「む……では入ってみるか」とやる気のケモ耳ちゃん。

「でもこれ、もう光が消えかけてるわ」


 バニーがツンツン、と突っついてる丸い台座の装置は、本来なら青々と光っているもの。でも、既に消えかけていて停止寸前っていう感じ。


 ちなみにこの装置は世界中にある。ゾーン間で移動できないようロックしてるパターンがあるけど、それ以外なら基本移動可能だ。


 でも残念なことに、王都からエルドラシア間にはなかったので、俺は抜けてくるのに苦労した。この装置って便利だけど、ない場所には全然ない。


 それとワープゾーンにはブックマーク的な機能もついてて、どうやら一個だけブクマされてる場所がある。エルドラシアから北西にある島のようだが……。


「恐らくはこのピンがあるのが、遺跡島だな。この装置が動けば良いのだが……」

「まー動かねーならしょうがなくね。諦めて帰ろうぜ」


 正直、厄介ごとに首を突っ込む気がしたので、そそくさと退散を提案してみた。


 ジジイ部隊は島から動けば、流石にお偉いさん方が対処するだろうし、ディミトリは俺達の記憶の中で生きてる。つまり解決、はい銅貨十枚!


「待ってくれ。我はもう少し調べたい。もしこの先に進むことができるなら、これを報酬に追加しても良いぞ」

「あら? それって」

「魔導石のカケラだ。地域によっては売れば金貨以上の値段が——」

「これ、魔力を注げば動くぞ」


 はい続行。まさかそんなレア物を報酬に持ってくるなんて、マジスカーちゃん天使。これで遊んで暮らせるぜ!


「魔力を注ぐって、どうやるの?」

「ここと、ここと、ここ。三ヶ所から常時回ってるはずのエネルギーが不足してる状態なんだ。それぞれの場所に手を当てて魔力を代わりに注げば、なんとかあと三、四回は動かせるはず」

「すごーい! アレクって、ワープ装置の仕組みまで知ってるのね!」


 目をキラキラさせてるバニーと、むむむ! と唸るケモ耳娘。


「なるほどな。君はそのような知識まで……ではやってみるか。もし転移先が危険な状況なら、すぐに撤退しよう」

「ほーい。じゃあエチカはそこに手を当てくれ。スカーレットはそこ」


 さっさと転移して、遺跡島をちょちょっと観光して報酬GET。いよいよ夢のスローライフまで始まっちゃう!


 二人はすぐに指定した場所に手を当てて、集中して魔力を注ぎ出した。


「はーい! ……あれ? なんか全然、変わらないわよ」

「ふむ。ん、んん! 確かに変化しないな」


 最後に俺が一番滞っている箇所に手を当てる。


「いや、けっこう変わってるぞ。やっぱ二人とも魔力量あるな。じゃあこれで——」


 魔力を強めに注いでみたところ、一気に視界が真っ白に変わった。


 ◇


「ひゃあああ!? 寒いーーー!」

「あ、ああああ! こ、ここは何処だ!?」


 やっべ! やり過ぎた!


 ここって多分北の北……つまり前世で言えば北極のど真ん中に転移したっぽい。


「いやー、なんかみんな頑張ったせいか、行き過ぎちゃったなぁ」

「こ、凍っちゃうううう!」


 ピンクバニーちゃんガックガク。そりゃ寒いよね。


「はううう! も、もう一度転移するぞ!」


 スカーレットもちょっぴりレオタード風の鎧なんで、やっぱ寒いのか。まあ俺もクソ寒いので、すぐにもう一度魔力を注いだ。


「よし。とりあえず今よりちょっと南に行くぞ」


 ヒュウうううーという音とともに、またも視界が真っ白に。そして猛烈なスピードで転移が始まり、周囲が見えるようになった。


 そこでは……なんとも眩しい太陽が照りつけていた。見渡す限り砂漠……いやピラミッドもある。


「あ、暑いー! ねえ、ここって何処なの?」

「うむぅ……ここは世界地図ではかなり南に位置する国だったはず」


 やっべ。またやり過ぎた。


「装置が壊れかけだから、マジ調整難しいわー」と装置に責任転嫁。

「ねえ見て! あれってラクダじゃない? なんか可愛い」

「うむ。だがそれより、暑い……」


 檄アツ報酬をお持ちの依頼主がピンチだ。ケモミミちゃんは暑さに弱い。というわけでもう一回。


「ちょっと今度は俺だけでやってみるわ」


 手を当てること数秒。お馴染みの真っ白空間に包まれ、猛烈な転移が始まる。とっても濃くて青い空間を抜け、白い光に包まれていった。


 そして真っ白だった視界が元に戻り、見覚えのない新しい場所へ到着した。


「ここ、多分遺跡島じゃない?」

「ああ、恐らく島の遺跡内だろう。でかしたぞ!」

「おっし。ちょっとだけ探索して帰るかー」


 やっと遺跡に着いたっぽい。とりあえず探索しようというところで、隣のバニーが興奮しながら話しかけてきた。


「アレクって、魔力どのくらいあるの? 私達よりずっとあるんじゃ……」

「いや、あれってタイミングだし、変わんねーよ」

「ううん、そんなことないわ! だってアレクが触ったところだけ、全然光り方違ったもの」

「我も感じたぞ。君の魔力だけ別格だった……正直、驚いている」

「いやいや、そんなに違いないって」


 なおも質問攻めしようとするバニーと、熱視線で観察してくるケモ耳から言い逃れをしつつ、とにかく遺跡を巡ることになった。

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