第28話 アレク……どこでこんな……アッ!

 やっべえじゃん。

 謎の研究所の秘密というより、俺が暴かれちゃう流れだわ。


 水晶には堂々と姿を現した黒デカキメラの姿が。


「こわーい! めちゃくちゃ強そうじゃない」


 しかし助かったという結果を知っているので、桃色エッチ度爆上がりバニーはワクワクしながら視聴してる。


「これほど強力なキメラを生み出すとは。ファルガの奴……早めに捕まえないと大変なことになるな」


 新生魔王軍を立ち上げようとしてるスカーレットは、むしろ脅威を感じてるっぽい。まあ警戒するよなぁ。


 さて、この水晶を違和感なく停止させるにはどうするべきか。俺は真面目に視聴してる風を装い、いろいろと考えを巡らせる。


「な……! アレク、君はあの体当たりを凌ぎながら剣を当てるのか!」

「ええ!? いつやったの」


 あーこれね。黒キメラが体当たり繰り返してる時のやつね、はいはい。


「まあ適当に振ってたんだって。的がでっけーし誰でも当たる」

「いや、これは我には無理だ。この剣捌き……まるで……」

「ルイーズさんがバフってる! って、えええ!? 相手にかけちゃうの?」


 この配線切っちゃおうかな。でも今この状況で、背中から剣を抜くって普通ありえない状況なわけで。二人を暗殺でもするのかよっていう。


 唐突なサスペンス展開以外での打開策を考えていると、案外早く映像が進んでしまう。時間を止めたい瞬間、歴代一位は今ここだ!


『やあ大ボスちゃん、とっておきやで』

「とっておき!? なになに、なにをしたの?」

「ん、ちょっとした魔法」


 隣にいる俺にネタバレ質問をするエチカ。反対に大人しく視聴してるスカーレット。それにしても俺ってば、映像でみると確かにオークっぽい!


 俺は水晶を覗き込むようにして、静かにそっと配線の中の一本を右手で掴む。これで合ってるだろきっと。


 画面では豚っぽい俺が右手を上げてる。今まさに魔法を始めようとしたその時——


「……む! 映像が!」

「あら、真っ黒になっちゃった」

「お、壊れちゃったかー。残念だな」


 よーし上手くいった! 目立たないけど重要な配線を一本引き抜いてやったぜ。


「待って。配線が抜けているだけみたい。これをこうして……っと」


 この複雑な配線周りに気づきやがったかバニー。あっという間に繋ぐべきところを見つけ出して修正しちゃった。


「お、ちょっと映像が飛んだが、直ったようだな。助かったぞエチカ」

「どういたしまして。ねえアレク、これってなんの魔法なの?」

「あー、ダークボール。初級の闇魔法だな」


 嘘です。本当はオリジナルマジックだけど、そんなことスカーレットの前では言いません。


「に、似ているぞ! あの男が使っていた魔法に! アレク、君は一体……?」


 ほらー、俺的ホラー展開が始まってるってばよ。


「我は見たことがある。これと似た魔法を……」

「そんなに凄い魔法なの? きゃ!? 魔物がすっごい姿になったわ」


 そろそろクライマックス間近。このままじゃかなりまずい追求をされるというか……最後のほうでカメラが捉えた決定的瞬間が流れるかも。


 あれ、マジで一瞬元の姿に戻ってたんかな?


 よし、全力でそこだけは止めねばなるまい。俺は涼しい顔で液晶を見つめながら、もう一度配線に手を伸ばす。


 ……ん? あれ?


 ちょっと待て。ピンクバニーのやつ、無意識なのか怖がりながら配線を掴んでるんだが。


 このまま「えいや!」とばかりに線を引き抜いたら、もれなくエチチチバニーも一緒に引っ張られてしまう。


 そうなればアホでも俺がやったってバレる。ここで前世の警察をはるかに超える取り調べを受けるのは回避すべし! ケモ耳警察は情け容赦ない尋問を始めるに違いない。


『じゃあいくで』


 いや、まだいくな。昨日の俺ってばせっかちなんだから。とりあえずこっそり配線は掴んだまま、静かに意識を集中していく。


「あ、ああ! これはまさか」

「え? 知ってるの?」

「知っている。我は以前、ある男に決闘で似たような技をかけられたことがあった。その時は闇魔法ではなかったがな」


 あったな、そんな時。スカーレットはまた顔が赤くなってる。


 あの時は盛大なやらかしだった。ちょっと脅かすつもりがアーマーを破壊してしまい、エチエチ同人誌の表紙にしたらコミケで爆売れしそうな姿にしちゃったわけで。


 思えばあの時から、もう目の敵みたいに狙われる日々が始まった。一度の失敗、後悔一生。しかし、肝心なのは過ぎ去った過去ではなく今。ここは失敗できんぞ絶対!


「ふんぬぅう……」

「あら? どうしたのアレク。もしかしてトイレ行きたいの」

「いや、土壇場で思わず力んじまった」

「アレク、後で聞きたいことがある。これが終わったら——なっ!?」


 さらにビックリしちゃうケモ耳姉ちゃん。


『いくで』

「あ……アッ……」

「あ! すっごい入ってるわ」


 なぜか自分で自分を抱きしめるみたいなポーズを取るケモ耳女。俺に鎧を壊されて恥ずかしかった過去を、鮮明に思い出しちゃったか。


 ……いやいや、そこまで当時をリアルに思い出さなくていいだろ!


 ピンクバニーに匹敵しそうなほど、あっちのステータスが高まってきたスカーレットに気を取られ、俺の作戦は全然進まない。


 何とかバレないように、魔法で内部から壊そうとしてるのに。集中できなすぎだわ。


「あー、アレクってば、もうめちゃくちゃにしてるじゃない」

『いくで』

「く! アレク……どこでこんな……アッ!」

「誰に教わったんだったかな。覚えてねーな」


 ってか変な声出すなって! 全然集中できねーって!


 バニーもなんかやらしく聞こえる実況してるし。健全に魔物をやっつけてる映像が流れてるだけなのに、この二人がどんどん卑猥にしてる。ある意味では相当な上級者どもだ。


 いやー、ここにウブなルーク君がいたら気絶してるかもしれん。とか考えているうちに黒キメラっちがやられた。


 マズイ! これ完全に間に合わないパターンだ。どうしよう……こんな訳の分からん状況に追い込まれるとは思わなかった。


 だが、この時ふとあることに気づいた。


 この地下研究所……ただ散らかってて汚いっていうだけじゃないな。微かにだが瘴気が漂っている。


「ダンジョン・マッパー」


 やっぱりダンジョン判定されてたか。とりあえず二人にも見えるように、公開設定にして掌上に出現させる。


「それは! なぜここでダンジョンマッピングが出てくる?」

「まあ! ここってダンジョンだったの?」

「ああ、そうみたいだ。しかもここはまだ先があるぞ。隠し通路とかもあるな。二人とも、武器を用意しておいたほうがいい」


 この一言に、さっきまで見るに耐えなかったスカーレットは凛々しさを取り戻し、バニーは驚いた。


「ええ!? 隠し部屋ですって?」

「我は確かに、ひととおり調べたはずだが」

「あっちの壁に隠し通路がある」


 親指を向けて示すと、スカーレットとエチカはすぐに俺の背後にある壁へと急いだ。


 チラリと水晶に目をやると、俺が一瞬だけ本当の姿に戻っていた……あぶねー、マジ危ねー。


「あ! これスイッチかも」

「む! でかしたぞ!」


 バニーがトレジャーハンター顔負けの洞察力で隠しスイッチを押し、壁が両サイドに開いていく。


 その間、俺はさりげなく水晶をぶっ叩いて破壊した。


「それにしても、君は本当に何でもこなすのだな。畏れ入った」

「凄いでしょ! アレクは只者じゃないのよ」

「いんや、器用貧乏ってだけ」


 安心したせいか、かなり気が抜けたわ。


「いや、君は本当に優秀だ。この依頼が終わったら、いろいろと話をさせてほしい。エチカもな」

「はーい! 私もスカーレットさんとお話したいわ。楽しみね!」

「まー時間があったらな」


 時間なんて、今の身になってからは腐るほどあるけど。勘弁してくれよいろいろと。


 スカーレットの奴、多分俺たちを新生魔王軍のメンツに入れようとしてるんじゃないだろうな。


 バニーはともかく、俺は静かに暮らしたい派なので、この依頼が終わったら忙しいフリをして抜けよう。


 そうなことを考えつつ、俺たち三人は隠し通路の奥へと進んでいくのだった。




ーーーーーーー

【作者より】

 こんにちは! ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

 この物語はきっとまだ健全なはずですw


 ストックが切れておりますが、なんとか毎日投稿できておりますー^ ^

 これも皆さんのおかげです!


 もう少しで山場に向かいますので、そこが終わるまでは毎日投稿続けていきたいと思っています。


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