第27話 謎の研究所の秘密を解き明かせ! っていうタイトルよ
森の探索が速攻で終わった次の日のこと。ルイーズはまだ目を覚まさないが、見たところ大事には至っていない。
神父やみんなが様子を見てくれてるみたいだし、とにかく無事に終わったのでホッとした。
俺とエチカはルイーズの様子を見に行った後、いつもどおり崖っぷち亭にやってきた。まさに人生に絶望したかのように酒場フロアでぼーっとしてる。
「ねえねえ、今日の受付嬢さん。ちょっと怠そうにしてるわ」
「……分かる、マジ怠いって気持ち分かる」
俺もマジ怠い。
「運命の出会いとかないかしら、って黄昏てたみたい」
「運命の出会いねえ。どっかにあるんじゃねーの」
「あら? なんかアレクも怠そうじゃない?」
やっと気づきやがったか。ていうか、受付嬢の恋模様はともかく、今日のバニーはなんとエチエチなピンクバニーだ。いけない、ピンクはいけない。
そんな格好を無自覚でしちゃうから、うちの陰キャ冒険者どもがこっちをチラチラ見ちゃうんだぞ。
「そりゃー怠くもなるだろ。金貨三枚の件はどこいった?」
「騎士の人達が交渉してるみたいよ」
実はあの後、報酬については出資してる貴族達に相談するので、しばらく待ってほしいと言われたのだ。
依頼をしているのはルイーズだったけど、報酬を出すのは騎士を経由した伯爵とか子爵らしい。奴らがごねてしまうと最悪銅貨だけ貰えることになるかも。
まあ本来の捜索人は見つかってない(ってか見つかるわけない)し罠だったんだけど、さすがに報酬が銅貨じゃ我慢できませんよ先生!
さらにさらにルーク君はお父さんと今遠出しちゃってて、剣のレクチャー代も稼げないときた。
「気長に待つしかないわね。っていうか見て! とっても面白そうな依頼をオファーされたの。私とアレクをご指名よ」
俺とエチカをご指名? この金髪エチエチはともかく、俺は無名なはずだが……?
「へえー、どんなやつ?」
「謎の研究所の秘密を解き明かせ! っていうタイトルよ」
「マジかよ、普通に面白そうじゃん」
依頼名すげーな。冒険心を煽る煽る。
「それにほら。依頼人はあのスカーレットさんよ!」
「よーし遠慮しとくか」
「え、なんで?」
そういうことかよ。嫌な予感ゲージが急激に溜まったわ。今なら存在しない超必殺技すら放てる気がする。
ってかエチカが近い。最近距離が近い。なぜか家も近い。
「だって人の家にドラゴンアタックするような奴だぜ。俺の家、あれから傾きっぱなしだぞ」
「あの家、見ようによってはオシャレよ! なんか報酬は得られた情報次第で決めるらしいわ。最低でも銅貨十枚だって」
美的感覚が壊滅してるやつじゃないと、あの家をオシャレなんて思わん。まあそれはさておき、銅貨十枚はわりと良い条件。
「しかもその研究所には魔道具があるから、場合によっては分けてもらえるんですって! ワクワクするわ」
「そうか、バニーはそっち狙いか」
だからそんなに目がキラキラしてたわけか。
「しかもしかも! 昨日の捜索も関係してるかもしれないって書いてあるわ。映像が残ってるかもしれないから、再生できるようにしたいって——」
「行くか」
「え!? あ、ちょっと待ってー!」
まさか……嫌な予感が限界突破してレアリティまで上がっちゃいそう。俺達はやる気がだだ下がりしてる受付嬢に頼みつつ、現場に行ってみることにした。
◇
「キュオオーーン」
「うおお!?」
「こら、ドラスケ! やめんか」
現場にやってきた俺は、即落ち二コマ的な勢いでドラスケに飛びかかられ、熱い抱擁をかわすことになった。
ここはエルドラシアから北に、ずうっと進んだ先にある廃墟。いかにもドラスケが突っ込んだような壁穴があったりして、とても風通しが良い。
「スカーレットさん、こんにちは! さっそくだけど、依頼について詳しく教えて」
「やあエチカ。実はな……」
ドラスケに抱きつかれている俺はもはやスルーされ、スカーレットの依頼内容の説明が始まる。慣れって怖い!
淡々と事情を語る依頼主とは対照的に、バニー冒険者は「えー!」とか「わあ!」とかリアクションが激しい。
冷静に語るケモ耳女だが、なんか心なしか今日はテンション上がってる?
普段からクール感が出てるので分かり難いが、付き合いが不本意にも長い俺には若干だが違いが分かった。
「え? じゃあ、あの森にいたキメラは、みんなそのファルガっていう人の部下だったってこと?」
「まあ、そんな所だ。奴と我はかつていろいろとあってな。とにかく、奴らが捨てた拠点がここなのだが、探索を手伝ってほしい」
やっぱそうか。キメラといえば魔王軍ではあのジジイが代表格だった。
キメラ反対派のスカーレットとはバチバチの因縁があったけど、俺はあんまり関係なかった。明らかにあの爺さんから距離を置かれていたっけ。
「凄いわ! アレク、聞いた?」
「聞いた! ってか助けろ」
レッドドラゴンのペロペロアタックにより、すでにライフはゼロ寸前!
「まったく。本当にドラスケは君が好きなようだな。しかし妙だな。魔物の匂いがするというだけで、ここまで懐かれるだろうか」
「ドラスケちゃーん。私とも遊びましょ」
「グムゥ?」
ドラスケはピンクバニーに頭を撫でられて戸惑ってる。しばらくすると好奇心が湧いてきたのか、やたらとクンクンし始めた。その隙にエスケープする俺。あー大変だった!
「よし。とにかく君達がいればなんとかなるだろう。では地下室へ行くぞ」
「はーい!」
「ほーい」
初っ端からわちゃわちゃしつつも、俺たちはとりあえず研究所とやらを調査すべく、地下に降りていくことになった。
◇
「凄いわ! まさに秘密の場所って感じね」
「汚ねー」
地下に降りた先にあったのは、ありとあらゆる物が散乱しまくったゴミ屋敷みたいな部屋だった。
前世の俺でもここまで散らかしたことはない。たしかにこれは、一人では調べられないだろうな。
「この辺りのものはいくらか調べ終わっている。しかし、肝心なものがよく分からなくてな。この水晶だ」
げ……これはまさに前世でいえば、映像が見れちゃう水晶じゃん。いろんな線が繋がりまくっているそれは、今はまだ真っ黒だ。
だが、きっと先日森の中で大目玉が中継していたんだろう。あらゆる線が繋がってて、やたらと古代文字とボタンがついてやがる。
「実は……我はこういった物は疎くてな。だが記録映像が観れるという話は聞いたことがあるのだが」
「俺も疎いんだよなー。触れないほうがいいんじゃね?」
「はーい! 私、動かし方なら知ってるわよ」
なんて有能なんだうちのバニーは。その有能さが今はこわい!
「ここをこうして、こうやって……あとはポチッとすれば、過去の記録した映像が観れるはずよ」
「ふむふむ……あ! ルイーズとアレクではないか」
森の中に美女と野獣……じゃなくて俺とルイーズがいる。これはダンジョンに閉じ込められてからすぐの時だな。
「昨日の森だわ! あの時は私達、離れ離れになっちゃったのよね」
「お清楚ちゃんが取り乱してたからなー」
「森をダンジョンにできるとは、なかなかに厄介な手を使う相手だ。それにしても……」
『まー食うのが生き甲斐だからなフレア。そういえば王都はめちゃくちゃレストラン多いらしいじゃんフレア。マジ一度でいいから行ってみてーわフレア』
俺がダンジョン・マッパーを使ってから遠距離で魔法をブッパしてる姿が映り、画面に見入っていたスカーレットがチラリとこちらに目を向けた。
「アレク……君はあんな高等技術が使えるのか」
「ん? なんかしたっけ」
「とっても遠くから魔法を使って攻撃してるじゃない。あら、水晶が一部黒くなったわ」
これ完全に再現されてる。解像度高すぎてちょっとまずい。よし、一つ惚けてみるか。
「あーあれか。いやいや、そんなんじゃないって。語尾にフレアをつけて喋るの、最近エルドラシアで流行ってるだろ」
「なんだと!? そうなのか?」
「え? 全然そんなことないわよ」
「く! アレク、適当な嘘はやめろ。恥ずかしいだろう」
意外と世間知らずな自覚があるスカーレットだが、ここはバニーに軌道修正されてしまう。しかも一気に顔が赤くなってきてる。
それからもケモ耳姉ちゃんとピンクバニーは、もう水晶の録画映像に夢中だった。
「なあ、一旦やめて昼飯にしよーぜ」
「え? もう、さっき食べたばかりじゃない」
「もう腹ペコだ。俺の勤勉な胃袋が働かせてくれと叫んでる」
でも全然反応がないスカーちゃん。いやー没頭するタイプだよね昔から。
『そ、そうです。わたくし……いえ、いけませんわね。このように嘘や誤魔化しをするなんて。アレク様、今からお話しすることは、ご内密にしていただけませんか』
この発言が出た時、ピクリと長い銀色の耳が反応した。
「よし! あの聖女の秘密を知れるぞ。弱みを握ってくれる!」
「なんか目的変わってね?」
「あー! アレク、ルイーズさんのおっぱいが当たってるわよ」
「不可抗力、不可抗力」
「エッチ」
パシ、と肩を叩いてくるエッチなバニー。ってかそういうボディタッチはやめて! 前世の俺なら完璧に勘違いしてるから。なんなら現世の俺だって危ないぞ。
「く! いいところで邪魔が入った。……ん? この魔物は……凄まじいキメラだぞ」
「えええ! アレクとルイーズさんって、こんなに怖そうな魔物と戦ってたの?」
いよいよあの大ボスキメラの登場シーンが水晶に流れ始めた。スカーレットは静かに見入り、エチカは両手を顔に当ててビックリ中。
ってか、超まずいぞこれ……。
俺ってばこの後、ちょっとだけ姿が戻ったような気がしたんだけど。
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