第20話 大変だ! これはダンジョンではないか

 どうなってんだ。

 正直我が目を疑ってしまった。


 聖女ルイーズが追いかけていった先には、まんまかつての俺っぽい後ろ姿があったからだ。


「ルイーズ様!」


 これにはシェイドも焦りがち。でもドワーフの足じゃなかなか追いつけない。


「ルイーズさーん!」

「うおー! あの追っかけてるのが例の貴族だな。いよいよゲットだぜ!」


 バニーが呼びかけ、憧れの○ケモンマスターみたいなセリフを放ったモヒカンが続く。マジで捕獲されそうな勢いだわ。


 しかしこれは良くねえな。と思ったのでダッシュを加速。車で言うと、アクセル踏んでる感じで急ぐ急ぐ。


「ほい。ストップ」

「きゃ!? あ、アレクさま……」


 とりあえず追いついたので、お清楚ちゃんの前で止まってみる。他の連中はまだ追いついてない。


「行かせてください! カイさまがこの先に、」

「罠だぞ」

「え?」

「よく見てみ。幻術ってやつ」


 昔の俺っぽい後ろ姿は、こちらが進めば同じだけ進み、止まっていれば歩みを止める。


 よーく見れば透けているし、多分仕掛けた奴が目的地に到着するまで、この現象は続くはずだ。


 まあ、要するに俺がもう一人いるわけないじゃんって話。本人はここにいるんで。


「幻術……たしかにあれは、その類ですわね。すみません、わたくしったら。あのような術に騙されてしまうなんて」

「まーそんな時もあるんじゃね。つうか、ちょっと待ってくれよ」


 この不気味な感覚。もしかしてこの辺りだけ周囲と違うのかもしれない。


「ダンジョン・マッパー」


 試しに使ってみたところ、黒いマップが手のひらの上に浮かんできた。ちなみにだが、これは自分だけに見せることも、他人も含めて確認することもできる。


 公開設定みたいなものだが、今回はルイーズにも見れるようにした。


「まあ! ダンジョンになっているのですか」

「この辺だけな。曲がりくねっちゃいるけど、一本道になってる。しかもあれだわ、入り口を塞がれたっぽい」

「え!?」


 なかなかの高等技術っていうか、よく考えられた罠だと関心する。


 森の中で異様なほどの瘴気と魔物を撒き散らし、ごく短い時間と場所ではあるがダンジョンを生成。さらには入り口を塞ぎ、周囲が簡単に助けられないようにしている。


 何もないはずの空気を軽く叩くと、ちょっとばかし甲高い音がした。ほほう、防音もしっかりしてる優良物件、いや優良ダンジョンか?


「え!? これは……壁ですの?」


 すると、追いついたバニーとモヒカンがキョロキョロしてる。遠くからシェイドも走ってきてるな。


「ルイーズさーん! アレクー! どこ行ったの?」

「消えちまったぞ!? おーい!」

「み、皆さま! わたくし達はここです!」


 慌てたようにルイーズが隣にやってきて、壁に触れながら叫ぶが、三人には見えてないし、聞こえてもいないようだ。


「いて! なんだここ、進めねえぞ?」

「ま、まさか……大変だ! これはダンジョンではないか」


 鎧モヒカンがガンガン透明なダンジョン壁にぶつかり、シェイドが気づいたみたい。


「これは簡単には解けないな。でも、大体の場合作った奴をぶっ飛ばせば解除される仕組みだ。先に行ってみるか」

「……以前、同じようなものを見たことはありましたが。まさかまた体験することになるなんて。……進むしかないようですわね」


 限定的とはいえ、ダンジョン判定される通路を作れるやつなんて、大陸中でもほとんどいない。


 その相手はこの一本道の一番奥で待ってるっぽいのだ。結局は行くしかない。俺たちはとりあえず歩き出した。


「申し訳ございません。このような危険なことに巻き込んでしまって」

「まー取り乱すのもしょうがないんじゃね? 気にするなって」

「……それにしても、よくご存知ですわね。ダンジョン発生の知識というものは、王都でも知る者が少ない、専門知識のはずですけれど」


 過去にそういう手合いとは、うんざりするほど戦ってきたからな。落ち着いているようだが、お清楚ちゃんはやっぱ動揺してる。けっこう早口なのは珍しい。


「意外と図書館にあったりするぜ。俺ってば読書好きだしな」

「まあ! わたくしもですわ。どのような本を読まれるのですか」

「大陸グルメショップ大全、とか。世界、超絶激ウマレストラン最強編! とか」

「あらー。やはりお食事がメインなのですね」


 ルイーズにも大食いキャラが定着してたっぽいな。笑ってるけどちょっと引いてる?


 っていうか、これ……見られてんなぁ。多分監視カメラ的な役割をする魔物がいるわ。


 こういう陰湿な仕掛けをする奴は、いつだって安全なところから様子を見たがるもの。


 ただ、俺のマッパーはその監視カメラチックな魔物も見つけることができるわけで。ルイーズと何気ない会話をしつつ、けしからん盗撮野郎を探してみる。


 いたわー。めっちゃキモイのが隠れてるわ。さらには挟み撃ちを狙ってるのがバレバレの魔物集団が、大体百メートルくらい先で待ってる。


 でもルイーズには言わないでおこう、ますます怖がっちゃうから。


「まー食うのが生き甲斐だからなフレア。そういえば王都はめちゃくちゃレストラン多いらしいじゃんフレア。マジ一度でいいから行ってみてーわフレア」

「え、え? どうなさ——」


 ドンドンドン! と遠くから大きな音と振動が。はい、お巡りさん俺がやりました。決して語尾にフレアをつけるようキャラ変したわけではない。


「向こうに魔物が隠れてたからな。先にやっておいた」

「……! 察知されていたのですか? このマーカー……通常のものと全然違いますわ!」


 俺の近くに表示されているマップを覗き込むルイーズ。近い近い! ガチ恋距離になっちゃう。


「まあ! 何から何まで映し出されているではありませんか。このような精密なマップ魔法を拝見したのは初めてですっ」

「ずーっと使ってると、だんだん見えるものも、距離も広がってくるんだって。どっかの偉い魔法使いが言ってた」

「ということは、アレク様はかなり昔から冒険者をされているのですね」

「まー多少はな」


 会話自体は特に可もなく不可もなく……なんだけど。ちょっと俺も動揺してきたわ。


 なんか知らんけど、ピンク髪お清楚が俺の服の袖をつまんでるんだが。少々気にしていると、彼女は気まずそうに俯く。


「あ、あの。ご迷惑でしたか」

「いや、そんなことないけど。もしかして怖い?」

「はい……何か、昔怖かった人を思い出してしまって」


 トラウマってやつかな。いや違うな。ルイーズの直感は、普通の人間の何倍も強い。ってことは、マジで因縁深い奴とかこの奥にいるのかもしれん。


「あ! アレク様、赤いマークが集まって、こちらに向かってきます」

「はいはいファイア。歩いてるだけでライトニング。心燃え上がるぜフリーズ」

「は、はい?」


 ダメだ! 喋りながら魔法使ってみたら全く意味不明になった!


 最後なぜかハートが燃えてるけど凍っちゃったよ。ついでに最初に隠れてた盗撮モンスターも消しておいた。


「え……どんどん赤いマークが消えていきますわ! もしかして、今も魔法で攻撃されていたのですか」

「ああ。マッピングと併用すると、けっこう遠くの標的にも魔法が使えるんだ。これも使いまくってるとできるようになる」

「あ、あなたさまは、一体……!」

「けっこういるよ。使える奴」


 大丈夫大丈夫、この見かけならそれでもバレない。だって魔法使ってるだけだし!


 なんとなくルイーズの中では、俺イコール剣士っていうイメージがあるみたいだから問題なし。


「で、でも。でも! わたくし初耳ですわ。勇者様と旅をしていましたのに」

「ん。そういえば勇者ってどうしてんの」


 いや、問題あったわ。一本道を進みながら、なんとなーく気づいた。


「え、えーと。少しだけ別行動をしています。今はお休みで、わたくしはこちらに来ていたのです」

「へー。大型連休みたいな?」


 すげえ。マジやべえっす。なんとなくどころじゃなくて、今かなりきてる。気づいてくれないかな。


「そ、そうです。わたくし……いえ、いけませんわね。このように嘘や誤魔化しをするなんて。アレク様、今からお話しすることは、ご内密にしていただけませんか」

「え? な、なんかワケあり的な。あ、あー」


 すっげえ当たってるんだってさっきから。ルイーズのデッカいメロンが! いや規格外のマシュマロが!


 こ、このままじゃラッキースケベレベルがカンストしちゃう。そう思っていた矢先のこと。


「いや、ちょっと待った。そろそろお出ましだぞ」


 とうとう突き当たりの開けた場所に辿り着いた。奴の後ろ姿は、もうはっきりと俺たちの視界に映っている。

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