第19話 きっとあの人がいるのです

「やはり……!」


 そう言いつつ、突然俺の両手をぎゅっと握ってくるお清楚代表。


「ヲォ!? どうした?」


 思わずオーク似の声出ちゃったよ。


「初めてあの方に助けていただいた時を思い出しました。あなたはきっと、カイさまとなんらかの御関係があるのでしょう! 先ほどの剣技、カイさまにそっくりでしたわ」


 やっべ。妙な確信持たれちゃってるわ。さらにシェイドが続く。


「うむ。同感ですな。あの剣の冴え……かつて最強を誇っていたカイ様に似ている。いや、似すぎていると言っても過言ではないでしょう。あの方と比較すると落ちる点は、やはりありますが」


 そりゃ何枚も腕は落ちるって。ほとんどの力は封印してあるんだから。にしても、ここまで似てると思われるとは予想外。やっちゃった感ありあり。


「マジ? いやー俺ってば気づかないうちにその貴族と似ちゃったかな? まーでもそういうこともあるんじゃね。剣っていうのは、鍛えていくとみんな、案外同じになってくかもよ」

「いや、ワシが思うには、剣の道とは個人によって大きく分かれるもの。意図せず似るとは考えられませんな」


 ぐぬぬ。シェイドめ、お喋りになったと思いきや、都合の悪いこと言っちゃって!


「そう、そうなのですわ! どなたに教わったのです?」

「自己流自己流! マジセルフ剣術だしっ!」


 つ、詰めてくるよルイーズが。めっちゃキラキラした瞳をウルウルさせてる。ただ、本人とは思われてないところが救いだ。


「アニキ、そんなにすげー師匠がいたのかよ。やっぱスゲーなー!」

「そしてその剣が、ルーク君に引き継がれていくのね。なんとかの系譜ってやつ!」


 俺がキラキラアイに迫られている中、呑気なモヒカンと水々しい水玉うさぎ女が楽しそうにしてる。なんとかの系譜って、そこはちゃんと名前つけてほしいわ。


「系譜とか知らん。ってかそろそろ捜索再開した方が良くね?」


 ここは話を逸らしていくに限る。なんてことを考えていると、さっきまで壊滅状態だった冒険者戦隊が気まずそうにそわそわしてる。


「く……くぅう……ま、まあお礼は言っておくよ。いやー油断しちゃったな。しかし次からは挽回していくんでね。で、では失礼」


 リーダーがボソボソと語りながらそそくさと去って行った。仲間の四人もまたそれに続き、あっという間に森の奥へ。


「け! あいつ威張ってたわりに全然じゃねえか。アニキがいなきゃ死んでたぜ」

「あ、ねえ! なんかこっちに近づいてくるわ!」


 おっと。どういうわけかまたしてもキメラ型の魔物が来たぞ。ナイスキメラ! これで完全に話を逸らせる!


「よっし。とりあえず狩っていくかー」

「はい。よろしくお願いしますわ」


 ……でもルイーズが隣にいることは変わらない。なんかもう、ロックオンされてる感がやばい。


 ◇


「うおおーりゃあああーーー!」


 モヒカンことクリスティーの一閃。巨大な斧が蛇の頭と人間の体をした魔物をぶった切った。


「はあはあ……やったぜ。ってか、なんか数多くねえ?」


 叫びすぎてスタミナ切らしてるモヒカンとは対照的に、シェイドは黙って他の魔物を切り伏せてる。


 俺も怠いけど頑張ってた。ちなみにエチカ女王様は鞭で蹴散らして相手の体勢を崩していくのが役目。サマになってんなー。


「皆様、お受け取りください」

「ああー! 効くううぅ! しゃー!」


 ルイーズの回復魔法は、本来の治癒能力に加えて、スタミナなども回復させてくれる優れ技。モヒカンがまた回復してキメラ達に向かっていった。


 なんだかんだで襲ってきた魔物の集団を一掃したわけだが、どうもおかしい。


「あら? アレクさま、どうなさったのです?」

「ん? あー、いや。なんか変じゃね? キメラ型の魔物っていうのは、そもそも普通には生まれないからレアなわけじゃん。この森、めっちゃいるし」


 キメラ型の魔物っていうのは、合成させる魔道具だったり、そういう技術が使える奴が生み出している特別な存在だ。


 つまり天然じゃありえないわけで。この森はどうもおかしい。


 それとルイーズにピッタリマークされちゃってるせいで、ちょっと離れたところから冒険者達に睨まれてる。


 しかもおっさん騎士達も、遥か後方から歯噛みして見てますぞ。


 嫉妬? ねえ嫉妬なの? でも今の状況マジで嬉しくないから誤解しないで! 別に代わってくれていいぞ。


 なんて心の叫びを知る由もないルイーズが、うーんとばかりに唸る。


「確かにおかしいですわね。もしかしたら、この森には魔王軍の生き残りがいるのかしら。……は! そうですわ! きっとあの人がいるのです」

「え? 誰? 誰がいるの? 気になる」


 エチカが興味津々でルイーズに質問してる。俺は水玉模様がちょいちょい気になってる。


「魔王には、何名か後継者候補がおります。その中でも、特に恐ろしい人がいたのです。その名は……スカーレット」

「え? スカーレットって……もしかして銀髪で獣耳の人?」


 やめなさいバニー。「そんな人がいるのね、へぇー」って言ってくれよ。とっても嫌な展開になっちゃうだろ。


 ってか魔王軍の連中が関わっているとしても、スカーレットではないだろうな。あいつはキメラ反対派だし。


「まあ! ご存じですの? 一体どこで、」

「アニキー! 鳥キメラがやってきたぜ。うわー!」

「おおーマジやべえなそれ。みんな、モヒカンを助けるぞ」


 ナイス! いつの間にかいろんな鳥が合体したキメラ数匹に突っつかれてるモヒカンを助けるため、この会話は終わった。


 ってか、もしかしてキメラ連中は、モヒカンのカシャン! カシャン! っていう足音に釣られてやってきてるのか?


 他の連中のことは分からないが、意外と俺たちが一番魔物を倒してるかもしれん。


 とにかく報酬は増えること間違しだから、おっさんはあとちょっとだけ頑張るわ。


 ◇


「……と、いうことがあったのですわ」


 それから一時間後。俺達はようやく開けた場所に出てきたので休憩を取ることにした。


 みんなで円になって食事をしていると、お清楚がさっき終わらせたはずのトークを再び始めてしまった。


 ちなみにこの町にやってきていることとか、いろんな情報をエチカが教えてしまったので、聖女さまは内心穏やかではないようだ。


「ええー! なんか演劇の世界みたいね。つまりルイーズさんは、婚約者のカイさんを、スカーレットさんに取られそうになったってこと?」

「はい。しかもあの方ったら、奪おうとしているのは貴様のほうだ、などとおっしゃったのです。ああ、なんて恐ろしい人」


 空が綺麗だなぁー。


「マジかぁ! しっかしその貴族はモテるんだなー。アニキ、俺達もいっそ貴族になっちまうか! ガハハ」

「でも超堅苦しくね? 多分やべえと思うぞ」


 思うというか実体験。怠くて死にそうこのトーク。ついでにちょっぴり恥ずい。


「んー、でもあの人、そんなに悪い感じはしなかったわ。っていうか赤い竜にまたがってる姿が、めちゃくちゃカッコいいのよっ」

「騙されてはいけません。あの人はとっても怖い魔王の後継者なのですよ。わたくしの婚約に待ったをかけてきた時は、まさかと思いましたわ」


 ルイーズは外堀を埋める達人だが、埋めようとしても壊しにかかるのがスカーレットだった。


 ってか元々敵対している間柄だったわけで。なんでああいう関係性になってしまったのか。


 ああ、なんか思い出して辛くなってきたわ。実はルイーズとスカーレットだけじゃなくて、諸々いろんなことに挟まれまくってた。あの日々はしんどかった。


 例えるなら、サンドイッチの具になって潰されてる豚肉って感じ。


 ってか自分がオークみたいって言われまくってるせいか、例えにも豚を使っちゃってる。無自覚って怖い!


「恋のライバルって感じね! でもスカーレットさんって、ちょっとドジなところも魅力あるのよ。竜に乗ったまま、アレクの家に突っ込んじゃったりとか」

「まあ! そのようなことがあったのですか。アレクさま、お怪我はありませんでしたか」

「あー全然余裕。ちょっと家が傾いたくらい」


 俺の返事を聞いて、ドワーフのシェイドがぶっと吹き出した。


「なんと! 家が傾くほどの体当たりとは。よく無事で済みましたな」

「アニキはそんじゅそこらのやわ男とは違うんだぜ。今日だって一人で三人前の飯をぺろりと平らげたくらいだ!」

「飯は関係なくね?」

「まあっ。だからそんなに……コホン。なんでもありませんわ」

「なんだいお清楚ちゃん。遠慮しないで言ってごらん」


 まあ大体予想ついてるけどな。そしてすぐにエチカがはっきりと言ってくる。


「本当よねー。そんなに食べてばっかりだとますますオークに似るわよ」

「いいんだよ別に! 俺は三人前が基本なの。なんなら五人前だっていけるぞ」

「あ、アニキ、凄えー!」

「凄くはねーよ。ってかルイちゃん、どした?」


 ルイーズの奴、なぜか固まってるなぁ。なんて思っていたら、彼女はスッと立ち上がった。


「……さま……」

「ん?」


 よく聞き取れなかったな。なんか目がマジになってる。


「カイさま!」

「お、オオオ!?」


 どうした急に!? 今度こそオークそのまんまの声出ちゃったわ。


 そして俺たちの輪を抜けて、森の奥へと駆け出していく。立ち上がって目をやると、華奢な後ろ姿とは別に、もう一人誰かがいることが分かった。


 あれ? なんかマジで、俺っぽくね?

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