第17話 うおー! ルイーズ様バンザイ!
俺たちが向かった先は、エルドラシアよりはるか南東にある壮大な森だった。
この辺りは未開拓な場所というか、めちゃくちゃ魔物が多いことで有名。マジ危険地帯らしい。
年に二度ほど、溢れかえってくる魔物が外に出てくるらしいので、定期的に討伐隊を結成して数を減らしているのだとか。
今回の大型依頼によって集められた冒険者の数は、およそ百人くらい?
それにしても強そうないかにも冒険者って面々もいれば、なんとなくカースト下位っぽいさえない陰キャな冒険者もいる。
ちなみに、俺はそのさえない冒険者側だ。そして似たようなオーラのある奴らは固まるもので、崖っぷち亭の面々はみんな同じ箇所でじっとしてる。
「すごーい。かなりの人数が集まってるわね」
「百人くらいはいるよな。ここで誰を捜索するんだろーな」
「これから教えてもらえるはずよ。依頼主はもうすぐ来るみたい」
水玉バニーがワクワクしながら子供みたいに目を輝かせてる。俺はなんとなく面倒そうな予感がしたので、ちょっと引き気味。
「グハハ! 腕がなるぜえー」
隣にいるモヒカンクリスティーは、物騒な身なりで生き生きしてる。こいつ魔物と間違えられて狩られないか心配だわ。
「よし、全員揃っているようだな。お前達、まずは私の話を聞いてもらおう」
すると、いかにも騎士のお偉いさんという風貌の男が、急遽用意された壇上へと上がり、ハキハキと語り出した。
「お前達を集めたのは他でもない。かの聖女ルイーズさまの依頼により、本日大きな仕事を果たしてもらうためだ。彼女は王都が誇る聖属性魔法の極限であり、大小連なる爵位の持ち主とも同格である。決して失礼なきように。ではルイーズさま、お願いいたします」
「はい」
桃色の長髪が陽光に照らされ、それはそれは煌びやかに映る。お清楚ステータスが突き抜けている聖女は、お淑やかな足の運びで壇上へと上がった。
思わず冒険者達の中から「おお!」とか「麗しい」とか「ルイーズたん……」とかいう声が上がった。最後のなに!?
「皆さま。お忙しいなかお集まりいただき、誠にありがとうございます。先ほどご紹介にあやかりました、ルイーズと申します。王都では聖女などと分不相応な誉れをいただいておりましたが、わたくしなど一介の回復役に過ぎませんわ。実は、今回皆さまにお願いしたいことは、とある方の捜索です」
さすがはお清楚爆乳キャワキャワ聖女。もう冒険者達のハートをガッチリ掴んでいる。おっさん騎士の話なんぞ上の空だった、崖っぷち亭冒険者までもが話に聞き入ってる。
だが、俺は徐々に背筋が寒くなってきた。ルイーズは依頼の前に、まずは自分がこのエルドラシアにやってきた理由について説明をした。思わず熱のこもったトークが続き、バニーまでもが興味深く話に食いついている。
「そのお方はわたくしの憧れであり、お慕いしている男性であり……そして。ええっと、少し喋り過ぎてしまいましたわね! つまりその方——カイさまによく似た方が、この森奥深くにお一人で入られたという情報をいただいたのです。わたくし、居ても立っても居られず、こうして王都より派遣されている騎士さまを通じて、皆さまにお集まりいただいた、という流れになりますの」
壇上の下に控えているドワーフのシェイドが、うんうんと話を聞いてる。
そしてルイーズは、おそらく自分が描いたであろう絵を手に取って掲げて見せた。
実は彼女は絵心もあるわけで、もし前世の日本にいたら「この顔にピンときたら110番!」の絵を描く仕事もやれただろう。ただ、ちょっと美化しすぎな絵だとは思うんだが。
「このお方を探し出していただくことが、わたくしからのお願いになります。どうか、どうかよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げるルイーズ嬢。どういうわけか冒険者連中から賞賛の拍手と歓声が上がった。
「うおー! ルイーズ様バンザイ!」
隣にいるモヒカンが、他の奴らに負けず劣らずの歓声を上げた。俺はただただ呆然としてる。
壇上から降りたルイーズに代わり、再び進行役に戻ったおっさん騎士は、野蛮な歓声の嵐に戸惑いつつも、自分も大声を張り上げて説明を続けた。
「今ご説明いただいた通りだ。王都よりいらしていると噂のカイ・フォン・アルストロメリア様が、この森奥深くにお一人で入られたとの情報がある。彼の救出及び、近年異常な速度で増え続ける魔物の討伐が依頼内容である。カイ様を探し出してくれた者には金貨三枚。魔物を討伐した者は討伐数と種類に応じて報酬を出す。以上! それでは捜索に向かってもらいたい」
すると、またしても「うおおー!」とか「金貨ぁー!」とか「ルイーズ様ぁー」とか騒ぎながらも、冒険者達が各々に森へと入っていった。
俺はまだ立ち尽くしてる。
どうしよう。捜索に参加してみたら、その対象が自分自身だったなんて。
いやいや、絶対に見つからないってばよ。だって本人ここにいるし。
「燃えてきたわね! アレク、私達も遅れてらんないわよ!」
「アニキ! 今日はパーティだぜ! ガンガン魔物を狩まくって、カイとかいう貴族を捕まえてガッポリゲットだぜ!」
やめろその言い方。俺は○ケモンかよ。
「あ……ああ……そうだな」
「どうしたの? 急に元気なくなったみたいだけど」
どう考えても場違いこの上ない水玉バニーが不思議そうに見つめてくるが、なんて返事すればいいものやら。
「いや、なんていうか。本当に見つかるのかなーって思ってさ。ほら、この森って超広いじゃん」
「そうね! でも今日一日で終わりじゃないみたいよ。一週間くらいは期限を設けてるんですって」
そんなに探すのかよ! なんか罪悪感湧いてきたわ。いやいや待てよ。誰だよ嘘情報流した奴。小一時間くらい問い詰めたい気分だわ。
なんて心の中でモヤモヤしまくっていたら、俺たちのことに気づいたルイーズとシェイドがやってきた。
「まあ、皆さまもご参加していただけるのですね」
「お、おお。まーな」
「ちょうど良かったですわ。この際ですので、わたくしとシェイドも、皆さまと一緒に捜索させてくれませんこと?」
これまた予想外な提案だ。この清純ボイスが流れた後、おっさん騎士と部下数名が慌てて小走りでやってきた。
「る、ルイーズ様! あなた様の警護は、我々が致します故。こちらの者達に任せることはございません」
どうやら聖女の護衛は騎士達の仕事らしい。まあ、ここでいいところ見せて王都で自分達をアピールするつもりなんだろうな、きっと。
しかも騎士のおっさんときたら、俺を中心としてメンバーをチラ見しては、「なんだこいつらは」と言わんばかりの険しい顔してる。
まあ騎士の護衛にしたほうがいいんじゃね、と思っていたら、なぜかルイーズが首を横に振った。
「いいえ。ご心配には及びませんわ。わたくしとて勇者様のパーティの一員として、旅をつづけておりました。そして、彼らは腕利きの方々です」
そう言いつつ、なぜか俺に微笑みかけるお清楚ちゃん。背後ではおっさん騎士が、困惑と疑いの目をこちらに向けっぱなしである。
「そういうわけだ。では行きましょう」
なぜかここで強引にドワーフのシェイドが話を打ち切り、阿吽の呼吸でルイーズが俺の隣に立って歩き出した。
「い、いや! ルイーズ様!」
「お気遣いなく。ではアレク様、参りましょう」
「ほ、ほーい」
いやいや、なんか妙な流れになってきたぞ。
「アニキ、こいつぁ面白いぜ! 勇者パーティと一緒なんだってよ!」
「これって超レア体験じゃない? 私、すっごくワクワクしてきちゃった!」
お気楽モヒカンと、オラワクワクすっぞなエチカも引き連れ、急遽結成されたパーティは森の奥へと進むことに。
なんてこった、マジ気まずいぞこれ。
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