第7話 漏れそう

 それから俺たちは屋敷の中を探索して回ることになった。


 恐らく他の悪霊は夜になったら現れるんだろうけど、今のうちに祓える奴は払っておこうという話になったわけだが。


 面倒なことに、ここはダンジョン判定されていないので、ダンジョン・マッパーが使えない。


「ねえねえ! さっきの魔法はどこで覚えたの? ヒール系も使えるの?」


 だが、赤バニーことエチカは幽霊探しより、俺みたいなのがピュリファイを使えたことのほうが気になるらしい。


 まあ、大体こういう魔法を使えるのは、プリーストとか聖女とか、そういう人って相場が決まってる世界だから無理もないか。


「ある時、ちょっとしたツテがあって教えてもらったんだよ。回復もまあ、できるっちゃできるが得意ではないな」

「へえー! すごいじゃない」

「そういうバニーはどうなん?」

「私もそこそこできちゃうわよ。でも、今日はとっておきの道具があるから、魔法は使う予定はないわ!」


 ドヤ顔になって胸を張るエチエチバニー。とっておきなんて言われると気になっちゃう。


 っていうか、もっと気になる存在は後方で縮こまってる。ちょうど廊下を歩いているんだが、一番勇猛に見える男が最もビビりなのだ。


「おーいモヒカン。ちゃんとついてこいよ」

「あ、兄貴ー! 待ってくれよお。足が、足が動かねえんだ」

「もう! しっかりしてよー。ねえアレク、私の道具みたい?」


 テンションが高い赤バニーは、どうやらとっておきの道具とやらを見せたいらしい。


「見たい。どんなやつ?」

「ふふふ! 見て! ちゃんと神父様から購入したのよ」


 そういうと、彼女は小さなポーチからいくつもの札を取り出してみせた。なるほどな、神父様の浄化の魔法が込められている札か。


「浄化札かぁ」

「そう! その名のとおりどんな悪霊だってシュワシュワ消しちゃうわ。これさえあればあっという間に解決ね」

「戦力になりそうだな。モヒカンはなんか持ってきたか?」

「……俺はこれ」


 ようやく追いついてきたモヒカンは、なぜか鉄の斧を見せてくる。


「これじゃ効かないんじゃね?」

「普通なら効かないけど、よく見てくれ。塩をまぶしてあるんだ」

「盛り塩的な効果を狙っているのね。でも、悪霊に効くのかしら?」

「分からん。モヒカン、試しに悪霊が出たら真っ先にやってくれよ」

「む、無理だよ兄貴! 兄貴がやってくれよおお」


 見るからに凶暴そうな風貌なのに、ここまでのホラー耐性なしとは意外だ。それからいつの間にか兄貴呼びしてくるんだが、正直嬉しくない。


「わああ! 見てみて、とっても高価な絵画が並んでいるわ!」

「お! ここは美術室なのか。そんなに高価なのか?」

「ええ! どれもこれも高名な画家が作ったものばかりよ」


 モヒカンとは対照的に、バニーエチカは元気いっぱいである。基本的にいつも元気なのだが、こんな曰く付きゾーンでも変わっておらん。


 俺には芸術は全然分からないんだがなー。と部屋に入って、壁にいくつも貼られている絵を眺めてみる。


 うん、分からん!


 何がどう素晴らしいのか、芸術センスが終わってるかもしれない俺には理解ができかねる。


 こればっかりはしょうがないねと思いつつ絵画を調べていると、一つ奇妙な絵があることに気づいた。


「この絵だけおかしくね?」

「え? 何がおかしいの」

「いや、なんか黒い人影みたいなのが不自然だなって思ったんだけど」

「あら! たしかに変ね。風景と影の感じが合ってないわ。本当はここに、何か違うものが描かれていたんじゃないかしら」


 それは草原と青空、小さな家が描かれた平凡なものだ。だが、一番前には人型を黒く塗りつぶされたような妙な箇所があった。


「や、やべえよこれ! きっとこの絵から悪霊が生まれたんだ。そして屋敷の中を彷徨いてるんだ!」


 ようやく俺たちに追いついたモヒカンが、絵を見て震え出した。


「なるほど。ありえるかもな」

「絵が悪霊になるなんて、そんなこと本当にあるの?」

「あるぞ。以前同じようなものを見たことがある。とある禍々しい魔法使いが、怨念をひたすらこめながら絵を描いたんだが、ある時その絵が生を得て動き始めたんだ。あれは厄介だったな」


 古い記憶を呼び戻していると、なんだか怖いより懐かしいが勝ってしまう。俺はたしかに昔、そういう奴らとも争ったことがあった。


「え! 見たことがあったの。それでそれで? その怨念の絵はどうなったの?」

「浄化されたよ。作者も捕まったしな」

「そういえばアレクって、いつから冒険者をしているの? 本当にいろんなことを知ってるのね」

「冒険者になったのは最近だ。ま、別に大したことじゃない」

「兄貴ー、頼りにしてるぜ」

「頼られたくねえわ。ってか斧を持ったまま震えるなよ。めっちゃ怖いぞ!」


 頼りにならないモヒカンを見て、俺はため息をついた。このビビリを直してくれる秘孔があったらすぐにでも突きたい。


「えー、でもベテランって感じがする。不思議な人ね。ますます気になってきたわ」

「なんもねえよ俺なんて。さ、そろそろ行こうぜ」


 なぜかバニーお嬢ちゃんは興味を抱いてるようだが、あんまり俺のことは気にしないでほしい。


 もう目立ちたくないし、気楽な毎日を過ごしたいからな。


「やばい。漏れそう……」

「トイレ行っとけよ。これからだぞ勝負は」


 モヒカンは昼間から恐怖メーターが上がりまくっているようで、そろそろお漏らしの危険性が出てきた。


 完全に役に立たない高待遇依頼引換券と化した男だが、最後までやりきってもらわないとこっちも報酬をもらえない可能性がある。なんとか頑張ってもらうしかないのだ。


 そうしてブラブラしてるうちに空は夕陽に染まり、いよいよ夜が訪れようとしていた。


ーーーーーーーー

【作者より】

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