第2話 前世の身体が弱くて転生したノデー。

 強靱なっ! 身体をっ!! 強烈に猛烈に最強にっ!!!


 はっ。


 気付いたら、俺の身体は。まあ、アレだ。人魂か球電現象か、燃える可燃性ガス、またはリンっていうアレ。英語では「ウィリアムの松明」。


 意思はある。移動も容易。地面に潜っても、流れて消えたりしない。雨にふられても、ダイジョウブ。風にあおられてもたいしたことない。風に乗るのは、愉しい。ただ 風に吹かれるだけでも仕方ないので、強風なら、やり過ごすことも出来る。


 寝なくても、食わなくても、コーヒーが無くても、ダイジョウブ。立ち木にぶつかっても、痛くない。最強かよ。だが、ぶつかった木のほうも、ノーダメージ。攻撃力ゼロかよ。


 ついでに、働かなくても、ダイジョウブになってしまった。いやいや、無職・住所不定じゃなくて、魔王になって無双して俺Tueee!したいんだってばよー。


 というわけで(何が?)、まずは、身体を手に入れます。ザコっぽいモンスター。スライムさん(敬称まで含めて仮称)、お身体、借ります。


 だめだ。ザンネンながら、身体感覚が違いすぎる。空腹感が強烈過ぎて(というか、ほぼそれだけ)と、動きの感覚が、理解できん。腰痛・肩こり・眼精疲労が無いのは、ありがたいけれども。

 スライムさん(仮称)の人生の基本は、振動や匂いで、敵もしくは餌を感知して、回避か捕食行動なんだろうけれども。移動してるか、止まってるか、それだけです。そういえば、クラゲは、移動と捕食と消化と体内循環と呼吸を、決まった一連の動作でやっているらしい、ここの異世界スライムとは、前世のクラゲかと。

 全くもって、何も、何一つも考えなくて良いので、このままでは、デカルトさん的に言ったら、存在していない「我」に行き着いてしまいそうですよ。

 

 そういえば、高校の時の先生に、居たなあ。「コンピュータゲームのRPGは、序盤のレベル上げが苦痛すぎてムリ」という。自分では、作業プレイ、全然平気だったけど、人生半ば近くなって、つらくなったなあ。紙の資料を、電子取り込みの為に、ステープラーの針を外す作業、2か月やったら、元に戻るのに半年くらいかかったなあ(遠い目)。過重労働も、窓際仕事も、命ぜられてやると、パワハラなんだそうです。


 さて、肝腎の「捕食」であります。まず、小動物を取り込みます。そして、消化します。最後に、不要な部分は捨てます(単純だねっ!)。レベルが上がると、毒素や悪臭のもとを溜めておいて、外敵対策に活用できるかもしれませんが、溜めるリスクもあるんですわよ、自家中毒とかですね。


 哲学的な感覚で云うと、スライムの内部には宇宙があり、外にも宇宙があります。でも境界がありまして、内部から外に出ようとすると、不思議な ”スライム力 ” で中心部に向かって戻ってくるのであります。ただし、老廃物に関しては、本体から勝手に分裂して排出されるのです。


 前世で読んだライトノベルで、確か超高速水鉄砲「ウォーターカッター」を武器にするスライムさんがいらっしゃったような気がしますが、今回のこの個体に関しては、「スライム汁、すらァーっ」(ぺしょっ)という、セミさんのおしっこ状態でありますな。


 とりあえず、スライムはそれ自体が小さな宇宙であり、限定されないアペイロンで出来ています。そして、スライムの外側は、弱肉強食な宇宙。それはまあ、宇宙の内部にあるものですから、構成するものは同じですわね。


 気を付けなくてはならない点について。スライムですが、モブ個体ですので、強度は、泥並みです。とっても衝撃に弱く、踏まれたり蹴られたりすると、体表の膜が破れて、中身が出てしまい、生命活動(?)を維持出来なくなります。

 よくある異世界ダンジョンものなどで、「天井からー、敵さんの視界の外からー、呼吸穴部分に飛び降りてー、呼吸不能にー、」などと考えると、飛び移った衝撃で「一塊の泥」になりますね。

 たとえ「美人さんなー、エルフさんのー、お身体にー、まとわりついてー、お洋服をー、消化してー、(以下略)」であっても、上記と同様です。

 ちなみに、もし万が一、縦書き書籍化すると「上記」じゃなくて「右記」もしくは「前述」となることは確定的に明らか。これで勝つる。鉄より重い金。エウレカ。


 スライムな俺、YoWeeei!  地上に出てきて羽化真っ最中なセミさん状態ですよコレは。


 スライムさんになって、魔王さんになって、無双するのは、当方にはムリっぽいですよ。(結論早っ)


 結論を出しているとなぜか身体が収縮を始めたので、

「これが......、これが、ビッグバウンスですかー?!」

と思って居たら、分裂しただけでした。

 相方(?)には、自我が無くて、私を捕食すべく、行動に出やがりましたので、返り討ちにして、さしあげましタワー、なのです。(いや、実際には、「喰らわれたけど自我だけは乗り移った」なのか?)

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