第4話

「お腹減った…」


 特に準備もせず、手ぶらで旅立ったつむぎ。当然のことであるが食料は自力で確保していかなければならない。しかし、15年間ずっと魔王城の中で魔王と世話係の魔族たちによって丁寧に育てられてきたつむぎには生活力がない。よってしばらくは道端に生えているよくわからない草や、珍しく飛んでいた普通の鳥をとりあえず火魔法で焼いて凌いでいた。魔王城周辺は環境が荒れており動植物も少ないため、腹が満たされることはまずない。


「そろそろまた何か腹に入れとかないと持たない…ん?」


 ずっと灰色で変化のなかった景色の中に、ぽつんと白い毛玉が落ちているのが見えた。何らかの動物に違いない。


隠密ステルス


 魔法で自らの姿を透明にし、さらに卓越した技術で魔力を極限まで小さくして接近するつむぎ。その動物に全く気づかれず接近することに成功する。


「んにゃあ…あのドラゴン…許さんにゃあ…」


「あれ、猫が喋ってる…?」


 そう、そこに落ちていたのは傷ついた白い猫…?


「ん?誰かいるのにゃ?」


「いるよ。」


 突然魔法を解くつむぎ。無表情に白猫を見下ろす、滅んだはずの人間の少女が姿を表す。


「んにゃあああああああああああああああああ!!!!人間!?!?!?!?」


「知ってるんだ、人間のこと。」


 食料問題は一旦保留になった。


          ◇


「助かるにゃあ~。」


 つむぎの回復魔法で治療を受けた白猫はゴロゴロと喉を鳴らしながら身体を伸ばした。


「あなた魔族?喋っている事以外は図鑑で見た動物の猫だけど…」


「ん~そうでもないにゃ。ほい!」


 そういう白猫の身体がみるみるうちに大きくなり、つむぎの身長くらいになった。体型も人の形に近くなり、2つの足で立っている。


「うーん。立たないほうが可愛いかな。」


「なんか傷つくにゃ。」


 しゅるしゅると小さくなって通常の姿に戻る白猫。


「私はつむぎ。人間らしい。あなたの名前は?どうしてけがを?」


「僕の名前はキャスパー…人間達からはそう呼ばれてたにゃ。」


「呼ばれていた?」


「そうにゃ。15年前まで僕は人間と暮らす普通の猫だったのにゃ。街が魔物に滅ぼされたあの日、気を失っていて目覚めた時には僕自身が魔物になっていたにゃ。」


「え…」


 人間と暮らしていた。予想外の告白にあまり感情のないつむぎも驚きをあらわにした。


「そんな驚くことかにゃ。僕からしたら、人間が目の前にいることの方がびっくりなんだにゃ。」


 それもそうである。もっと深掘りしたいところだが、ひとまずつむぎは自分の身の丈を説明することにした。


「私は自分が人間だと知らずに生きてきた。だから、こうやって自分のことを人間だと言われてもよくわからない。今は、人間のことを知るために旅をしてる。」


「なんだか複雑だにゃ〜。旅に出る前はどうやって生きてたんだにゃ?」


「お父様…魔王と暮らしてた。」


「ふにゃ?突然ボケるタイプにゃ?」


「違う。ほんとのこと。」


「まあいいにゃ。それより、人間のことを知りたいんだったら、いい場所があるにゃ。」


「どこ?」


「かつてフォルテンと呼ばれた人間の都市の廃墟…僕が住んでいた街で、今はドラゴンの住処になっているにゃ。何度街に入ろうとしても、そいつに攻撃されて追い返されてしまうにゃ。つむぎ、君見かけによらず強いにゃ?もしそのドラゴンを倒してくれれば、フォルテンを案内してやるにゃ。」

 

「うーん。」


 つむぎは腕を組んで唸りながら考えていた。


「いきなりドラゴンを倒せは無茶振りすぎたかにゃ。」


「ねえ、ドラゴンって食べたら美味しい?」


「味は知らないにゃ。大きいからお肉はたくさん食べれるかもだけどにゃ。」


「…食料を確保して人間のことも調べられる。いいね。倒そう。」

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