第3話
「最上位の魔族達がこのザマか。」
魔王が満足げに周囲を見渡す。つむぎたちの周囲には建造物の残骸すら残らず、更地と化していた。城下町アルトゥムはもはや再起不能であった。
「魔王様、説明願います。」
「お父様、どういうこと?にんげんって何?」
困惑したアバドとつむぎが同時に魔王に詰め寄る。
「フハハ、慌てるでない。まずはつむぎよ…お前は人間という種族なのだ。」
「魔族とは違うの?」
「違う。」
「どうして?魔族にも色々な姿のものがいる、だけどみんな魔族と呼ばれている。」
魔族という言葉に明確な定義はない。そもそも言葉という概念自体、人間との長い戦いの中で魔族の世界に輸入されたものであり、魔族たちがその意味まで理解しているわけではない。強いて言うならば、人間にとって魔族は人間ではなく他の動植物でもないのだ。
「…それでも、魔族と人間は違うのだ。」
魔王は遠い目をしながら呟いた。
「この者は一体何者なのですか。」
魔王に問いかけるアバドは顔面蒼白であった。アバドがここまで弱々しくなったのを見たことがなかったものだから、魔王は面白くて仕方がなかった。
「くくく…これは我が人間を滅ぼしたあの日にフィニスで拾った赤子だ。これまでずっと城の中に置いて我の魔法を叩き込んだ。」
「なぜそのような…」
「気分。ただ最近は教えることもなくなってな。ちょうど今日で15歳、お前とも良い戦いができるであろうと思って送り出したのだが…つむぎの力は我の想像以上であったようだ。フハハハハハ。」
気分で済まされるなんてアバドからしたらたまったものではない。魔王軍のNo.2である自らが破れアルトゥムが落とされた事実は世界に一瞬で広まり、魔族の世界に大きな動揺を与えるであろう。魔王や将星たちに反乱を起こす魔族も現れるかもしれない。なぜならば魔族の世界で最高の価値は力であり、魔族同士の殺し合いなど日常茶飯事のことであるからだ。
「アバド。」
つむぎがアバドに声をかける。
「な、なんだ。」
「あなたも他の魔族も、私が人間だから殺そうとしたんだよね。どうして魔族は人間を殺そうとするの?」
「…魔王様が言ったとおりだ。人間は魔族と最も異なる存在であり、最大の脅威だ。魔族と人間が同じ世界に存在するのは不可能なのだ。」
「わからない。人間と魔族の違いも、違うことが魔族から襲われる理由になることも。」
「ならば我と戦ってみるか。」
突然の魔王の爆弾発言。
「お言葉ですが魔王様でもただでは済みませぬぞ。」
「それが良いのではないか。それに、拳を交えてお互いの理解を深めるのは人間の文化だぞ。人間のことを考えるには最適ではないか。」
「気分じゃないかな。」
「ならばやめておこう。」
2人の化け物の気分に振り回されてばかりのアバドは頭を抱えた。どうにかしてお帰りいただかなければ…必死に頭を働かせる。
「…世界には、人間の遺構がまだ多く残っていると聞きました。それらを巡ってみるのはいかがでしょうか。ご息女…姫様の実力ならばどこに行っても問題ないでしょう。」
実際のところアバドは2人に早くここから離れてもらいたいだけであった。ついでに、各地の反乱分子の一つや二つでも潰してくれれば更に良い。
「姫?」
「我の娘ということだ。うむ、良いのではないか?」
「どこに行けばいいの?」
「特に決まりはないが…そうだな、人類最後の地にしてお前が生まれた場所、フィニスはどうだ。」
「私が生まれた場所…わかった、そうする。方向は?」
「それも自分で探すのだ。旅だからな。」
「けち。」
「フハハハハ。もし気分が変わって我と戦いたくなったらいつでも帰ってこい。」
「それはない。行ってきます。」
つむぎはくるっと魔王たちに背を向け、あっさりと立ち去っていく。
「長い旅になるでしょうに、随分素っ気ないものですね。実力もそうですが人間らしくない。」
「つむぎは人間だが魔族として育ったようなものだからな。しかし、どこかに人間としての本能を秘めているはずだ。それが現れた時…何が起きるのだろうな。果たして我はつむぎを理解できるのだろうか。」
「魔王様?」
魔王は空を見上げて15年前に思いを馳せていた
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