第2話 

「何を言っているのだ愚かな人間よ。今更復讐か?隠れていればよかったものを。」


 アバドが火球を放ち、つむぎに直撃する。あまりの衝撃に大地が揺れる。しかし、炎がつむぎに届くことはない。


「町が壊れちゃうよ?」


「構わぬ。」


 アバドが頭上に手を掲げると長さ数十メートルの巨大な氷柱が現れる。氷柱は触れたものを全て凍らせてしまうほどの冷気を帯びていた。


「ふうん!!!」


 アバドが手を振り下ろしたのを合図に、氷柱がつむぎに襲い掛かる。しかし…


「えい。」


 つむぎが人差し指で氷柱にチョンと触れると、氷柱は向きを変えてアバドの方向に飛んで行き、咄嗟に防御の構えをとったアバドの右腕に突き刺さる。


「ぐあ!…くそっ!!!獄爆ヴォルバステ!!」


 天高く火柱が昇る。大爆発魔法獄爆ヴォルバステは、使用することのできる魔族のほとんどは自らをも巻き込んでしまうため、自爆覚悟の奥の手の魔法として知られている。しかし、アバドは魔王軍の最高司令官たる4体の将星のトップ。すなわち、魔王を除けば最強の魔族。獄爆ヴォルバステを始めとした禁断の魔法を完璧にコントロールできるのだ。


「あはは、魔法ってそんなこともできるんだね。お父様の言ったとおりだ。」


 依然として無傷で、楽しそうに笑うつむぎ。

 アバドは動揺していた。驕りでも何でもなく、事実として魔族の高みを極めた自らの魔法がまるで効いておらず、一笑に付されている。


「ふざけるなあああ!」


 アバドは魔力で身体能力を極限まで高め、突進する。しかし、つむぎはびくともしない。そもそも、アバドはつむぎに触れることができなかった。


 ――これは、魔力の壁…!?


 そう。つむぎの強さの根源はあまりにも強大な魔力。つむぎの周りには高密度高出力の魔力が常時放出され、絶対防御を形成していた。


「うおおおおおおお!!」


 魔力逓減、灼熱の炎、身体強化、突進、絶対零度の冷気。アバドはデバフやバフまで駆使し、持てる力の全てを尽くしてつむぎを滅ぼそうとする。魔王城の城下町アルトゥムはアバドの魔法に耐えることができず、無残に崩壊していく。


 それでもつむぎに魔法が届くことはなかった。


「そろそろ飽きたな。色々教えてくれてありがとう。じゃあね。」


「なぜだ…いったい何が…」


 つむぎの魔力が急激に膨れ上がる。

 全力を出していなかったのか。自分は遊ばれていたのか。初めて、アバドの頭に敗北の二文字がよぎる。


「フハハハハハ!!!!!!情けないなあ、アバド!!!!!!」


 突如空が割れ、狂気に満ちた笑い声が響き渡る。つむぎが放とうとした魔法が、強制的にキャンセルされる。空にぽっかりと空いた穴から降臨したのは…


「魔王様!!!」


「あ、お父様。」


「…え?」


 つむぎ。15歳のごく普通の少女。しかし、彼女は普通ではない。理由は2つある。1つ目の理由は…前述の通り彼女が人間であるからだ。

 そして、2つ目の理由…


 彼女は魔王の娘である。

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