第1話 選べぬ転生
………い、……さい、…めなさい、目覚めなさい…。
「さっさと起きなさい!このオタンコナスゥ!」
突然の怒声に男は慌てて目を覚ますと、暗闇の中にパンツ一丁で突っ立っており、
スポットライトで照らされている状態だった。一体何が起こったのかさっぱりだ。
とりあえず声の主を探して男は周りをキョロキョロと見まわしていると、
男の前方から少し距離を置いてピンク色のカーテンが突如現れた。
カーテン越しに影が映っており、顔や姿は見えないものの
その影の大きさから察するに身長は180cmを超えていそうだ。
どうやら男を怒鳴ったのは、このカーテンの向こう側にいる者らしい。
「ここはどこであなたは誰なんだ?」
この妙な場所に連れて来られたら誰しもが聞くような質問に向こう側の者は答えた。
「この場所は死後の転生先を決める場所です。前世のあなたは自殺(溺死)という事になっております。私はその死後の魂を案内する役目を担っております」
声から察するに若い女の声…だろうか、その女の話は続く。
「現世では、年々の人口増加により死後の魂もそれに比例して溢れかえっており、こちらとしては老衰死でない限りは今すぐに天国、もしくは地獄へ案内することが出来ない状態です。」
「ちなみにどれくらい待てばいいんだ?」
「そうですね…ざっと1000年ほどでしょうか?自殺はまだ早い方ですよ、これが殺人者ともなろうなら万単位で後回しになりますから。あっもちろん私もなるはやで
魂の選別をやりますんで!こう見えても同僚には仕事が早いねって褒められるんですから(笑)」
こう見えてもとは言ってはいるが、カーテンの向こう側では分からないじゃないか。
女のさきほどまでの形式的な話し方と変わっていきなり砕けた口調に変わり、
男は内心で一瞬クスっと笑ったが、すぐさま冷静に戻り、
「おいおい、そんなに待てるか!俗にいう異世界転生とかないのか?」
「あるにはありますけどいいんですか?転生内容は最終確認後まで教えることは
出来ないのでお勧めはしませんが…」
男は異世界転生というものに興味があるというわけでは無かった。
しかし、前世で生きていたというよりもただ動いていたと言っていいほどの
人生をやり直したかったのかもしれない…。
「問題ない、前世に比べれば異世界なんてどうってことはないだろう。
今すぐにでも送ってくれ」
そうだ、転生前にはチートスキルとか言うものを貰うはずなのだから、
いわゆる≪俺TUEEE≫状態からスタートできるはずなのだと男は楽観視していた。
男の揺るがない覚悟の決めた声を聞き入れ、女は答えた。
「分かりました、それではそのままそこに突っ立っていてください。魔方陣が出てきますので絶対に動かないでくださいね!動いちゃうと最悪体が引き裂かれてしまう恐れがありますので!」
おいおい怖いこと言うなよと思いつつ、やっと転生できると思うと唐突に押し寄せてくる期待と不安で男の気持ちは今にもどうにかなりそうだった。
すると地面が青白く光り輝いたかと思うと転送陣らしきものが足元に浮かび上がった。男の体も輝き始め、これから異世界に転送されるのだろうと覚悟を決めた。
「それでは転生後についてちゃちゃっと説明させて頂きますね。あなたが前世で得た記憶のほどんどは消滅しちゃいます!でも大丈夫ですよ!私と話したことは覚えてますから!」
女は矢継ぎ早に説明を行う。
「チートスキルだの最強装備だのは先に転生した方々から先着順でしたのでsold outですね、つまり品切れです!でも0歳時からやり直せますんでそれを考えれば儲けもんですよね!まぁモンスターとか魔王とかいますけど、安全に生きてさえすれば天寿を全うできますよ!」
当てにしていたチートスキルが貰えないことを突如言われたことで男の頭は混乱し、
これはどういうことかと女がいるカーテンの方へ詰め寄ろうとした所、
「あわわ、動いちゃだめですって!」
バターンと大きな音と共にカーテンが倒れ、そこには人を型どったベニヤ板と
ピンク髪の小さい女の子が倒れていた。
女の子はイタタと言いながらすぐに立ち上がると、
「あ~小さいからってバカにしてるな、その目は!これでも地球支部日本担当の女神アニスちゃんって言う肩書きがあるんだぞ!決して身長が低いのがコンプレックスじゃないんだからな!せっかく女神っぽく喋ってたのに…」
男は突如起こった内容に呆気に取られていたため、体を動かせずにいた。
自分より身長が高いと思っていた女がよもやこんな小学生並みの女児だとは思わなかったからである。一応服装は女神…ぽいのか、ギリシャ風の白衣をまとっている。
そこに女…もといアニスは目に涙を滲ませ、腕を振り回して地団駄を踏んでいたが、
「もうっ…すぐに転生させますから!あなたの2度目の人生に幸あらん事を!」
慌てたように言うやいなや、それと同時に足元の光がより一層光り輝き……
男の体は光りに包まれた。
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