04-02:プリンセスと最期の夜・2
□scene:01 - 学園:教室
教卓側の扉が吹っ飛ぶように開き、極上の美少女が堂々登場。
狂気に満ちた
「ユウ様───────────────────────────────!!」
「うわわわわあぁ───────────────────────────!!」
滑るような品の良さがかえって恐怖、生存本能で立ち上がるが俺の席は最後列。
秒で壁に押し付けられ、背伸びしても届かない泣き顔が見上げてくる。
「ユウ様ユウ様ユウ様ユウ様ユウ様ユウ様ユウ様ユウ様ユウ様ユウ様ぁ────! やっとお会いできました! ずっとずーっとこの日を待ち焦がれておりました!! ああもう胸の高まりでどうにかなってしまいそうです!!! このままでは死にます死んでしまいますぅ!!!! ああああ──────────────!!!!!」
透き通るような金髪、透き通るように白い肌、そして透き通る
そして瑞々しい白桃のように淡く、艶やかで甘い香りのする唇。
続いて褐色の美女が登場。
「アレックス様! お気を確かに!」
あくまで品良く、間近で見れば逞しい豪腕で美少女を俺から引き剥がす。
「あ──ん! ユウ様ぁ────ん!」
脚をばたつかせ両手を
そして教卓に着いた若い女教師と並ぶ、この学園の制服を着た二人。
意表を突かれ誰もが言葉を失った中、担任が震える
「きょきょ今日はみみ皆さんに、ああ新しいお友達をしょしょ紹介しますね」
生徒に〝皆さん〟と言いつつも、目線は明らかに廊下に並ぶ大層な大人たち。
漏れ聞こえる肩書きから、学園長や学部長に
髪の色や顔つきから、海の向こうから来たと
いずれもそれなりの地位にいるヒトたちには違い無い。
〝スケジュールに余裕がなく、大臣やマスコミに睨まれているから時間厳守で〟
〝この後は官邸で首相と記念撮影、並びは別紙、決して間違えないように〟
〝何かあったら必ず後悔する事になるから、くれぐれも慎重に〟
等々
「とと突然の事で皆さん驚いているでしょうが、えええーと留学生さんですぅ!」
*
〝留学生〟については、愛里沙の編入に動いていた頃に耳にした事がある。
海の向こうにいくつかある提携校との交換留学も、その
往事は毎年数十人が異文化交流に励んでいたらしい。
だがしかし、テロだか
そもそも相当の財力を有する家の子たちは、お仕着せの渡航に興味が無い。
優秀な学生であるほど、得られる知見とかかる時間の割が合わない愚行扱い。
教師たちも
毎年儀式的に再開が提案され、希望者皆無で立ち消えていたらしい。
雑談中に〝こんな枠もある〟と耳にした、当時の愛里沙にはどうでもいい話。
留学生が存在しなかった
*
担任の激しく震える
無駄に仰々しくなく日本の女子高生らしく、それでいて品良く気高くお辞儀。
「アレックスと申します。みなさん、よろしくお願いいたします」
その隣で半歩下がり背筋を伸ばす、褐色の肌に赤髪が似合う絶世の美……女?
こちらは頭を下げる事無く、鋭い眼光で前方一八〇度の全てを睨み付ける。
「シーナだ。よろしく頼む」
向こうは俺を知っている。
金髪美少女に名を呼ばれ、褐色の方からは今も熱い視線を感じる。
だが俺は、思い浮かぶ中に合致する姿が無い。
意識が曖昧な頃に会っているはずが、思い出せない相手は珍しくない。
必要なら改めて挨拶すればいいだけで、いつもなら気にも留めない今更の感覚。
だが彼女らに限っては、無視できないでいた。
異国情緒溢れる極上の見た目だとは思うが、それだけ。
身の程を知っているから、釣り合わない相手は
さらに言えば
(〝アレックス〟と言えば、伯父貴が見てたアニメに……あれ? そんな事をいつか思ったような女子向けじゃなかったような、全く何も無い平面に桜色の
□scene:02 - 学園:廊下
瞬きした瞬間、背中から教室後方の扉を抜け廊下に吹っ飛んでいく。
次に目を開けると、褐色の美女に窓際の柱へ押し付けられていた。
客観的には、いつか流行った壁ドンスタイルにも見えるだろう。
現実的には彼女の指先が喉を突く暗殺スタイルであり、俺の命は風前の灯。
助けを求め大人たちに向くも、数人の屈強な黒服が〝何でもない〟と説明中。
漏れ聞こえる言葉によると、彼女たちの
思えば金髪美少女が暴走した時も〝見守る〟のみだった。
褐色の唇が俺の耳を噛むほどに寄り、
(アレックス様は、お生まれになった瞬間から麗しくもお美しい女性だ)
(で、でも〝アレックス〟って……)
俺の認識では勇ましくも格好いい機動兵器の愛称であって、男性名。
そして脳裏に蘇る、褐色の面倒臭い美女と金髪の美……少年?
ふと背筋に冷たい汗が流れ落ち、その原因に違いない気配の方に向く。
褐色の美女が
そして近づく、そんな面影があるような気もする麗しい顔。
「アレクサンドリアと申します。皆はアレックス……と」
自動的に自制心が発動、小声で
(いやだって! 俺が見たのは真っ平らな……)
半歩下がって身を
「あれから随分成長しましたのよ?」
頬を紅く染めて
得体の知れない
(でもだって!? 俺が抱いたあのコはもっと細くて
上背が近いが色々と絶無な早弓を知っているから、〝有る〟主張に異論は無い。
肝心の部位は鳩胸程度な気もするが、命が惜しいので
アレックスが
「私自身、こんなにも急に……と驚いております。王宮の医師が言うには、その……恋を……したから、ではないか……と……」
そして肌身を焦がされるかのような激しい熱。
赤黒い
生存本能が脳をフル回転、秒で察して褐色の美女に寄る。
(俺に男趣味は無いしアレックスはたった今の今まで男だと思ってたんだ! 失礼な誤解は謝るけど命を狙われるような
(
(ちょっと待て! 前半にも言いたい事はあるが、後半は俺とは無関係だろ!?)
(姫様のお側から
(聞けよ)
その
アレックスが穏やかに微笑むのは、シーナの性癖を知っていたからに違い無い。
睨み合ったまま膠着状態になったところで、教室から担任の声。
「くくく楠原君のお、おお知り合いだそうですね。たたた大変仲がよろしいようで、ななな何よりです。しょ、しょ紹介の途中だったから、教室に戻ってくれると先生、嬉しいな……なんて? あは、あは……はは……は……」
担任は曇った眼鏡の向こうで、笑顔を引き
学園の重鎮たちも同様で、冷や汗で済む政府関係者とは立場が違う。
何かあれば現場に責任が押し付けられるのは、この国ではよくある話。
不意に、シーナの怒気に満ちた顔が寄る。
「フン!」
足でも踏まれると覚悟したが、意外にも鼻息を浴びせかけられただけで済んだ。
世界を出し抜いて成立した国交に、異論や横槍は少なくない。
友好条約は締結されたが、利害に依らない関係は実績を積み重ねてこそ。
〝留学〟もその
さっきのあれは、アレックスを……国を辱める物言いを止めたとも解釈できる。
しずしずと品良く歩くアレックスに、二歩下がって付き従うシーナ。
あの国で慣れた〝後ろ回し蹴りが届かない距離〟を保ち、俺も後に続く。
□scene:03 - 学園:教室
改めて教卓で待つ担任の下へと歩く二人。
後ろを歩くシーナの、左右に振り上がる巨大な尻に目を奪われる男子たち。
女子の方はスマホでアレックスの正体を知り、
新たなクラスメイト、それも異国の美少女に美女となれば盛り上がって当然。
型に嵌められようとしている身としては、これからを思うと気が重いが。
喉に手を当て爪が刺さった痕を
巨大な尻と軍服姿、そして今の制服姿が重なり思う確かな違和感。
「シーナ、その制服……三〇で女子高生?」
□scene:04 - 学園:廊下
瞬きした瞬間、廊下の柱を遙かに超えて階段脇の影。
喉に腕が食い込み足は宙に浮き、
人目につかない暗所で狂気に満ちた
「まだ二九、だ」
□scene:05 - 学園:教室
教室での紹介が終わると、アレックスとシーナは退場。
迎賓館で両国政府関係者やメディアに対応するため。
授業への参加は明日からと知らされた。
□scene:06 - 学園:迎賓館
高等部から森と呼ぶべき密度の遊歩道を数分歩くと現れる、古風な洋館。
伝統と格式ある学園が誇る堂々とした
□scene:07 - 学園:迎賓館:応接室
昼休みになると俺も
国や自治体の代議士に様々な団体の代表との会合は、
アレックスは、次の予定のため退出していく紳士淑女と挨拶を交わしていた。
それを横目に、未音さんから
(……ってなワケ。表向きは〝
(あの国が絡んでる話で俺が担ぎ出されるのは、まあ仕方無いけど……)
それで得た絶大な
未確認だが俺の立ち位置を考慮し、配慮して貰えている可能性もある。
協力を求められたなら、俺に拒む選択肢は無い。
俺はそれとして、他に選択肢はなかったのかと突っ込まざるを得ない件もある。
(シーナの
(あ、あたしもそう思わないでもないんだけどさ? 学園の周りはこの国の然るべきヒトたちが目立たないようにガッチリ固めてんだけど、中まで筋骨隆々のオジサマやオネエサマが
(そんな事だろうとは思ってたけどさ。なんだかんだで結構馴染んでたし)
規格外の胸と尻に魅了された男子共に、熟れた魅力はご褒美に他ならない。
承認欲求を満たすため敢えて否定しようとした輩は、敵と
砂漠で
それでいて自らを飾る知識に乏しいとなると、女子たちの格好の玩具。
ノーメイクと適当に纏めただけの髪型は、素材としてとても美味しい模様。
完全体でお姫様でもあるアレックスを
ここでの〝引っかかり〟が外れると、さらに根本的な疑問が浮かび上がる。
(でも、止ん事無いアレックス……さんの留学を
(んもうぉ♪ 理由はわかってるクセにぃ♪)
恐る恐る背後をチラ見。
慈愛に満ちた笑顔で
民の象徴足るべく磨き上げられた完璧な笑顔に、えも言われぬ圧を感じる。
未音さんの説明が終わったと
部屋の隅にいたから、追い込まれているような気もする。
「闇に潜む悪党共に囚われヒトならぬモノとして
自覚のない英雄譚だが、その名声を利用しているから否定できない。
「あ、ああ? あ、あれ……ね?」
「この、あの頃はまだ哀れで無様だった
「あ、あれは……」
アレックスの目配せでシーナが動き、あの国の役人らしきヒトに耳打ち。
そのヒトと顔を見合わせた未音さんが、竜手を広げて来賓に向く。
「若いヒトたちの友好を見物なんて野暮ってもんです。私たち大人がいたらやり難いでしょうしねん♪ ささ、大人は大人で大人の話をしましょう!」
扉が開かれ、列を成し出て行く大人たち。
アレックスが望む状況と思うと背筋が伸び上がり、未音さんに駆け寄り
(置き去りにするのか!?)
(盗聴器や隠しカメラは無いと確認済みよ。姫がお呼びになるまで誰も邪魔しないし安心して熱烈歓迎に励んで♪ 仲良くしてくれるとあたしも仕事がし易いし♪)
(異国のお姫様を、
(シーナさんもいるし何もできないでしょ。それに悠佑クンってば、虚無だった
(いやいやいや、俺が襲われる可能性だってあるんだが)
(大丈夫大丈夫♪ シーナさんは姫の前で暴走できるコじゃないし。悠佑クンが手を出さない限り……まさか、あの二人
(なわけねーだろ。ってか〝も〟って何の事だよ。にしても、どうしてこんな……)
(人質として差し出されるに当たって〝まだ言ってなかったお礼を直接〟って、うら若き乙女が恥ずかしそうに頬を染めて涙ぐんじゃってね。その姿がもう感動的で貰い泣きするヒトまでいてさ。それに二人が良い感じだったらあの国とのあれやこれやも安泰で、あのヒトたちの立ち位置も順調に上がってくでしょうし。そんなこんなで、
(俺の意向は聞きもしないで
(いやいや、関係者みんなちゃーんと考えてたよ。綺麗ドコロとイチャイチャさせてやるんだから感謝してくれるだろう羨ましいヤツめ、みたいな空気だったような気もするけど♪ じゃね、私が楽するためにも頑張って♪)
未音さんは最後に部屋を出た黒服とアイコンタクトし、扉へ向かう。
大人たちが姿を消すと、シーナが扉の施錠を確認してカーテンも閉めた。
貞操の危機に
思わず
その拍子にバランスを崩し、後ろに倒れて腰を落とす。
アレックスは幸いにも下着
だが、安堵して腰が抜けたままの俺を跨ぐように仁王立ち。
膝を着いて、目線を合わせ……乱れた制服を開け、
「ご覧くださいまし。
「は?」
俺の頭上に浮かぶ
その目は、熱く歪んでいた。
「
救いを求めてシーナを見ると、
あの国で誰かを〝変えてしまった〟と責められた日々を思い出す。
我を忘れて
「何か……すまん」
「姫は両陛下がお年を召されてからお授かりになられた、ただ
「〝責任〟って……」
この国で〝責任〟を取る上で足らない数字に引っ掛かる。
察したらしいシーナが、嘆息。
「飛び級されている。学力に問題は無い。高等学校への編入はこの国も了承済みだ」
あの時がその
さっきの子供のように天真爛漫な
日本に於ける白人評を鑑みれば、同級生なら一五か六と見誤ったのも。
だが俺には他に為すべき事があり、護るべき相手がいる。
そう想った瞬間ふと背筋が涼しくなり、恐る恐る振り返る。
慈愛に満ちた微笑みと、今想った全てを見通したかのように開いた
「ユウ様は悪逆非道な悪党共を殲滅、そのオジ様は情け容赦なき大国であろうと我が国へ
「あ、あのさ? えーとジャパニーズツリバシコウカ? わかる? ……って日本語喋ってたっけ?」
「勉強しました……必死に。シーナにお願いして。今日この日を夢に見て」
感動に浸るアレックスの後ろで、シーナが歯を食いしばって泣いている。
〝断れるわけがなかった〟と、その潤んだ瞳が物語っていた。
現実を見誤った
「吊り橋効果、修学旅行カップル、文化祭の準備で遅くまで残った二人が想う特別な感情……そのような精神状態に
「みんなそう言うんだよ」
「いずれ王となる重責。待ち受ける現実。永く悲願でありました開国……その全ての鍵であり要であるユウ様に抱き締められた私の、この胸の奥から止め処なく湧き出す想い……これを〝運命〟と言わずして! 何と申せば良いのでしょう!?」
「〝勘違い〟じゃないかなー」
「あの日、敵の
あの頃の俺は、怖じ気づいたり怯えたりのような負の感情とは無縁だった。
明日に興味が無かったから、いつ終わっても仕方が無いと思っていた。
前向きにも見えた行動は刹那的な想いの現れで、信念など無かった。
彼女にも特別な意識はなく、そもそも男のコだと思っていた。
「あれはだな、アレックスさん? 様と知らずに……」
「今まで通り〝アレックス〟……とお呼びくださいませ。両国の関係を良く思わない者共の耳に届きますと、他人行儀は友好も偽りと怪しまれかねません」
「そ、それは確かに……」
落ち着いたと見たのか、シーナが回収していた制服を手にアレックスへ寄る。
「姫様、
シーナが助け船を出してくれた。
船頭が明らかに俺の死を願っているが、他に
「〝第一の目的〟?」
「貴様と叔父上の助力によって、我が国は閉ざされていた未来への扉を開けはした。だがその先は余りにも暗く、長く険しい」
身だしなみを整えたアレックスが、
「今なお我が国を傀儡にせしめんとする
有無を言わさない自然体に、自然と
「どこかに寄れば、別のどこかは面白くない。負け組になりたくないから黙って見てられないし、邪魔された方も黙って引き摺り下ろされたくない。そうなると行き着くとこまで行くしかない……か」
協力と言い換えた間接的支配、内戦、分裂、それがための他国の介入。
シーナが巨大な胸を張る。
「海に囲まれた天然の要害にあり、どの大国とも浅からぬ間柄でいて、距離を置ける
「何だかんだ言って金はあるらしいし、あちこちと同盟してて手を出し難そうだし、組む相手としては悪くないのか」
「貴国も我が国の資源を含む地政学的価値を高く評価してくれている」
中にいると粗が目立つが、外からは使える
アレックスが瞳を潤ませ見上げてくる。
「ですがこの世の中、善いヒトばかりではないのも事実……我が国は貴国がお望みの通りにお応えする所存、ではありますが……」
「自分の懐や地位のために利用しようとする、小賢しい奴もいるだろうな」
「
シーナが
「国レベルの交渉は役人がお膳立て、その上で大臣や首長の出番となろう。だが我が国は外交ルートが確立しておらず、貴国の誠意に頼るのみ」
大人抜きでしたかった話はアレックスのアレだけではなかったと理解し、嘆息。
「〝誠意〟ね……この国にそんな高尚な覚悟があるかな?」
シーナが暗い
「現政権へは悠佑殿の叔父上が根回し済みだったようだ。全てあのおヒトが用意した筋書き通り、現状に満足していると感じる。仮に納得していなくとも叔父上を強烈に怖れている節があり、その思惑からは逃れられんと見た。だがしかし……」
「政権が変わればその限りじゃない。世界の裏で暗躍してた伯父貴は行方不明」
その意を解し、
「そこで〝永く続く権威に敬意を払う〟って価値観のあるこの国に、永く続く王家のお姫様。敢えて決定権の無い
スカートの裾を持ってお辞儀するアレックスと、深く頭を下げるシーナ。
その覚悟には相応の態度で返すべきであり、嘘は
「大体事情はわかった。俺もそっちとの繋がりを利用させて貰ってるし、できる事があれば強力するよ。それは約束する。でもアレックス……俺にはもう……」
フラグが立ちそうだが、俺が選ぶ選択肢は考えるまでも無い。
〝ハーレムもの〟とは、誰か
どのヒロインにも優しいのではなく、自分に優しい主人公の物語と思う。
ただ
不意に笑顔を花開かせ、辺りを踊るように歩き出すアレックス。
「従兄妹のヒナタアリサ様、一五歳。私の他にもう
可能な限りつきまとい、ロリコンと
それも特別な関係ではあり、噂を耳にして
取り敢えず、アレックスが思うような関係ではない事実を表明しておくべき。
「いや愛里沙は……」
音もなく素早く擦り寄ったアレックスに、
「戸籍上はクスハラアリサ。〝ヒナタ〟はオジ様の娘と
未音さんの仕事が見破られていた事実に戦慄。
身内には隙だらけだが、対外的にはあの伯父貴が
二の句が継げない俺の周囲を、悠悠と歩くアレックス。
「ご両親の最期と非道の仕打ちは敢えて
「な!? んだと……こ、ここ告白された回数まで……」
できうるなら運動会の動画は目にしたい。
「あの娘とはまだキスだけ……でしょ?」
「え?」
「大雨の日、傘の下……」
「ど! どうしてそれを!?」
それは愛里沙が気を失う直前。
手は傘を持ち愛里沙を抱え、顔で支えるしかなかった瞬間。
俺自身あれが
大雨を受ける傘で視界は歪み誰かに見られたはずはなく、忘れようとしていた。
数歩
「世界に見捨てられ、忘れ去られた小国が永く生き延びたのは偶然ではありません。正面から太刀打ちできねば、内に忍び崩す手もあります。諜報戦には秀でていると、自負しておりますの」
遠い異国から来たはずが、優秀な捜査官である郷里さんを超えている。
雨と傘の下を知っているのは、相応の人材か技術を擁している証左。
となると不思議に思うのは、アレックスの余裕。
俺の想いを知りながら、知っている事を誇る笑顔の理由がわからない。
俺の心を見透かしたように、楽しそうに笑うアレックス。
「永く孤立していた我が国には、真っ当な国々ではとうの昔に
「な……何を言いたい?」
「
「は?」
「他の国々の
「は?」
「
世界から見放されても生き延びた小国、だからこその強さは計り知れない。
だがしかし、ハーレムルートに進む気などないのだから
かけがえのないたった
拳に
彼女が背負う重く大きな現実を思うからこそ、無責任な返事はできない。
「アレックス! 俺は……」
俺の鼻先数センチに、スマホを突き出すアレックス。
「こんなのもあります♪」
手前に冴えない男の横顔と裸と思しき肩。
そいつに四つん
思わず
「そ、
元より申し訳程度にしか隠していなかった美形が、
俺もシートベルトに絡まり引っ張られ、肩が露出した事も。
ポケットにあったスマホに触れて電源が入った気も……
諜報戦に
アレックスは膝を着いて俺に跨がり、再びスマホを見せ付ける。
「こんなのも♪」
誰が何を妄想しようと、俺には合体中に感極まった様子に見える。
ヘリが乱気流に揉まれた際の
アレックスがスマホの上で指を滑らせると、次々と現れる美形の痴態。
「ちなみに、元は動画です♪」
即ち特定の意図に基づく切り抜きであって、印象と事実は大きく異なる。
俺たち以外の事実を知らない人類が、何を真実と思うかは考えるまでもないが。
シーナが真顔で俺を睨む。
「この時アレックス様は、まだ
どんな高等話術を駆使しようと、この
完全に制したと見たのか、悠然と立ち上がりシーナと並ぶアレックス。
「ご安心くださいませ。公開はいたしません。そんな事をすれば我が国の未来までが危うくなると、承知しております」
自らの醜態など意に介する様子はなく、国のみを憂う姿に本気を思う。
エロいサービスだけで終わるはずがなく、さらなる不安で
アレックスが不敵に笑う。
「でも、やっと穏やかな日々に辿り着かれましたアリサ様がご覧になりましたら……どうなりましょう?」
予測していた
何も言えない俺に、何も言えるはずがないとわかっていたように彼女が笑う。
「
その勝ち誇った笑顔に圧倒されつつ、思うところあってシーナに向く。
「アレックスって、今いくつだっけ?」
「先月、一〇歳になられました」
「は……はは……」
生まれた
新規登録で充実の読書を
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