02-05:雪の夜に舞い降りた・5

□scene:01 - 光の中



 少女は、柔らかな光と優しい温もりの中を漂っていた。

 春の寒さも、夏の乾きも、秋の冷たさも、冬の痛みもない。


「ここ……天国……なの……かな……」


 想うのは、彼女の全てを受け入れ包容し護ってくれた父母の温もり。

 やがて沈み落ちる身体からだから、思わず伸ばした手からも光が離れていく。


 そして……全てが闇に覆われた。





□scene:02 - マンション:愛里沙の部屋



 まぶたを開いていたとはすぐに気付かないほど、この世界も暗かった。

 そして思う、今はひとり。


「愛衣……愛彩……ごめんね……助けられなくて……二人は、お父さんとお母さんに会えてるかな……会えてればいいな」


 護れなかった思いが、果たせなかった約束が彼女の心をさいなむ。


「ひくっ……頑張ったけど……うっ……頑張って、ごめん……ごめんね……頑張った分だけ二人を苦しめたね……もっと早く全部諦めてれば、こんな……ここは……」


 あの男女に責められ罵られ続けた中で行き着く先、〝地獄〟に違い無い。

 まぶたを開けても暗いままなのは、ここが光の無い世界だからに他ならない。


 少女は自分を責めるしか、自分の精神こころを慰める術を知らなかった。

 それはこのまま精神こころも消え去りたい、消して欲しく願うと同じ。


(私……何のために生まれたんだろ……生きてたんだろ……)


 そう思った瞬間とき、〝暖かい〟と気付いた。

 闇夜の雪に沈んだはずが、身体からだ精神こころも震えていない。


 確かな熱が、そこにあった。

 燃え盛る炎を思うのに、怖れるより闇を寄せ付けない猛々しさに心が安らぐ。


 ようやく暗さに慣れてきたに映るのは、父のような頼もしい笑顔。

 その熱から聞こえる、母を思わせる優しい声。


「ここは天国じゃないし、二人とも無事だよ」

「え……」

「君より早く元気になって、今は向かいの部屋で眠ってる」



                *



 刺激を抑えるため窓には遮光カーテン、医療機器の灯りすら最低限。

 閉じていた目には強烈すぎるスマホの灯りを向けないよう、慎重に起動。

 震える指に〝動け!〟と心の中で絶叫しながら、智尋さんにメッセージを送る。


 ベッドに横たわったまま、小さく綺麗な顔がゆっくりと俺に向く。


「あ……あの……」

「良かったー♪ 智尋さ……お医者さんは一息ひといきついたみたいに言ってたけど、やっぱ心配でさー」


 驚かせないように! 焦らせないように!! 怯えさせないように!!!

 かねてから決めていた通りであろうとする余り、緊張で髪の先まで強張る実感。


 我が家と言え、女子が眠る部屋に男子が出入りするのはどうかと思う。

 しかし彼女からは目を離せず、しかし智尋さんと未音さんにも限界はある。

 実力と実績の積み重ねで頼れる存在たり得るのに、引き籠もらせては本末転倒。


 一方俺は、〝学校へは外国での心労が癒えてから〟と配慮されている自由人。

 例の国との関係をおもんばかって貰っているのか、腫物はれものに触るが如くの待遇中。

 必然的に、消去法で二人がいない間は俺の担当となっていた。


 智尋さんへメッセージを送り追えたところへ、彼女の愛らしくも控えめな声。


「あ……あの……ここは……」

「俺、憶えてない?」

「その……あ……あ、あの時の……雪の中で……」


 精神こころの方も、あの大雪の中で見たこの顔を覚えていたなら取り敢えずは一安心ひとあんしん

 気遣い過ぎも気遣わせるから注意、他人ヒトと没交渉だった俺にはかなりの難度。

 未音さんに念を押された禁則事項を思いつつ、努めて平静に答える。


「ここは俺ん。チビたちが〝病院はダメ〟って聞かないからお医者さんの方に来て貰ったんだ」

「そう、ですか……あのコたちったら……あ! あの! 愛衣と愛彩は!」


 智尋さんに刷り込まれていた〝絶対禁止項目〟が、頭の中で炸裂。


「待った!」

「二人はどこですか!? 隣の部屋って! く……ぅ……」


 声を張り上げ跳ね起きようとした身体からだうずくまり、呼吸いきが荒れる。

 やがてゆっくりと、背中からベッドへ沈んでいった。


 呼吸もままならず何も言えない彼女に、俺にできる限りで優しく語りかける。

 未音さんの指導通りに巧くやれる自信などないが、やるしかない。


「ずっと寝てたんだから、少しずつ慣れたらいいさ」

「でも……私……」

「とは言っても、このままじゃ落ち着かないよなー」


 未だ危機的状態にある身体からだを思えば、主治医を待つべきとわかっている。

 だが精神こころ危機的ヤバいの当たりにしてしまっては、放っておけない。


 そもそも暗い部屋で得体の知れない男子と二人きりなど、俺の方が申し訳ない。

 想定はしたが、〝嫌がられるに決まってる〟と自嘲していた行為に及ぶのみ。


「じっとしてて」


 小さな小さな身体からだを、毛布ごと包んで抱え上げる。

 あの雪の夜、羽のような軽さに戦慄したはかなさは今もそのまま。

 手応えの無さと綺麗な顔が相俟あいまって、天使か妖精を見ているかのよう。


 萎縮しあらがえない彼女が、恐る恐る俺を見上げる。

 なるとわかって及んだ暴挙だが、怯えられていると思うと心が痛い。


 少女がを潤ませ、声を振り絞る。


「あ、あの?」

「チビたちのとこに行こう♪」





□scene:03 - マンション:双子の部屋



 ひとつのベッドで絡まり重なり眠る、愛らしいパジャマ姿の幼子おさなごたち。

 どの客間にもベッドは二台、しかし二人はまだ人肌恋しいお年頃。


 双子は髪を下ろすと俺には見分けがつかない。

 灯りがあればパジャマの色で判別できるが、今は無理。

 大の字で大口から涎を撒き散らす方が、いつも快活な愛衣だろう。

 その下敷きになって可愛く丸まるのは、いつも大人しい愛彩に違い無い。


 姉にかばわれやつれるだけで済んでいた妹たちは、もう十分に元気。

 起きている間は姉の側にいるか食べているかで、食欲は日に日に増している。

 顔色もすこぶる良く、こうして眠っていると街で見かける幼子らと変わらない。


 腕に抱いた毛布の中で、少女が肩を震わせる。


「愛衣……愛彩……よかった……生きて……ひくっ……うっ……」


 彼女の顔から緊張がけ、毛布越しに手脚も緩んでいくのがわかる。

 この小さな身体からだで、壊れた手脚で、どれだけの間耐えていたのだろう。


 妹たちを起こさないよう、少女に近すぎないよう顔を寄せてささやく。


(お医者さんも〝もう大丈夫〟ってさ。毎日たくさん食って寝てまた食って、元気になってってるよ)


 察した少女が、笑顔を上げてささやき返す。


(ありがとうございました。何てお礼を言っていいのか……)


 だが次の瞬間、愛らしい笑顔が曇り声も暗く沈む。


(あの、お金ならあります、少しだけですけど。足らない分はいつか必ず……)

(気にしないで♪ 俺、ひとり暮らしだから可愛い妹ができたみたいで楽しいし♪)


 目覚めてその台詞せりふは予想の範囲、未音さんに言われていた通りほがらかに。

 胸の奥が張り裂けそうだが、表情かおに出ると別の意味に取られかねない。


 そして凍りかけた空気をほぐす、生きている証。


『ぐー』


 彼女は照れとを思わせる困惑した表情かおで、うつむく。


(あ、あの、すみません、大丈夫ですから……その、お水をいただけませんか?)


 確かに喉も渇いているのだろうが、その音でどうして〝水〟を求めるのか。

 何を考え何におびえているのか、思い付く全てが切ない。


 あらかじめ決めていた手順ルールを思う前に、自然と優しい表情かおであろうとしていた。


(いいよ。キッチンに行こう)





□scene:04 - マンション:リビングダイニングキッチン



 足下から頭上まで届く大窓がある、広大なLDKリビングダイニングキッチン

 ダイニングまで歩き、彼女を毛布に包んだままキッチン側の椅子に座らせる。


 伯父貴ご自慢の眺望を目の当たりにできる特等席だが、大窓は黒い壁面の如く。

 時計を見るともうすぐ日の出、だが近頃の悪天候を思えば期待はできない。

 気を取り直し、ここに来た第一だいいちの目的に取りかかる。


「ちょっと待ってて。お医者さんにいきなり冷たいのは駄目と言われてるから」


 ミネラルウォーターを少し沸かしてぬる白湯さゆにし、コップに注いでテーブルへ。

 彼女は毛布からゆっくりと手を出し、恐る恐る手に取った。


「ありがとう……ございます」


 少しずつ、自分の身体からだを探るように飲みながら……俺を観察している。


 異性どころか他人ヒトを意識しなかった俺が、綺麗な女子に見つめられる異常事態。

 それが見知らぬ男子を警戒してとわかっていても、平気でいるのは難しい。


 極度の緊張で、頭痛に目眩めまいと吐き気で蹌踉よろける寸前……


『ぐー』


 小さく愛らしい音にほぐされた。

 再び照れとで焦る彼女。


「あ! あの……」


 必死に呼吸いきを整え、何でも無いような表情かおで微笑む。


「仕方ないよ。ずっと寝てたんだし胃の中は空っぽだろうさ」


 俺の役割は〝閉店後の監視カメラ〟で、部屋での日常はわからない。

 食事に関わるものを見ていないから、栄養は点滴に頼っていたのかもしれない。


 彼女はコップを置くと、姿勢を正して俺に向く。


「あの……さっきの部屋に戻っていいですか?」


 見ず知らずの怪しい野郎から解放されたいとの訴えは、当然で必然。

 だが二度も窮状きゅうじょうを訴えられながら、水一杯で終わっていい常識ルールを俺は知らない。


 近頃愛用となっていたエプロンを手に取り、キッチンに向かう。


「その前に少しだけ付き合ってくれない? 味見ぐらいしてってよ♪」



                 *



 鍋を温めただけだから待たせた時間は極僅か。

 彼女の前に平皿とスプーンを並べ、新たに湧かした白湯さゆも添える。


 困惑と警戒の表情は想定の内。

 〝嫌がられて嫌われても役目を果たせ!〟と心に言い聞かせて平静を装う。


「俺がつくったんで味は……でも医師せんせいに〝悪く無い〟って合格貰ってるから大丈夫、多分!」


 極めて薄味で、常温より僅かにぬるいシチュー。

 彼女の身体からだを考慮したレシピに基づく、俺の自作。


 双子の食事を担当すると、このも気になって当然。

 五感をも痛めつけられていた彼女には、相応の配慮が絶対必要。

 しかし未音さんは壊滅的で郷里さんは基本生食、智尋さんに余裕はない。

 自信など皆無、しかしこれも必然的且つ消去法で俺がどうにかするしかなかった。


 生きる事に無関心だから、自炊はお湯をそそぐか電子レンジの使い方を知る程度。

 幸い多忙すぎる智尋さんを見かねた極めて優秀と聞く娘から、レシピが提示。

 俺とは違うタイプのヒト嫌いらしく、直接は連絡も調理も拒否されたが。


 以来、妹たちの食事を用意する合間に鍛錬を重ねる日々。

 満足の域にはほど遠いが、いつ必要になってもいいように用意はしてあった。


 彼女が不意に強張り固く目を瞑るのは、きっとお腹が鳴るのを防ぐため。

 しずめたいならスプーンに手を伸ばすしかない。


「あの……いただきます……」

「召し上がれ♪」


 スプーンの先だけをシチューに浸し、ふるえる手でくちへと運ぶ。

 脳裏に噴き出す数多の否定的予想で逃げ出したいが、表情かおには出せない。

 食べる事を強要せず遠慮させないためには、事も無げな風でなくてはいけない。


 涙が一滴ひとしずく、彼女の頬を伝い落ちていく。


「あ、熱かった? 少し冷まそうか?」


 思わず漏れそうになった〝不味かったら無理しないで〟は、無理に呑み込んだ。

 それは彼女の前に〝遠慮する〟なる選択肢を浮かばせかねない、絶対禁句。

 ではどう言えばいいのか、ヒトに無関心だった俺にわかるはずがない。


 何も言えず、呼吸いきすらままならない俺を見上げた泣き顔は、微笑んで見えた。


「いえ……美味しいです……美味しくて……ずっと忘れてて……思い出して……」

「そ、そうか……くちに合ったんなら良かった♪」


 だが数杯すすっただけでスプーンを置き、膝に手を置いてうつむいた。

 数瞬待って、意を決した風に俺を見上げる。


「あの……どうして……どうして私にこんな……どうして……」

「雪ん中で困ってたが暇な野郎と出会ってなった。〝縁〟って言うのかな? 〝袖すり合うも多生の……〟って言うだろ?」

「でも……」

「目が覚めたらいきなりだし、ワケわかんないよな。詳しい話は追々。もうすぐお医者さんが来るから、専門的な質問はそっちで頼む」

「でも! 私がいたらご迷惑が!」


 郷里さんに聞いた話から〝迷惑〟の内容は想像がつく。


「ここ、正確に言うと叔父の家なんだけど年中仕事で世界中飛び回ってるヒトでさ。今もそんな感じで、留守を任されてる俺が好きに使っていい事になってる。その俺が勝手に連れてきたんだから、遠慮は要らないよ」

「でも!」

「俺が入れなきゃ誰も勝手に入れない仕組みになってて近づけないとこにあるから、何が迷惑なのか知らないけど、気にするこたぁないさ。まぁ、俺の存在が〝迷惑〟なら〝ごめんなさい〟と言うしかないんだけど……はは……」

「そんな……あの……に……いても……いいんです……か?」

「せめてお医者さんが許してくれるまでは我慢して貰わないと、俺が怒られそう」

「そうじゃ……なくて……」

「言いたい事は、わかる」


 わかるから、とぼける。


「名前も知らないこんな野郎んじゃ落ち着かないよなー。でもさ、双子の相手してくれてるちょっと? 年齢とし上のお姉さんも一緒に住んでるから安心して♪」


 身体からだが危うい間はもちろん、虐待者が正体不明のままでは伯父貴の城塞が頼り。

 しかし〝同い年齢どしの男子と同居〟が精神面に及ぼす悪影響も、当然懸念。

 そこで、比較的自由度の高い未音さんが寝泊まりするプランを提案。

 〝会社に近いし家事フリーで呑み放題♪〟とこころよく承諾しやがった。


 話が噛み合わず、会話が途切れた隙を伺い自己紹介。


「因みに俺は楠原悠佑くすはら ゆう

「わ、私……日向愛里沙ひなた ありさ……です」


 ふと、彼女がつぶやく。


「綺麗」


 俺を指した言葉でないのは、ヒト並未満を自認する俺自身がよく理解わかっている。

 事実、彼女のは遠くを見ていた。


 そのままふわりと椅子から降りる。

 聞こえるのは、包んでいた毛布が落ちる衣擦れの音だけ。

 天使の羽が漂うように音もなく、滑るように窓際へと歩いて行く。


 大窓の外、遙か彼方から昇る数週間ぶりの朝陽。

 風に舞う粉雪がを受け、世界が目映まばゆい光に満ちていく。

 夜明け前のあおさを彩り踊る虹色の煌めきは、神秘的で幻想的。


 だが俺には初めて見る笑みこそ尊く、他はどうでもよかった。

 彼女が広いリビングを歩く間、〝禁止事項〟に気付かなかったのがその証拠。


「待って!」

「ご、ごめんなさい……」


 反射で出てしまった声が、彼女を萎縮させてしまった。

 後悔と自責の念で消えたいが、その前にやるべき事がある。

 彼女をいやす役目はカミサマに譲り、俺は俺の役目を果たそう。

 足下に落ちていた毛布を手に取り、立ちすくむ彼女のもとへ駆け寄る。


「あ、あのさ? 窓の側は寒いだろ? 足下から冷えるしさ。でも……」


 力加減などわかるはずがなく、とにかく優しく包んで抱き抱える。

 そして俺的に一番いちばんの眺望を楽しめると思う、最良の位置ベストポジションへ。


「これで大丈夫」


 直感の通り、思った通りを続けて彼女が目覚める瞬間ときまで来れた。

 戸惑い萎縮されて当然なのは切ないけれど、今は沸き上がる想いに従おう。


 朝陽と粉雪の煌めきに照らされた綺麗な顔が、俺を見上げる。

 腕の中が温もりを増し、てつかせていた氷が溶けていくかのよう。

 怖れと戸惑いまでもが和らいで見えるのは、気のせいでなければと願う。


に……いてもいい……ん……ですか?」

「暖かくしてれば」


 世界のきらめきを映すが、〝そうじゃなくて〟と言っている。

 吸い込まれるような感覚に捕らわれ、目を離せない。


 無意識に顔を寄せていたと気付いたのは、腹とすねに大打撃を喰らった瞬間。

 腿に飛びつき、よじ登る愛衣。


「お姉!」


 腹にタックル、そのまま姉にすがり付く愛彩。


「お姉ちゃん……よかった……起きた……」


 俺の腕と肩にしがみつき、毛布にくるまる姉を覗き込む妹たち。

 差し出された頭を撫でながら、涙ぐむ彼女。


「愛衣、愛彩……ありがと、心配してくれて」


 姉の泣き顔と言葉に感極まり、涙と鼻水にまみれ泣きじゃくる妹たち。


 情緒不安定への対処は聞いていたが、現実は聞いていた状況といささか異なる。

 永くヒトに無関心だった俺に臨機応変など不可能、困惑するばかり。

 できるのは、泣き続けるルートから外れるように誘導するぐらい。


「みんな起きたし、朝ご飯にしようか」


 まだ夜が明けた直後、いつもこの時間というわけでもない。

 だが双子の体力回復を第一だいいちに、起きている間は望むままに食べさせている。


 目を輝かせて足をばたつかせる愛衣。


「ホットケーキにバナナとシロップ乗ったやつ! あとあっまーいココア!」


 目を閉じ頬に手を添え、うっとりくねくねする愛彩。


「イチゴが乗ってるといいなぁ」


 全力で格好を付けた表情かおと声でこたえる。


「任せろ」


 所詮は俺だが、世間を知る前の幼女たちの目には頼もしく映るらしい。

 飛び降りた二人はキッチンへ突貫、自分たちの食器を取り出し並べていく。


 二人の食器には、それぞれ同じ女児向けアニメに登場する別のキャラ。

 それは、一目見て〝無理〟と判別を諦めたヒロインたちが闘う魔女っ子もの。

 二人が推すのは主役ヒロインではない脇役たち、そんな需要で稼ぐための数と思えば納得。


 俺に椅子へ座らせられるままの姉が、慌てて狼狽うろたえ見上げてくる。


「まだ早いのに、いいんですか?」

「朝陽が見えるし朝飯の時間と思えば全然普通。夜中に〝お腹空いたー!!〟って、叩き起こされるのに比べりゃ。それも慣れてきたけどさ」


 驚愕しつつも頬を染める彼女。


「そ、そんな事を……」


 それは哀しみではなく恥じらいのそれであり、ルート変更は成功の模様。

 テーブルに着きワクワクが止まらない妹たちには、姉も微笑むしかない。



                 *



 準備は材料を機械で混ぜ合わせるだけ。

 フルーツはパッケージから出せば終わり、シロップは既製品。

 仕上がりは雑でも個性あじになる、焼いて乗せてかけるだけの簡単なお仕事。

 量が多くて大変だが、やつれていたらが食べる姿を見ればいくらでも頑張れる。

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