第11話 私の英雄

俺達は数日間走り続け、丘に着く。

小屋からは凄まじい殺気だ。

まるで何もかも、近づくのを拒絶してるみたいだ。


「あの殺気、クロが放っているのか、」

「近づくのも一苦労だな、」


俺はアランとメイリィに言う。


「ここは、俺一人で行かせてくれ。」

「はぁ!?なん…」


メイリィが文句を言おうとしたが、アランがそれを止める。


「キラ、大丈夫なのか?」


アランが聞く、俺は答える。


「クロを信じる。」


するとアランは俺の背中を押す。


「分かった、でも二人で戻って来たら、ちゃんと俺達にも話しさせろよ。」


俺は深く頷き、覚悟を決める。


「あぁ、絶対に、絶対に二人で戻って来る!」


一歩、前に出るごとに空気が重くなる。

近づくごとに体が思うように動かない。

扉の前に立つと、心臓が止まりそうだ。

それがどうした?クロがまた俺達の前で笑ってくれるなら、心臓なんてくれてやる!!

俺は扉を開けた。

クロは壁に寄りかかっている。


「クロ…戻ろう」


数秒の間が空き、クロは俯き、言う。


「嫌だ…」


俺は優しく言う。


「何で?」


クロが答える。


「何で…て、分かるだろ?私は君達を傷付ける

からだ、もう話ことはないよ。」


俺は真剣に言う。


「いいや、全く分からない、クロは戻って来る。」


クロが言う。


「そんな事は、…ないよ、私が決めたから、戻らない、もう誰も傷付けたくない、何も見たくない。」


クロは蹲る、俺は歩きながら言う


「いいや違う、それはクロの本音じゃない。」


クロは拒絶する。


「いや、これが私の本音だ、早くみんなのところに行きなよ。

君の事を待っているんだろ?

私なんかより、もっといい仲間を見つけなよ、私の代わり、いや、もっといい人を。」


俺はクロの前にしゃがむ。


「クロの代わりなんて、居ない。」

「居るよ。」

「居ない。」

「居るってば。」

「絶対に居ない。」

「絶対に居るよ!!」


クロが叫ぶと黒い斬撃が俺の頬を深く切る、血が出てくる。


「ほら、やっぱり私は、君を傷付ける、私が一緒にいる資格なんて、」


俺とクロの目が合う。


「やっと、顔を見れた。」

「えっ?なんで…そんなに、私を。」


クロが顔を反らそうとする。

俺は優しく、力強く言う。


「クロ、俺の顔を見てくれ。」


クロは少し俺の顔を見る。


「やっぱり、クロは分かってない、今、クロが、自分がどんな顔をしてるかを!クロは悲しい顔をしているよ、寂しくて、苦しくて、自分の言った事を後悔している。

一緒に居る資格が無いなんて言うな。

自分に代わりが居るなんて言うな。

俺には…いや俺達には、クロだけだ!」


クロは我慢していたが、大粒の涙が流れた。


「なんで?、なんでそんなに私の…事を、」

「なんで、って……俺は、俺はクロのたまに見せる笑顔、甘い物が好きでメイリィのお菓子を食べちゃうところ、いつもは冷たい様に見えるけど、ホントはみんなの事を一番心配してるところ、そのすべて、その全部が、俺は、」




「好きだから。」



クロは泣き崩れる。

だけど、俺の顔を見てくれてる。


「またみんなと旅の続きをして、またみんなと笑って、この最高の仲間で、また歩こう」


クロが聞く。


「私がまた傷付けたらどうするの?」

「そんなの、俺達が強くなって止めてやる。」


クロの頬に手を当てて、涙を拭う。


「もう一度聞くよ、クロの本音は?」


クロは言う。


「もう、分かっているんでしょ、」


俺は笑う。


「あぁ、わかってる」


クロは深呼吸して、伝える


「私は…またみんなと…キラと旅がしたい。」

「そうだよな、それじゃあ!」


キラは私の手を強く、でもそれよりも優しく握り、扉に向かって走る。

扉を開け、眩しい光が私達を照らす。

遠くにはメイリィとアランが手を振っている。

それに向かってキラは手を振りかえす、この優しい笑顔が私を救った、また踏み出せた、キラは、



私の英雄だ。

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