第54話 2人の関係は!?

「その時は、命からがら助かったけど……総魔力は殆ど減ってしまった。今は少し回復したけど、これでも全盛期の4割ってところね」


「4割……そ、そ、そ、そんなオーラ放っておいて?」


「あぁ……そういえばアナタ(セレナ)、私の魔力が見えたのだったわね。これでも弱体化してるのよ? 知らなかった?」



 現在のエリスは怪我の影響で弱体化していた。この事実をセレナへと語る。



(……あぁ、そういうことか。あの時の……初めて彼女と出会った時のあの怪我は……勇者に……)



 ただ……側から聞いていたカイルは1つ分かったことがある。エリスが口にした『1年前』とは、彼女と出会ったタイミングと同じだ。それはカイルが彼女を介抱して助けた時とも一致する。

 魔王ともなる存在が、一体なにによって腹に穴を開ける怪我を負ったか、ずっと不思議に思っていたカイルだが……これでようやくその答えに気づくことができた。



「と、ところで……あなたと、か、カイル様はどんな関係なんですか? さっきから親しく話してますが? それに一緒に行動をともにしてたと昨日は見受けましたが……」



 ここでエクレが口を開いた。まだ声もカラカラで喋りにくそうだが……エリスの上げた条件には“カイル”の名もあった。これを不思議に思うのは当然だ。



「——そ、そ、そうです! カイル様! どうしてあなたが魔王と一緒にいるんですか?」


「——え!? えっと……」



 セレナもこれに続いて質問をする。カイルはこの時、身体を跳ねさせ驚いて見せた。今まで意識散漫で言葉を失っていたことにようやく気づき、視線はセレナに向ける。



「こ、行動をと、と、共にしてたということは……い、一緒に旅をしていたということですか!? ま、魔王と……!! これはどういうことですか?! なんで、そんな……」


「……それは……」



 セレナはカイルを問い詰める。魔王と行動を共にする。それは人族としての裏切りに近い行動であるからだ。


 これに、カイルは……



「それは……」


「それは?」


「えっとぉ……」


「……ッ? はっきりしてください!? 何か言いたくない理由があって?」


「そういうわけじゃなくて……」


「……? では、なんで言わないんですか!?」



 歯切れの悪い反応を見せた。というのも……



「エリス? 僕たちってなんで一緒に旅してたんだっけ??」


「「「……え?!」」」



 カイル自身、その答えを知らなかったからだ。


 聖女、騎士、魔王の驚愕に漏らした声がこの時偶然重なった。



「カイル……アナタは……」


「だって! エリスは勝手に馬車に乗り込んで来て、理由を聞いても教えてくれないじゃん! そういえば知らなかったよ——僕!」


「はぁ……まったく……理由は勇者よ」


「ゆうしゃ? エリスの腹に穴を開けた?」


「えぇ……」



 彼女と1年近く旅路を共にしたカイルだったが、今更ながらに理由はわからずじまいだった。

 ただこの時をもって、彼女はようやく理由を語った。



「さっきも言ったけど私は弱体化してるの。これで勇者に見つかったらまず殺されるでしょうね。そこでカイル……アナタについて行くことでワタシの存在を隠そうと考えたのよ。旅商人なら、常に移動しているでしょうから見つかる可能性は低くなるでしょうし、人族に紛れることもできる。まぁ、そこの小娘に見つかってしまったけど……カイル、アナタの顔の広さには落胆するわよ」


「えぇ~〜……商人にとっては、顔が広いことは素晴らしいことだと思うんだけどなぁ〜〜?」



 それは全て魔族である自分自身を隠すため、そのためにカイルと共に旅をしていた。



「あ! そうだ。セレナちゃん……」


「——ッ!? は、はい! 何でしょうカイル様!」



 ここでカイルは何かを思い出したかのように声を張る。ここで呼ばれたセレナはビックリしてすぐさま反応をする。



「実は、セレナちゃんからもらった薬。あれ使っちゃったんだ」


「薬? 多鏡薬ですか? ——ッハ!? カイル様! 何処か怪我でも! それとも病気!!」


「いや……実はエリス……この子の治療に……」


「——ニャンですって!!??」



 カイルがこの時口にした言葉にセレナは慌てて叫ぶ。あまりのことに声が裏返ってしまっている。



「カイル様が……魔王の治療に……な、なんで……」


「いや、だって……苦しんでる女の子を見過ごせなかったから……」


「——ッ!? カイル様……あなたという人は……どこまでお優しいのです? お人好しが過ぎますよ」


「ごめん……」


「謝らないでください。そこがあなたの良いところなんですから……」



 セレナは1つ、はぁ~っとため息をついてジトッとカイルを見つめる。居た堪れなくなったカイルはゆっ〜〜くりと視線を外した。



「で——聖女? アナタはワタシの条件を飲むの? もしアナタが勇者を呼ぶ素振りを見せれば、見境なしに多くの人間を殺す。アナタ達2人も含めてね。で……どうするの?」



 ここで、腕を組んで2人の会話を傍観していたエリスは聖女に問う。



 彼女の選択を……

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