第53話 アナタの返答次第よ
「どきなさいカイル——ワタシは聖女に用があるって言ったわよね?」
だが、エリスはつまらなそうにカイルを見た。
「でも……エリスはセレナちゃんを殺すって——!」
「えぇ……殺すわよ? だって、聖女は私達魔族にとって厄介な敵だもの。こんなチャンスまたとないでしょう?」
そして、彼女の口からは理由が語られる。どこまでも合理的で、魔族的な考えだ。
聖女は人族勢力の筆頭——エリスが手をかける理由がある。
「だから、退いて——カイルアナタも殺されたいの?」
「……ッ!?」
だが、それはお人好しのカイルは許容できない。今まさに目の前で、知り合いが知り合いを殺そうとしてる。これを黙って見過ごせなかった。結局、只人のカイルが2人の間を割って入ったとしても……エリスの力の前では無意味——説得をしたところで合理主義の彼女には響かない。それでも、カイルの身体は勝手に動いていた。
「でも、ダメだ——お願いエリス……やめてくれ……」
「……はぁぁ、そういうのいいから面倒くさい。分かったは、なら覚悟してよね?」
しかし、カイルの説得虚しく、エリスの歩みを止めることは叶わない。そして、目の前——彼女はすぐカイルの目と鼻の先へと来るとゆっくりとエクレを掴む腕とは反対の手を振りかぶった。
そして……
「——ッあイタ!?」
スパンッ——とカイルの頭を引っ叩いた。
「……え? ……え??」
「——か、カイル様!!??」
カイルの頭に疑問符が張り付き、セレナは目を丸くして驚く。
「話は最後まで聞きなさい。殺すと言っても……聖女、アナタの返答次第よ」
「……え?」
エリスは頭を抱えるカイルを腕で押して、横へと履かせると、セレナに向き直る。
「あなた、『聖璧』張ってるでしょう?」
「——ッ!?」
「気づかれないと思った? まったく、厄介な魔法よね」
「……そ、そうです。私は、自身の身体に魔法による障壁を張っています。だから、あなたが私を傷つけることは……」
「……できるわよ?」
「——ッえ!?」
「私が本気を出せばね。ただね。それをしてしまうと非常に面倒くさいのよ」
セレナは最初はオドオドとしていたが、『聖璧』と——エリスが口にすると自身満々の態度を取った。しかし……次のエリスの言葉を聞くと、再びカタカタと震え出す。
その時……
「——ック!? ……ゲホ、ゲホ……!」
エリスはエクレを放り投げ解放する。しばらく、首を掴まれていた弊害か……彼女の咳き込む様子が確認できる。
「——ッ!? へ、返答次第って……? 私が聖璧を解除しないとみんなを殺すとか……?!」
「ダメです。聖女様……ゲホ、ゲホ……そ、そんなことしては……!?」
エクレの苦しそうな反応を見て、セレナは1つ仮説を立てて聞き返す。魔王は己の本気を出したくないがために聖女の魔法を故意に解かせようとしていると……
だが……
「……ブッブ〜〜ハズレよ」
「……え?」
エリスは否定した。おちゃらけた雰囲気を纏ってヤレヤレといった様子で。
「私はあなたと取引をがしたいのよ」
「……と、取引?」
「そう……私とこの男、カイルを見逃すこと——これが取引よ」
「……え?」
「もし、これを断るんだったら……そうね。あなた達を含め、この街の人間を全力で皆殺しにしようかしら?」
「——え!?」
エリスの出した『取引』とは理解に苦しむものだった。
「……何故、そんな取引を……?」
当然、理解できないと……セレナは聞き返した。何故なら、彼女の口にした『街の住民を皆殺し』との条件の
残虐だという魔王が出す条件としては不可解が過ぎるのだ。彼女の首を傾げた反応にも納得だろう。
「私は一応……アナタのその憎たらしい魔法の障壁を壊せるわ。ただ、それをしてしまうと勇者に気づかれてしまうのよ。おそらく……」
「……確かに……あの方は、強い魔族の波長に敏感です。この街と戦地との距離では……魔力消費量によって、おそらく気づく可能性はありますね」
「別に私がそれを実行してもいいのだけれど……結局勇者に殺されてしまう。聖女と同士討ちみたいなのはゴメンなの。死にたがりではないのよ? 私は……」
仮に、エリスが聖女の『聖璧』を壊し彼女を殺したとする。しかし、そうしてしまうと彼女の放った魔力に反応して勇者がこの地に駆けつけてしまう恐れがある。そして、エリスのこの反応からは、見つかってしまうと逃げることが不可能なのだと言ったるようなものだった。
カイルが聞いた話によれば……勇者とは魔王が寄ってたかってトントンの強さを秘めているそうだ。
それに……
「それにもう1ついい話をしてあげる。私、丁度1年前に勇者に殺されかけたのよ」
「……え?」
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