第36話 突然の再会と抱擁

 ギルドを訪れてから数日後——


 

「「「「「…………え?」」」」」



 街の壁門の前で、間抜けた声を互いに漏らす連中が居た。



 この日は、カイルがギルドに依頼を出した護衛と会う日だ。

 待ち合わせ場所は、街を取り囲む塀から、外部に出ていくために設けられた門の前。


 早朝、向かってみると——そこに居た冒険者は……



「僕の護衛って……あなた達でしたか!」



「「「「カイルさん!?」」」」



 カイルの見知った人物達だった。



「お久しぶりです。カイルさん」


「お久しぶりです。あの時以来……まさかまた会えるなんて……“メイソン”さん。あのぉ〜みなさん。お変わりないですか?」


「その節はどうも——あれから大した怪我もなく、冒険者家業を続けてますよ」


「——ッ! それはよかったです!」



 鎧を着込み背にロングソードと盾を背負った男がカイルに近づき挨拶を口にする。カイルはこれに嬉しそう反応を見せ、当たり障りのないやり取りを交わした。彼の名前は【メイソン】——カイルの依頼した護衛任務を引き受けた冒険者パーティーのリーダーを務める男だ。



「久しぶりね。カイルさん。また会えて嬉しいわ」


「アリシアさん! ええ、僕も嬉しいです」



 ついで、メイソンの背後から現れたのは、弓を肩にかけた大人びた女性——微笑みを見せつつ、彼女も挨拶を交わす。名を【アリシア】。このパーティーの斥候、狙撃手を務める女性だ。



「カイルさ〜〜ん! おっひさぁ〜〜!」



 続けて……猫獣人のサバサバ系女子。彼女の背中からは、巨大な槍の矛先が頭を飛び出して見えている。その実——槍のように見えているのは身長の丈を飛び越える槌——メイス使い【キャロル】。


 そして最後……



「ほらぁ〜〜シャルルっち! 君がイッチバン挨拶したいはずなのに!? なんで照れてるかな〜〜? ほら! はやくぅ〜〜♪」

「待ってキャロちゃん——まだ心の準備が——心臓バクバクでおかしくなっちゃいそうなの〜〜」



 キャロルに腕を引っ張られて出てきたのは、低身長で青いローブを纏い杖を握る少女。



「お、お久しぶり……です。か、カイル。また、お会い、できて……と、とっても……ううん……とってもとぉ〜〜っても! 嬉しいです!」


「僕も、とっても嬉しいですシャルルちゃん」



 ちょうど3ヶ月前ほどに遡る。


 森で魔物と交戦していた冒険者パーティーが居た。その内、魔法使いの少女は魔物に腕を噛まれ、出血多量に陥ってしまう。


 街からはまだ距離があり、回復魔法を使えるのは怪我を負った彼女のみ。意識がはっきりしてないため、魔法を使わせるには危険……だが、薬草、回復薬の類は運悪く使い切っていた。



 絶対絶滅——彼女が救われる未来は皆無に思われてしまう。



 しかし……救世主が通りかかったのだ。



 惜しげもなく、自身の商品に手をつけ、足早に立ち去ってしまった1人の商人。


 

 ——それがカイルだった。



 そして……



 その時——彼のもたらした薬草で一命を取り留めたのが……



「あの時は命を救っていただき、ありがとうございました」



 頬を赤く染めた魔法使いの少女……【シャルル】であった。



「……か……」


「……? か?」


「——ッカイル様ぁああ!!」


「——ッ!? うわぁあ!!」


「おいおい、こらこら」

「あら〜あら〜」

「うわ。シャルルち〜ん——大胆〜♡」



 シャルルは紅潮させた頬と微笑みをそのままに、表情を輝かせ——カイルに飛びつき抱きついた。



「ずっと……こうしてお礼を言いたかったんです♪」

「わ、分かったから……お願い、は、離れてぇ——!!」



 カイルはこれに照れて慌てふためき、周囲は冷ややかな目でこれを見守っていた。



「ふふふ……カイル様って、照れ屋なんですね?」

「お、お、女の子に抱きつかれたら誰だって照れるでしょう!?」



 命の恩人との再会——シャルルの大胆な行動にも納得はできる。が——2人の取り巻く空気は見ていてこちらまで恥ずかしくなってしまうほど、甘色で染まっていた。





 ただ……





 そんな甘い空気感の形成はいいのだが……



 ここで、1人……忘れちゃいけない存在……



 いや、人物が……





「カイル……顔合わせにいつまで時間かかってるの?」


「——ッん? エリス?!」


「「「「「——ッ?!」」」」」



 カイルの背後より、白いワンピース、キャスケット帽を被る少女が姿を現す。



「……か、カイル様——そ、その子は……?」



 全員が一瞬凍りついた。全ての視線が少女に注がれる。


 シャルルはワナワナと震えながらも、恐る恐る少女を指刺し、その正体を尋ねる。



「え、えっとぉ〜〜この子はエリス……い、今——一緒に旅をしてて……」

「——え!? 一緒に、た、旅!! えッえッえ!! どッどッどんな関係で——!!??」

「——え!? 関係?! ——って言っても……」



 だが……カイルはシャルルの質問に困ってしまう。果たして、どう答えていいのかと……

 ただ、ここでカイルは不意にエリスの顔色を伺った。すると……相変わらず、無表情でかつ不機嫌そうなエリスの表情がカイルの瞳に映り込む。



「……何? その状況は……」



 が……その途端、エリスは辺りを一瞥する。それはカイル含め、顔合わせと題した冒険者パーティーの面々を吟味するかのように。


 すると……



「——ッ!?」



 最後にエリスはカイルの顔で視線を固定すると——「ニヤッ」と笑ったのだ。



(うわッ!? やな予感!!??)



 当然、カイルの中では最大限の警鐘を打ち鳴らし、何やら胸騒ぎがする。


 天変地異レベルと言っていいほど滅多にないエリスの笑顔——カイルがこれを不吉と思うのは必然だった。


 そして……彼女が笑う時は決まって碌でもない時に限る。それをカイルは知っていた。



「ま、待ってエリス……や、やめ——」


「申し遅れましたァ〜〜ア! 私〜〜こちらカイルの『』のエリスと申しまぁ〜〜す! 以後お見知り置きくださいませ〜〜!」


「「「「——妻ァア嗚呼!!??」」」」


「え、エリスぅ……なんだよ……遅かった……」

 


 これほど、エリスがハキハキと嬉しさに溢れた発言をした試しがあっただろうか……

 彼女は、カイルと冒険者面々の関係性が分からないにしろ、大体の状況は汲み取ったのだろう。頭の良い彼女だからこそ……カイルに抱きついたシャルルを見て、溜飲を下げたのだ。



 その時だ——



「——ッあ!? シャルルちーーん!!」


「「「「——ッ!?」」」」



 急にシャルルは蹌踉めき、ぽてッと倒れる。これにキャロルが気づいて悲鳴をあげた。








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