第31話 『晴れ』時々『盗賊』のち『血祭り』

——盗賊——



それは、法の秩序から逸脱し、旅行者や通行人の金品を強奪する者を指す。


好物は、女、子供……そして商人——


それは、彼らにとっての大きな益に繋がり目の色を変えて奪いにくる。


そして、もう一つの特徴——


盗賊は集団を形成する。


首領格を中心としてよく群れるのだ。










「——イヤぁああああああ!!」



「——ギャハハハ〜〜!! 商人〜〜荷物を置いてけぇ〜〜!!」



 カイルの馬車は、森の中を疾走する。その間、彼は叫び声を上げて——無常にも森林に響いて弾ける。



 そして、その後を素行の悪そうな男の操る馬があとを追う。



 盗賊だ——



「逃げたって無駄だぞぉ〜〜オラッ——!!」



「——ッヒヤ!!」



 盗賊は2人で一頭の馬に乗り、後ろの者が弓を射った。すると、それはカイルの顔のすぐ横を掠める。カイルの口は恐怖に慄く悲鳴を溢した。



「……はぁぁ〜〜カイル……うるさい」



 だが、そんな彼の背後には——「コイツは何騒いでるんだ?」と呆れて睨みを利かすエリスの姿が……盗賊に追われていようともお構いなしだ。まぁ、最強の彼女なら致し方なしの反応だ。



「いや〜〜悪かったっス——巻き込んでしまって〜〜!」



 しかし、この時——


 カイルとエリスの隣には、もう1人の存在が……カイルの荷馬車と並行するように疾走するもう一台の荷馬車。その御者台には若い青年が座っている。ベレー帽を被る茶色短髪の糸目の男だ。



「——悪かったって——軽くない?? 君が連れてきたんだよね!?」


「だ、だから……謝ってるじゃないっスか……いやぁ〜〜マジめんごっス♪」


「全然、謝ってるように見えないんだけどぉおお!!」



 元々、盗賊に追われていたのは“ベレー男”だった。しかし、その彼が逃げた先で運悪くカイルの馬車と鉢合わせてしまう。

 

 カイルにとって青天の霹靂——


 本来——盗賊や魔物を他人になすりつける行為は重罪である。だが、ベレー男はコレを分かっているのか——

 ただただ平謝りで……擦り付ける〜〜と言うよりは逃走は道連れッ——といったように並走してるのだ。



「ああ〜〜〜〜もう——鬱陶しい!」



 そんな時——荷台で寝そべっていたエリスは、煩わしそうに声を荒げ立ち上がる。激しく揺れる馬車に我慢の限界を迎えたようだ。


 珍しく眉間に皺を寄せ、盗賊を激しく睨んだ。



「——ッフン!!」



——ッザシュ!!——



「「「「お頭ぁあああ!!??」」」」



 エリスは高速飛来する矢を余裕で受け止めると、それを追ってくる集団に向けて投げつける。


 すると……


 先頭を走る中でも豪華な装備の男——その眉間に命中した。



「カイル——ちょっと煩わしいゴミを消してくるから——」

「——え!? エリス!!??」



 エリスはカイルに一言残すと馬車の上から消えた。


 次の瞬間——



「——オイ!! 女がひとりで——ギャァあ!!」

「オイ殺せ——ッグア!!」

「ヒィいい——助けてくれバケモノだぁああ!!」

「たかが女1人に——うわぁアアアア!?」



 と——走る馬車の背後からは断末魔の叫び声。


 その声の正体も、それを誰が発生させているのかも、カイルには当然すぐ気づいた。だというのに——彼は決して発起人エリスの心配なんてしてない。盗賊には悪いが魔王の怒りを買ってしまった。お悔やみ申し上げることしかできず、彼はただただ黙祷を捧げ——馬車をそのままのスピードで走らせることしかできなかったのだ。



「はぁ〜〜君の彼女、強いんスねぇ〜〜マジ、関心っス!」


「——あ、あはは……」



 ベレー男は、まさかの救世主に感慨の声を漏らす。カイルはコレに乾いた笑いを返すことしかできなかった。



「——はぁ……戻ったわよカイル」

「——ッ!? エリス!? 無事……って、ッギャァア!!」

「うるさい——カイル、あなたも死にたいの?」



 しばらくすると、カイルの隣からエリスの声が——音のする方へカイルが首を捻ると、そこには全身血まみれのエリスが……カイルから悲鳴が上がる。



「……少し、頑張り過ぎちゃった」

「でしょうね。だって……血まみれ……ウップ……」

「……? 人間の血を浴びるなんて日常茶飯事でしょ?」

「——そんな日常あってたまるかぁああ!!」


「あはは〜〜凄い彼女さんっスねぇ〜〜」



 こうして……



 突然の盗賊日和はエリスの血の俄雨で幕が降りたのだった。

 


 



 



 




 


 

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