第24話 貸せぇ〜〜い!

「こ……コレは、アースドラゴン!? ですか?」

「ああ、そうじゃ。これを解体するでの、解体場を貸せと言うとるんじゃよ」



 ダンジョンからドラゴンを運び出すこと数時間……バラされた竜の身体はギルドへと運び込まれていた。



 フー爺が仲間を連れて帰ってくると、その集団は目を点にしてアースドラゴンの骸に驚く素振りを見せた。だがしかし……そんな様子など、僅か数秒の話であり、少しの間を開けてファフナー解体チームのメンバーはすかさず解体手順についての思案を始め、各自相談を始めた。この光景はまさに解体のプロの現れ——


 この時、カイルは関心と呆れのどっちつかずな感情が芽生えた。


 そして……


 アースドラゴンの巨体は、そのままの大きさではダンジョンとなっている洞窟からは出せない。よって、竜を、頭、腕、足、尻尾……と部位ごとにバラし、外へと持ち出すファフナー解体チーム一団。自分達の馬車キャラバンのそれぞれの荷台に部位を括り付けると、近くの街まで運んできた。

 その間——道ゆく人達全員の視線を大いに注がれて……カイルは生きた心地がしなかった。


 こうして……



「貸すのは結構ですが……このアースドラゴンはどこで? その経緯をお聞かせ願いますか?」



 先ほどからフー爺は、受付嬢と思われる女性と何やら言い争っていた。別に、ギルドでは解体場の使用は基本自由で、手間賃を払えばギルド常駐の解体師に解体依頼だって可能だ。

 

 しかし……持ち込まれた素材に問題があった。


 

「たかがアースドラゴンを解体するだけじゃ? 何処に問題があるというんじゃよ」

「——アースドラゴンだからです! こんな脅威度の高い魔物をどこで倒したんですか!? 場合によっては一大事なことです!」



 アースドラゴンは「竜」である。竜とは危険度の高い生き物で……そう滅多にギルドに持ち込まれる素材ではない。だからか……ギルド倉庫に並べられたアースドラゴンのバラされた部位を……集まってきた大勢の冒険者や市民が取り囲み息を飲むように見入っている。それほど、人の興味を焚き付けるほど「竜」とは貴重であり……脅威であり……憧れでもある存在なのだ。


 それを……



「……あなた達は冒険者ではないそうですが……そんな方達がどうやったら竜を倒せるんですか? ッ——まさか……盗難では!?」



 受付嬢はフー爺の事を疑って睨む。


 フー爺は冒険者ではない。そんな人物が倒されてまもない竜の素材を持ち込んだのなら、それは懐疑的な視線を向けられても仕方ない。


 だが……フー爺は冒険者でないとは言え……



「……おぬし、“ファフナー”と言う名に聞き覚えは?」

「ファフナー? そんなの知りませんよ!? 誰ですか!!」

「なんじゃ……無知者じゃったか。ギルド関係者なら知ってるものと思ったんじゃがの……」

「——ッ!? なんですって!!」



 フー爺は受付嬢に対して煽るような言葉を口にする。コレに受付嬢は声を荒げて怒り出した。


 しかし……



「……オイ——“ファフナー”って……」

「——ッ!? あの“狩人鍛冶師”のファフナー? じゃあ、あのキャラバンは——」



 竜を傍観する冒険者の一部が「ファフナー」との名前を拾って、彼の正体に気づいたようだった。



「狩人鍛冶師って——あれだろ。世界を旅して回って、素材をかき集める鍛冶師キャラバン。ファフナーッてそのトップの……」

「ああ……それも、自分達で狩りもするもんだから……武力は兼ねた武闘派キャラバン」

「冒険者ではないが……メンバー全員が一流冒険者並みの強さを持っているとか……」

「やべぇ〜ホンモノか!?」



 と——


 1人2人が声を上げると、コレを拾った周囲の冒険者へと噂は伝染し……やがて周囲は騒がしくなる。



「……ッえ? ッえ!?」



 これは当然、ファフナーと受付嬢のいる場所まで喧騒が届く。これには受付嬢、たまらず慌てる素振り……彼女はただ知らなかったのだ。目の前の人物の偉大さを……



「……で? 解体場は使ってええんか? まだ、駄々を捏ねるのなら、直接ギルドマスターの所へ直談判に行くがぁ〜……」

「……あ、ははは〜……どうぞ、ご自由にお使いくださいませファフナー

「“様”は余計じゃ。じゃが、使って良いなら使わせてもらうぞ」



 すると……手のひらを返してゴマをすりだす彼女——突然に形成した笑顔は、無骨で引き攣り、頬に冷や汗が伝っていた。



「——ッオラ! 野郎ども、解体はじめっぞ! 各部位ごとに分かれて迅速に取り掛かれぇえ!」

「「「「——オス! 親方!!」」」」

「じゃあ……カイル、少し待っとれ、数時間で終わる」


「——ッ……うん。ありがとうフー爺」



 そして、一部始終……トントン拍子で話の進む現場に、まるで遠くでも見つめているかのように呆けるカイル。この時、フー爺が話掛けた事で、停滞したカイルの時間が動き出すかのように沈黙が破られた。



「なんじゃ……カイル? そんな呆けよってに……」

「あ……いや〜……フー爺ッて有名人だったんだって……初めて知って……」

「なんじゃ? 今更じゃな。あの娘っ子(受付嬢)と一緒なのかカイル——」

「ギルドとか……あまりこないし……」

「おぬしはもっといろんな情報に耳を傾けるべきじゃな。商人じゃろう?」

「……………はい、精進します」



 フー爺はそんなカイルに小言を残すと、大きな鋸を担いで、絶賛解体中の現場へと歩いていった。


 こうして、カイルは騒然とするギルド倉庫入口に1人取り残される。


 と——ここで……



「…………ん? そういえば、エリスは??」



 とある魔族少女の姿が無いことに気付いた。












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