第22話 お人よしの救済者
「素材を運ぶわよ。察しなさい……」
「……ッえ? エリスが運んでくれ……」
「——ッはぁあ??」
「——ッヒ!?」
エリスはただでさえ鋭利な視線を研ぎ澄ませカイルに突き刺す。
カイルはこれに怯える声を瞬間で零した。
「あなた……更に、ワタシを扱き使おうと?」
「あ……イヤ……」
「あとは、あなたに任せるから……頑張りなさい」
「え? これを……任せる?」
カイルは竜の骸を再度視界に捉え、頭の上に疑問符を貼り付けた。
この強大な素材を、カイル1人でどうしろと言うのか——?
「……分かってないって……顔してる」
「……ッ!?」
「アナタ、薬草を売った金があるでしょ……冒険者でも、何でもいいから雇って運ばせればいいじゃない? そのまま、ギルドに持ち込めば加工解体までしてもらえるでしょ。これぐらい思考しなさい。本当にアナタ馬鹿なのね」
「冒険者……」
エリスはカイルの思考回路の弱さにうんざりしつつ、それでもコレを想定していたかのように答えを教える。
だが、これにカイルは……
「でも……コレ(アースドラゴン)、竜だよ?? 冒険者に素材運搬の依頼を出すにしても説明どうしたら? 絶対、大騒ぎだよ?!」
そう……目の前の竜とは、脅威度で言えば天災級の存在だ。魔族を無しに考えれば、トップクラスのバケモノ……少女を連れた、ただの旅商人が「倒しました〜♪」で、気軽に持ち込む依頼ではない。
おつむの弱いカイルでも、これぐらい容易に想像がつく。
「そんなの私には関係ないわ。後は、アナタが考えなさいな」
「——ッえ?」
だが……これにエリスは冷たくカイルをあしらった。質問の答えを吐かない。疲れた〜——と言ったように、近場のいい感じの大きさのクリスタルに腰を落とした。
「早くしなさい……でないと……」
「——ッ!?」
ピュ——と、風が通り過ぎる音がした。するとカイルの襟足の髪の毛が……パラリと……切れて散るのが視界の端に写る。
もし……
この風が通り過ぎるのが数センチずれていれば?
カイルの脳裏に怖い光景が瞬間で焼きついた。
「すぐ……手配します」
「はい、お利口ね」
カイルは大人しく2つ返事を返した。これにエリスは満足そうに頷く。
「私はここで待つわ。早くしないと……もっと“言い訳”——できなくてなるわよ?」
「…………」
この時のエリスの発言では……カイルは可笑しなモノを目撃する。何故か、竜の骸の隣にもう一つの死骸が転がっているような錯覚が……早く手配を終え、エリスを迎えに来なければ、これが現実になってしまう予感を得たのだ。
そして、僅か半日——
街へと馬車を猛スピードで走らせ、手配を終えてエリスを迎えに行った。カイルにしては迅速な行動と交渉の手腕だと思うが、これにはワケがあった。
「オイオイ——こりゃ、アースドラゴンでねーかぁあ?!」
手配を終えて戻ってきたにも関わらず、カイルが連れて来たのは1人の低身長のオヤジ……いや、ドワーフだった。
「フー爺……実は、この魔物を解体加工して素材にしたいんだけど……できる?」
「オイ、カイル〜オメェ、誰にもの言ってやがる??」
「——ッあ、やっぱり問題が……」
「ドラゴンだろうが……この俺様と俺の仲間でもって容易く捌いてやる。このファフナー様に任せとけ!」
「——ああ、ありがとうフー爺!」
「いいってことよ——ガッハッハ〜」
彼の名前はドワーフの【ファフナー】……カイルはフー爺と呼んでいる。
カイルは依頼理由説明を億劫に思いつつ、ギルドへ向かう途中——とある偶然の出会いを果たしていた。
『カイル? オメェ〜カイルでねぇ〜かぁあ?』
『——え!? もしかしてフー爺??』
『おう……久しぶりじゃのぉ〜元気にしとったかぁ?』
街道を急ぐ道中——あるキャラバンが道いっぱいに広がる姿と遭遇し、そこのリーダーを任されていたのが……なんとこのフー爺……
彼は——カイルの“お人よし”による救済者の1人であった。
カイルは以前、需要の少ないマイナーな酒を大量に仕入れてしまうミスをした事があった。
それは、どこへ持って行っても全く売り先に巡り会えず——もう、ヤケになって自分で飲んでしまおうか? とも思い始めるほど、とんでもない取引をしてしまった苦い記憶。ただカイルは酒に弱いため、そんな冗談はさて置くとして……それでも、どうしようもない状況には変わりなく心底頭を抱えていた。
そんな時——カイルはフー爺と出会ったのだ。
『オイ——商人のにいちゃん。酒を売ってくれねぇ〜か?』
とある野営地で野営準備に明け暮れていると、これまた野営地利用のフー爺に「酒を売ってくれ」と声をかけられた。
カイルは、普通に喜んで酒を売れば良かったのだが、仕入れた酒が売れないのは酒の品質の所為だと決めつけていた。ただ実際は、その地域での特色とマッチせず、消費者に受け入れられなかったのが原因なのだが……
カイルは、粗悪な商品を売りつけることに罪悪感を覚えたのか——
『お代はいりません……あげます』
『…………ッは?? お主、商人じゃないのか??』
『商人ですよ……でも、あげます』
『…………お主……本当に商人か?! トチ狂っておるぞ??』
と——パッシブスキル“お人よし”が発動。そして、この事をキッカケにフー爺とは仲良くなった。
その後、フー爺から商人として、色々と依頼を受けるようになって、無駄に買わされた酒代の負債は無事に補填することができたのだった。
そして話は今に戻る——
「ちょっと良いかしらカイル……?」
すると、ダンジョンにフー爺を連れてくると、すかさずエリスが近寄ってくる。彼女の周りには数匹のトカゲ魔物の死骸が転がっていたが、もう一匹の竜が倒されるとんでも現場にはまだ発展していない。カイルはこの事に安堵した。
そしてエリスはカイルに質問があるように声を掛けるのだが……これと同時に……
「カイル? ワシからも聞きたいことがある」
フー爺も確認でもあるかのように話かけてきた。
すると……
「誰……この爺さん?」
「誰じゃ……この娘っ子?」
2人の声が重なった。
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