第20話 魔王VS竜
「——ッグォオアア!!!!」
アースドラゴンは少女目掛けて突進する。
エリスは魔族であっても竜と比べると小さな存在。このまま巨体の勢い任せて体当たりを受けてはひとたまりもない。
だが……
「ゆっくりとした突進だね? 本気でワタシと殺し合う気があるの?」
エリスはこれを宙を舞ってヒラリと躱わした。一瞬の風切り音を発したかに思えば、エリスの体は碧の風を纏いアースドラゴンを容易く飛び越えた。
不規則に揺れて、踊るように躱わす姿はさながら風に舞う木の葉のようだ。ただ木の葉にしては、舞っているのは美麗な少女だからか、カイルの瞳に写った光景は至って不自然……だが自然……まるで妖精が空中で舞を踊っているように雅な回避動作である。
「突進するだけしか脳がないのかな? 背中がガラ空き——風よ刻め『
エリスは竜を飛び越える最中——背中に狙いを定め自身の風の爪を振るう。
腕を交差させ、十字に斬りつけた。
だが……
「——ッ厶?」
ッガキィン——と風の引っ掻く音を残し、岩のように尖ったアースドラゴンの鱗の破片が周囲に飛び散る。エリスの顔には怪訝が張り付いた。
「——グァア?」
アースドラゴンは少女が視界から消えた事実と、背中を受けた衝撃を疑問に思いつつも——その実、大した緊急性を感じていないのか、ゆっくりとした動作でエリスの姿を探す。
エリスの風の爪の一撃だが……その一刀はアースドラゴンの鱗の表層に傷を付けただけだ。肉にすら刃は届かず、大したダメージを与えていない。アースドラゴンの様子を見ても、痒みを与えただけが精々か——
「——!? ——ッグォルル!」
アースドラゴンは身体を旋回させ、後ろに振り返る。すると、ちょうどエリスの姿を捉えるに至り——小さき分際で、生粋にも鱗を傷つけた一刀に怒り心頭。咆哮を上げて少女を威嚇する。
「——う〜ん……だめか。やっぱり弱体化している状態だと、竜は厳しいか……」
「——ッグォオアア!!」
「——ッ!? ッえ、エリス!!」
すると、アースドラゴンは今のエリスの攻撃で悟っているのか——少女を脅威とは微塵にも考えず、再び突進を繰り出す。その光景にカイルからはエリスを心配する悲鳴が上がり、竜の咆哮と共に洞窟内に悲痛に響く。
正直、カイルには先ほどの攻防やエリスの舞はまったくと言っていいほど目で追えていなかった。クリスタルの影から恐々と眺め——視界の殆どはアースドラゴンの巨体で一杯。だが……不意に上がった、ガキン——と、まるで硬質な物体を勢い任せに引っ掻いた音。カイルの鼓膜はこれを拾うと、地面に着地したエリスの姿を見た。何が起きたか理解できなくても、何をしたのかには思い至る。そして、その「ナニカ」がアースドラゴンに全く効いていない事だって……
(当たり前だよ……相手は『竜』なんだ。エリスが例え魔族で、その頂点の魔王だって言っても、彼女は数日前に森の中で瀕死の怪我を負ってたんだ。まだ全快じゃないんだよ。竜に挑むなんて無謀だったんだ!)
当然、カイルはエリスの不利を考えた。戦闘に関しては全くからっきしだが……それでも不味い状況なのは汲み取れる。常識的に考えた帰結だった。
「——ッグォオアア!!」
「——ッエリスーーー!!」
気づくと、カイルは竜の咆哮に合わせて彼女の名前を叫んでいた。当然、そこには少女の心配も含まれているが……アースドラゴンに追いかけられていたカイルを救った彼女の素早さがあれば、今からでもカイルを抱えてダンジョンからの脱出は十分現実的だ。カイルの悲鳴にはエリスの意識の誘導の意味も内包していた。
ただ……この時の彼にそこまでの考えが巡っているのかは——不明だ。
——ッドォオン——
「——ッ!?」
だが……カイルの悲鳴は虚しく響いただけ——願いは叶わず、アースドラゴンの巨体が少女を轢いた。
その間、エリスは迫り来る竜を避ける素振りがなかった。カイルの目からも轢かれた瞬間をしっかりと捉えてしまう。
竜の体が少女に衝突し……
鈍い音を残して……
止まったのだ……
「…………?」
——おかしい——
少しの思考が巡る時間を有しカイルの頭に以上の単語が張り付く。
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