第19話 ダンジョンへGO!? 後編
『でも、実際カイルは何を売って儲けを出すの?』
『えっとぉ〜薬草? とか——』
『それっていつになったらアレ(高級宿)に泊まれるの?』
『数十年後——?』
『ムリ——待てない。明日にして』
『無茶言わないでくれよ……』
カイルはエリスの無茶な我儘に、苦虫を噛み潰したような表情で顰める。
『もっとレートの高い商品を売ればいいんじゃない』
『高いって言ったって……薬草以外だったら日用雑貨ぐらいしか取り扱った試しがないし……最高レートとなると、“魔物素材”だけど、アレは扱いが難しい。価格変動が激しく動くから……って、そもそも仕入れるだけの資金源がない』
カイルが主に取り扱う商品とは『薬草』が『日用雑貨』。コレを小さな街や村を馬車で周り、売り捌くのが彼の商法だった。ただ、容易に想像はつくだろうが……商売の相手はあくまで一般市民。当然、儲けなんてそうあるものではなく、あくまでカイルのポリシーと、食い扶持を維持するための商売だ。
エリスと旅路を共にするようになってからは、さらに食事代が嵩み、正直言えばギリギリの生活。魔族は本来食事を必要としないらしい。彼女曰く、食事とは魔素(食材にもよるが)の吸収もかねているそうだが、それでも微々たるモノで……エリスに関しては、殆ど娯楽の分類の
それで、エリスから不意に上がった商品レートについてだが……
この世で最も儲かる商売は魔物素材の取引だ。魔物素材は強靭で丈夫、更に質感はしなやかで艶やかとくれば——素材としては最高級品である。武器や防具は勿論のこと、高級仕様の装束や装身具にも用いられる。
ただ……魔物は危険な生き物だ。魔族ほど脅威性はないにしろ、冒険者が一攫千金を夢見、こぞって狩りに出るのだが——その実、訃報もよく耳にする。高級品なのも納得だろう。
カイルは貧乏な旅商人であるため、当然「高級品」の素材取引など夢のまた夢。それに、魔物素材は値段の変動も激しいため、余裕のないカイルには『賭け』に近い商売だった。
『はぁぁ……分かったわ』
『——ッ!? ようやく分かってくれた?!』
エリスも、カイルの軽い解説で全てを悟ったのか、憂鬱にため息を吐く。
これにカイルは遂に納得してもらえたのかと、一瞬——安堵する。
そう……一瞬……
『なら、行くわよ』
『……はぁ?! 行くって……何処に??』
『そんなの決まってるでしょ?』
そこから、カイルはエリスに首根っこを掴まれ……
『ダンジョンよ』
追いかけられっコ——を興じる羽目になった。
「——ッグォオアアアアア!!」
「——イヤぁああああああ!!」
そして、街からほど近いダンジョンへと連れてこられたカイルは【アースドラゴン】と悲鳴セッションを興じた。
ダンジョンとは魔素(魔力の素)が洞や谷に溜まって魔物で溢れたエリアを言う。勿論、危険地帯だ。ただの旅商人カイルには厳しい地。
何故、ひ弱な彼がここに居るのかは……無理矢理エリスに連れてこられたから——始めは「危険だから行かない! 無理だ!」と当然の考えをエリスに投げたカイルだったが……エリスはこれに「ワタシ1人に行かせるなんて良いご身分ね? ムカつく」と言われ引きずられて来たカイル。これは決して比喩ではない。
ズルズルずる——と、本当に引きずられて来た。
そして、エリスはというと——
「ほらカイル。必死に走らないと食べられるわよ? 頑張って〜♪」
「——ッみッみッ見てないで助けてよぉお!! エリスぅーーーう!! 鬼ィイ! 悪魔ァア! イヤ——この、魔族ゥウウウ!!」
「……クフフ……いい気味♪」
「君——絶対、僕が「アホ」って言ったこと根に持ってるでしょぉおお!! ゴメンってばァアああ!!」
カイルから離れた場所。地面から生えた巨大なクリスタルの頂点に座り、カイルが必死に逃げ惑う姿に溜飲を下げていた。正しく魔族としての体現だった。
「——ッ!? ギャッア!!」
暫く、アースドラゴンからの逃避にカイルは奮闘していたが……ここで床の石に躓き盛大に転んでしまう。
「——ッグォオアア!!!!」
「——ッうわぁああ!!??」
そして、アースドラゴンはこの好機を逃さまいと、大きな口をかっぴらき、カイルを一飲みにしようと首を横に傾げながら飛びつく。
だが……
「ここまでね。まぁ、いいわ。沢山笑ったし、もう終わりにしましょう」
「——ッ!? え、エリスぅーーう!!」
アースドラゴンのカミツキは、大きく歯を打ち鳴らしただけ……結果だけ見ればカイルは無事だった。
瞬間的に現れたエリスに、カイルはお姫様抱っこされた状態でアースドラゴンの背後にいた。
「うわぁ~ン゙! エリスぅ〜う! ありがぁ……」
「……うざい。キモイ」
「——ッ!? ッッッ痛ぁ゙い!!」
カイルは何が起こったのか一瞬過ぎる出来事に疑問を表情に貼り付けたが、エリスの顔を捉えると泣き噦る。が……これにエリスは表情を顰めて地面に彼を放る。カイルは打ちつけられた痛みで転げながらに背中を摩った。
「邪魔だからどいててよ。死にたいなら一緒に刻むけど……」
「〜〜ッ……あ? ああ……分かった。後は頼むよ。てか、もっと早く助けてよ。まったくもう……」
「……ッん? ナニカイッタ?」
「イエ、ナニモ——後はお願い致します魔王様!」
カイルはそう言うと逃げるように岩の影に飛んでいき、エルスは視界の正面にアースドラゴンを捉える。すると、彼女は両腕に風の刃を光らせた。
「——ッグルルル!!」
「来なさいトカゲ風情。軽く遊んであげる」
「——ッグォオアア!!!!」
エリスが嘲笑すると、アースドラゴンはこの挑発を受け取ったかのように彼女目掛けて駆け出した。
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